Lahat ng Kabanata ng 夫と息子に捨てられた私、大物の子を授かった: Kabanata 31 - Kabanata 40

100 Kabanata

第31話

伊織は淡く笑った。「もちろんだよ」紗和はカップを握る手に力を込め、深く息を吸った。「会社を動かせるだけの権限が欲しいんです。つまり、先生にお願いして、株を取得できないか相談していただきたいんです。絶対的な経営権までは必要ありません。先生に次ぐ大株主になれれば、それで十分です」紗和は、御堂ホールディングスで不当な扱いを受けていたことを話していなかった。ゲーム会社が上場した際には、中間管理職や幹部にまで株式が分配された。それなのに、怜央と夫婦であるという理由だけで、紗和には一株も与えられなかった。しかも婚前契約を結んでいたため、御堂ホールディングスの資産も紗和とは一切関係がなかった。先ほど紗和が迷っていたのは、本当は自分で会社を立ち上げたいと思っていたからだ。高校生の頃からゲームソフトの研究を続けてきた。この分野を心から愛していた。自分が作ったゲームを、より多くのプレイヤーに好きになってもらうことが、紗和の夢だった。だが、御堂家に尽くした挙げ句、用が済めば切り捨てられる。そんな目に、二度と遭うつもりはなかった。とはいえ、自分で会社を立ち上げようにも、際立った学歴もなければ、自分の名前で残した実績もなかった。そんな紗和に投資しようと考える者など、いるはずがなかった。それに、これまで技術一筋でやってきたため、人脈も築いてこなかった。伊織の存在は、紗和に希望を与えた。フォトンテックはすでに十分な規模を持ち、名門大学を後ろ盾として、豊富な資源と人脈も蓄えている。紗和の夢を実現するには、これ以上ない基盤だった。紗和は黙って伊織の返事を待った。伊織は、自分に次ぐ大株主として、会社の経営権を持たせてくれるだろうか。「いいよ。うちはまだ上場していないから、株を現金化したい人がいないか聞いてみる。今、いくら用意できる?」「4億円です」紗和は少し言いづらそうに答えた。伊織も意外に思った。紗和が費やした8年間の対価が、たった4億円だったとは。あのとき伊織の忠告を聞き、若くして結婚せず仕事に打ち込んでいれば、今頃こんなところで足踏みしているはずはなかった。「足りない分は僕が貸すよ。君は今、5%持っている。それだけでも決して少なくない。さらに20%取得すれば、会社で二番目の大株主になれる」
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第32話

紗和はすぐに、怜央が莉乃とモルディブへ旅行に行っているのだと気づいた。怜央が不在なら、退職手続きを進める絶好の機会かもしれない。怜央はこれまでずっと紗和を辞めさせず、莉乃のために働かせようとしていた。紗和が苦労してすべてを仕上げ、莉乃は何もしない。そして完成した成果だけを怜央が莉乃の実績として与える。紗和を副チーフエンジニアへ異動させようとしたのも、そのためだった。だが、もうそんなことに付き合うつもりはなかった。翌日、紗和は会社へ向かった。紗和が自分の席に座っているのを見た美咲は、悔しそうに歯を食いしばった。「莉乃さんが、あんたをここに残すつもりはないって言ってたでしょう?何しに来たの?そこ、もうあんたの席じゃないんだけど。いつまで座ってるのよ。自分がクビになったって分かってないの?」そう言いながら、美咲は水の入った共用の鉢植えを紗和の机の上へひっくり返した。黒い泥の混じった水が流れ出し、パソコンは一瞬で水浸しになった。紗和はすぐに立ち上がった。そのパソコンは、8年間ずっと使い続けてきたものだった。入社初日に、時間をかけて選んで買った。怜央と初めて出会った日の気持ちと同じように、紗和にとっては特別なものだった。仕事に対する期待も、家庭に対する期待も、同じくらい大切だと思っていた。だが今では、仕事は奪われ、成果は莉乃のものにされ、家庭まで莉乃に壊された。そのうえ莉乃は、自ら進んで手下になった女まで残し、紗和に嫌がらせをさせている。紗和は落ち着いた様子でティッシュを取り出し、机を拭きながら言った。「前にも言ったけど、退職届を処理してほしいの」美咲は鼻で笑った。「もう芝居はやめたら?あんたが会社のお荷物だってことくらい、みんな知ってるのよ。ここを辞めたところで、雇ってくれる会社なんてあるわけないでしょ。社会保険目当てでしがみついてるだけじゃない。お金がないだけならまだしも、根性まで卑しいなんて、よくそこまで恥知らずになれるわね」美咲は、紗和を徹底的にこき下ろした。だが紗和には分かっていた。自分が何を言っても、美咲は聞く耳を持たない。そのくせ莉乃の言うことなら、どんなくだらない話でもありがたがって受け入れる。そんな相手と話し合うだけ無駄だった。紗和は一枚の異動同意書を
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第33話

