伊織は淡く笑った。「もちろんだよ」紗和はカップを握る手に力を込め、深く息を吸った。「会社を動かせるだけの権限が欲しいんです。つまり、先生にお願いして、株を取得できないか相談していただきたいんです。絶対的な経営権までは必要ありません。先生に次ぐ大株主になれれば、それで十分です」紗和は、御堂ホールディングスで不当な扱いを受けていたことを話していなかった。ゲーム会社が上場した際には、中間管理職や幹部にまで株式が分配された。それなのに、怜央と夫婦であるという理由だけで、紗和には一株も与えられなかった。しかも婚前契約を結んでいたため、御堂ホールディングスの資産も紗和とは一切関係がなかった。先ほど紗和が迷っていたのは、本当は自分で会社を立ち上げたいと思っていたからだ。高校生の頃からゲームソフトの研究を続けてきた。この分野を心から愛していた。自分が作ったゲームを、より多くのプレイヤーに好きになってもらうことが、紗和の夢だった。だが、御堂家に尽くした挙げ句、用が済めば切り捨てられる。そんな目に、二度と遭うつもりはなかった。とはいえ、自分で会社を立ち上げようにも、際立った学歴もなければ、自分の名前で残した実績もなかった。そんな紗和に投資しようと考える者など、いるはずがなかった。それに、これまで技術一筋でやってきたため、人脈も築いてこなかった。伊織の存在は、紗和に希望を与えた。フォトンテックはすでに十分な規模を持ち、名門大学を後ろ盾として、豊富な資源と人脈も蓄えている。紗和の夢を実現するには、これ以上ない基盤だった。紗和は黙って伊織の返事を待った。伊織は、自分に次ぐ大株主として、会社の経営権を持たせてくれるだろうか。「いいよ。うちはまだ上場していないから、株を現金化したい人がいないか聞いてみる。今、いくら用意できる?」「4億円です」紗和は少し言いづらそうに答えた。伊織も意外に思った。紗和が費やした8年間の対価が、たった4億円だったとは。あのとき伊織の忠告を聞き、若くして結婚せず仕事に打ち込んでいれば、今頃こんなところで足踏みしているはずはなかった。「足りない分は僕が貸すよ。君は今、5%持っている。それだけでも決して少なくない。さらに20%取得すれば、会社で二番目の大株主になれる」
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