秘書室で適当な仕事をさせるくらいなら、怜央も構わないと思っていた。だが、莉乃は納得しなかった。高学歴で仕事のできる女性というイメージを築いてきた彼女にとって、ただの秘書に甘んじるなど到底受け入れられなかったのだ。何度も揉めるうちに、怜央も疲れ果て、莉乃が泣いていても放っておいた。怜央の態度が冷たくなったことに気づき、莉乃は激しく腹を立てた。これまでずっと大切に扱われてきただけに、その怒りをぶつける先がなく、苛立ちを募らせていた。そのとき、晴翔が車までやってきて、小さな体で懸命にドアを開けようとした。「莉乃ママ、どうしたの?ぼく、莉乃ママに会いたかった」ただでさえ苛立っていた莉乃は、たちまち表情を変えた。鬼のような形相になると、いきなり晴翔の頬を平手で打った。乾いた大きな音に驚き、佐伯が駆けつけた。そして、床に倒れた晴翔を慌てて抱き起こす。頬には、くっきりと指の跡が残っていた。佐伯はすでに晴翔の出生について知っていたが、それでも驚きのあまり言葉を失った。とはいえ、余計なことを口にするわけにもいかず、声を上げて泣く晴翔を急いで家の中へ連れていった。莉乃がまた手を上げるのではないかと心配だったのだ。晴翔が莉乃の八つ当たりを受けただけなのは、佐伯にも分かっていた。晴翔の頬はひどく腫れ上がり、痛みでいつまでも泣き続けていた。子ども部屋は主寝室からそう離れていない。泣き声を聞きつけた怜央がやってきて、尋ねた。「どうしてずっと泣いてるんだ。また何か変なものでも食べたのか?」その言葉を聞き、佐伯は、怜央が昨夜の晴翔の体調について紗和に何も確認していないのだと悟った。怜央は昔から晴翔のこととなると、どこか投げやりだった。そのため、佐伯は事情を話せば、かえって怜央が晴翔を疎ましく思うのではないかと不安になった。言いよどんでいると、怜央は自分で部屋に入り、晴翔の様子を確かめた。そこで頬に残る指の跡を目にし、誰がやったのかは聞くまでもなかった。怜央は表情を冷たくし、佐伯に言った。「近くのクリニックに連れていって、薬を塗ってもらってくれ」佐伯はうなずき、晴翔を連れて出ていった。怜央は寝室へ戻り、ドアを閉めた。実の息子に、どうしてあそこまで強く手を上げられるのか。莉乃の行動が、頭から離れなか
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