美咲はもともと紗和のことが大嫌いだった。だからこそ、すぐに取り繕うのをやめ、莉乃の側につき、ことあるごとに紗和へ突っかかっては、わざと不快な思いをさせていた。美咲は少し気持ちを落ち着けると、態度を変えた。「でも、辞めたいって言ってたわよね?私が退職手続きを済ませたら、この異動には同意しないってこと?」紗和は感情を見せずに答えた。「そうよ」「分かった。今すぐ手続きしてくる」美咲は名門大学の出身で、家にも人脈があり、グループ内にも伝手があった。紗和の退職には本来、社長の承認が必要だった。だが美咲が確認したところ、異動についてはすでに怜央の承認が下りているため、紗和が異動を拒否する書類に署名すれば、社内システムから退職申請を進められるという。あとは人事部が承認するだけだった。紗和が異動拒否の書類に署名すると、美咲はその日のうちに人脈を使って退職手続きを完了させた。紗和は退職証明書を受け取り、正式に御堂ホールディングスを辞めた。退職手続きが終わると、紗和はすぐに伊織へ連絡し、フォトンテックへ入社する日を決めた。紗和が会社に着くと、伊織はすでに入口で待っていた。「おかえり」紗和は笑った。伊織は紗和を社内のチームに紹介した。だが社員たちは顔を見合わせ、紗和の学歴を軽んじるような反応を見せた。伊織はこれまで、自分のチームに入るための条件をかなり高く設定していた。伊織自身、国内有数の名門大学で博士号を取得している。それなのに今度は、決して華々しい学歴とは言えない紗和を、チームを率いる立場に据えたのだ。社員たちの反応を、伊織はすべて見ていた。だが焦る様子はなかった。いずれ紗和が自分の実力を証明すると分かっていたからだ。紗和も、社員たちに歓迎されていないことには気づいていた。特に女性アシスタントの高梨香織(たかなし かおり)は、いつも妙な目つきで紗和を見ていた。その目には、自分を差し置いて上の立場に就いた紗和への怒りがあふれていた。だが紗和は気に留めなかった。入社してからは、ほとんど一日中フォトンテックにこもって仕事をした。社内のプロジェクトを一から整理し直し、技術部門の組織体制も見直し、いくつもの技術的な課題を解決した。毎日、オフィスを最後に出るのは紗和だった。
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第34話

今回のパーティーは、とても重要だった。しかし紗和は、出席するためのドレスを一着も持っていなかった。午前中、紗和は高級ドレスを扱うブティックを訪れた。店内では、数人のスタッフが一着のドレスを囲み、念入りに整えていた。紗和が近くまで来て、ようやく一人のスタッフが彼女に気づいた。「お客様、何かお探しでしょうか?」今の紗和には、それほど金銭的な余裕がない。少し気後れしながら答えた。「ちょっと回ってみます」自信のなさを見て取ったスタッフは、たちまち見下すような表情を浮かべた。態度も急に冷たくなる。「かしこまりました。何かございましたら、お声がけください」最低限の案内すらしようとしなかった。紗和は卒業してからずっと、怜央の会社で働いてきた。結婚後は怜央の世話に追われ、パーティーに出席する機会などほとんどなかった。だが、伊織がこれほど重視している以上、かなり格式の高い場に違いない。フォトンテックの顔に泥を塗るわけにはいかなかった。紗和はドレスに詳しいわけではないが、決してセンスが悪いわけではなかった。店内には数多くのドレスが並んでいたものの、時間をかけて選ぶつもりはなく、無難なものが見つかればそれでいいと思っていた。そのとき、店の中央でスタッフたちが整えていたドレスが目に入った。紗和は思わず足を止めた。目を奪われるほど美しいドレスだった。赤いベアトップのロングドレスで、胸元と腰には金色の花飾りがあしらわれている。細部まで非常に精巧に作られていた。マネキンの首元には、高価そうなダイヤモンドのネックレスが合わせられている。全体が華やかで、ひときわ強い存在感を放っていた。紗和は吸い寄せられるように近づいた。生地の感触を確かめようと手を伸ばした、そのときだった。触れるより先に、店長に止められた。店長は紗和の手首を強くつかむと、頭から足元まで値踏みするように眺めた。その表情から、紗和にこのドレスを買えるとは思っていないことがはっきりと伝わってくる。むしろ、冷やかしに来たのではないかと嫌悪しているようだった。痛みに顔をしかめて紗和が手を引くと、店長はようやく放した。「お客様、このドレスに施されている金色の花飾りは、すべて本物の金で作られております。価格は2億円近
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第35話

もともと目を引く容姿だったこともあり、紗和は大勢の招待客から視線を集めていた。紗和は事前にインターネットで東栄グループの責任者である相馬隆成(そうま たかしげ)の顔を調べていたため、このパーティーの主催者が隆成だとすぐに分かった。隆成は30代で、すでに事業で成功を収めていた。背が高く、華やかさと威厳を兼ね備えている。伊織とは以前から親しく、二人の姿を見ると、笑顔で迎えに来た。隆成が伊織と紗和に声をかけようとした、そのときだった。ホールの入口に、新たな招待客が現れた。相手の顔を確認した隆成は、思わず足を止めた。一瞬、自分の目を疑ったほどだった。会場にいたほかの招待客たちも同じだった。入ってきた人物を見るなり、皆が驚きの声を上げた。紗和と伊織は入口に背を向けていたため、何が起きたのか分からなかった。周囲の招待客が驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべているのを見て、紗和も不思議に思った。隆成は二人に申し訳なさそうな視線を向けると、そのまま脇を通り過ぎ、入口へ向かった。「御堂社長――」その呼びかけを耳にした瞬間、紗和の胸が大きく脈打った。誰が来たのか、すぐに察した。振り返った紗和の笑みが、わずかに止まる。そこにいたのは、予想どおり怜央だった。しかも、隣には莉乃もいた。怜央は、黒一色のダブルブレストスーツを身にまとっていた。ピークドラペルのジャケットの下には、同色のベストを合わせている。使用人が丁寧にアイロンをかけたスーツには、しわ一つなかった。以前の紗和は、怜央がスーツを着た姿が好きだった。もともと背が高く、肩幅が広く、腰は細い。長い脚も相まって、スーツを着ると、その恵まれた体格がいっそう際立った。紗和が男性に抱いていた理想を、すべて満たしているように思えた。だからこそ、紗和はさまざまなデザインのスーツを怜央のために仕立てた。高額なオーダーメイドも惜しまず、ボタン一つにまでこだわって選んだ。怜央の服はすべて紗和が用意していた。今日着ている一着も、以前、紗和が組み合わせを考えておいたものだった。だが、自分が心を込めて選んだ服を着て、怜央が別の女性とパーティーに出席することになるとは、思ってもみなかった。そして莉乃が着ていたのは、紗和が昨日ブティックで目に
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第36話

「大丈夫です」紗和は微笑み、静かに首を振った。最初は確かに胸が痛んだ。だが、その痛みもすぐにどうでもよくなった。大勢の招待客が怜央と莉乃のもとへ集まり、幾重にも人垣ができていたため、怜央はまだ紗和の存在に気づいていなかった。一方、伊織はずっと紗和から目を離さなかった。紗和は一見すると穏やかで儚げだが、芯はとても強い。愛することにも、憎むことにも迷いがなく、思い切った決断のできる人だった。自分の専門分野で興味を持ったことなら、純粋な情熱だけで、持てる時間も気力もすべて注ぎ込める。かつて学内で大流行したあのゲームも、紗和が幾度となく夜を徹して作り上げたものだった。伊織は当時、一目見ただけで大きな市場価値があると見抜き、売却を勧めたこともある。それでも紗和は、怜央をひたむきに愛し、自分の成果を惜しげもなく差し出した。当時の伊織は、胸の奥にわずかな苦さを覚えていた。紗和は怜央を愛し、自分のすべてを賭けて、その関係に飛び込んだ。今はもう、そこから身を引いている。払った代償はあまりにも大きかったが、伊織は紗和の目に後悔を見たことがなかった。だから、もう手放すと言った今の紗和を、伊織は信じていた。「何か飲む?」「はい」紗和は笑って答え、二人で料理と飲み物が並ぶ一角へ向かった。「お酒にする?」伊織が尋ねた。「そうします」紗和は酒を好むわけではないが、弱くはなかった。二人がグラスを合わせたところで、紗和は隆成の姿に気づいた。隆成はこちらへ歩いてくると、気さくに声をかけた。「伊織、さっきは悪かったな。ところで、こちらのきれいな女性は恋人か?」紗和が気まずそうにしたのを見て、伊織はすぐに否定した。「違うよ。君に紹介したくて、わざわざ連れてきたんだ」隆成は紗和へ視線を向けた。その目には驚くほどの美しさへの感嘆と同時に、疑問も浮かんでいた。確かに目を引く容姿で、雰囲気も独特だ。だが、いったい何のために自分へ紹介するのか。伊織がそういう軽い人間ではないと分かっていなければ、二人の関係を勘違いしていたかもしれない。「東栄グループで、今スマートホーム統合システムの開発を考えているだろう?住宅全体のオーダーメイドから、家中の機器の操作まで、一つのシステムでつなぐ計画だ。
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第37話

「二人で話してみれば、すぐに答えは出ると思うよ」隆成はすっかり興味を引かれ、まず紗和にいくつか要点を突いた質問をした。その受け答えから、Loverが確かに紗和の開発したものだと分かると、今度は自分のプロジェクト構想について話し始めた。二人の話は進むほどに熱を帯び、どちらも止まらなくなっていった。伊織は傍らでグラスを傾けながら、黙って二人を見ていた。最初から最後まで、一度も口を挟まなかった。隆成が紗和を高く評価していることは明らかだった。これならプロジェクトの話も順調に進む。場合によっては、この場で紗和に任せると決めるかもしれない。そのとき、伊織がふと顔を上げると、怜央と莉乃がこちらへ歩いてくるのが見えた。莉乃の高価なドレスは確かに美しかったが、身につけている宝石はあまりにも派手で、かえって本人の印象を薄くしていた。伊織は彼女を教え始めた頃から、あまり好感を持っていなかった。とはいえ、露骨に嫌悪を示すわけにもいかない。授業で顔を合わせるのも週に数回程度だったため、深く関わることもなかった。学生たちの間で、莉乃が「紗和の二番煎じ」と呼ばれていることは聞いていたが、それでも伊織には紗和のほうがはるかに好ましく見えた。莉乃は笑顔で伊織の前まで来た。「白河先生」だが伊織は莉乃には答えず、怜央へ笑みを向けた。「二人は、いつから付き合ってるんだ?」その言葉には、三つの意味が込められていた。一つ目は、会場で飛び交っている噂をすでに耳にしているということ。怜央と莉乃が堂々と連れ立って現れたことで、誰もが二人は恋人同士だと思っている。だから教師である伊織も、同じように受け取ったという意味だった。二つ目は、紗和と怜央の婚姻関係を知る立場として、莉乃が二人の結婚に割り込んだことも把握しているということ。そして三つ目は、二人がいつから関係を持っていたのか、あるいは最初から一度も別れていなかったのかと問いただしていることだった。怜央はそこでようやく相手が伊織だと気づき、莉乃に腕を組ませていた手をすぐにほどいた。だが、それ以上に怜央を驚かせたのは、伊織の隣にいた女性が振り返った瞬間だった。そこにいたのは紗和だった。怜央は、その女性が紗和だとは夢にも思っていなかった。言葉もなく、ただ彼女
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第38話

伊織の問いかけを聞き、莉乃は眉をひそめた。これまで、伊織と紗和が知り合いで、しかもこれほど親しいとは知らなかった。紗和は莉乃の先輩にあたるが、同じ学部でも専攻は違っていた。二人が具体的にどのような関係なのか、莉乃には分からない。だが、伊織があそこまではっきり口にした以上、その意図に気づかないはずがなかった。莉乃は冷ややかに言った。「白河先生は、私と怜央くんの長年の付き合いにまで口を出すおつもりですか?」伊織は笑ってグラスを置いた。「教師に、そこまで口を出す権限はないよ」もっと遠回しな言い方もできたはずだった。だが、伊織はあえてそうしなかった。紗和の側に立つと、態度ではっきり示したのだ。莉乃にも当然、それは伝わっていた。それでも、恥をかかされたとも、侮辱されたとも思わなかった。莉乃にとって伊織は、所詮ただの大学教員にすぎない。御堂家とは比べものにならず、自分を侮辱できるほどの立場ではないと思っていた。だから莉乃は臆することなく、再び怜央の腕に自分の腕を絡めた。紗和を見た瞬間、怜央は、このパーティーに彼女を連れてきたのが伊織だと悟った。紗和が伊織の同伴者になることを承諾したなど、信じられなかった。伊織は黒いスーツを着ており、紗和の黒いドレスともよく合っていた。二人が師弟関係だと知らなければ、恋人同士だと誤解する者もいるだろう。かつて怜央が耳にした噂のように。大学時代、伊織が紗和を特別扱いしているという噂が広まり、大学側が調査に乗り出したことまであった。伊織が人脈を使い、紗和にミュンヘン工科大学の入学許可を取らせたことは事実だったからだ。そんなやましい関係を想像すると、怜央は激しい怒りを覚えた。だが、それを表に出すわけにはいかなかった。周囲の誰も、怜央と紗和が夫婦であることを知らない。今ここで夫として振る舞えば、莉乃の立場がひどく悪くなる。相馬家は顔が広い。莉乃が不倫相手だという話は、すぐにあらゆる社交界へ広まるだろう。怜央の表情から、すべての感情が消えた。まるで紗和が妻ではなく、一度も会ったことのない他人であるかのように、平然としていた。紗和もその意図を察した。莉乃は、怜央が自分を守ろうとしているのだとすぐに気づいた。怜央の手にそっと触れ、
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第39話

伊織は、筋の通らないことをする人間が何より嫌いだった。両親からも、学問より先に人として正しくあることを学べと教えられてきた。どれほど知識を身につけても、人としての良識がなければ何の意味もなかった。隆成は怜央としばらく言葉を交わすうちに、友人の伊織がこの二人の教え子とあまり関わりたがっていないことに気づいた。「すみません、御堂社長。先ほどまで望月さんと仕事の話をしていたので、ここで失礼します」紗和もちょうど、隆成との話を続けたいと思っていた。だが怜央が口を挟んだ。「今日こちらへ伺ったのは、相馬社長に俺の後輩を紹介したかったからでもあります。莉乃は海外の大学院を卒業しており、現在は御堂ゲームスのチーフエンジニアとして、ヴァルサンダーの国内版と海外版の技術部門を担当しています。新しいプロジェクトの提携先として、ぜひ検討していただければと思いまして」怜央から直々に紹介されれば、隆成も無下にはできない。しかもヴァルサンダーの責任者だと聞き、すぐに興味を示した。「ヴァルサンダーは海外展開を始めてから、現地のプレイヤーにもかなり支持されているそうですね。私も遊んでいますが、本当によくできたゲームです。さすが御堂社長ですね」隆成はすぐに思い出したように続けた。「映像の質感も、ステージの構成も見事でした。開発者の高い美的センスと技術力がよく表れています。花宮さんがあのゲームのチーフエンジニアを務めているのなら、東栄グループの新規プロジェクトでも、有力な提携候補として検討する価値はありそうです」伊織はわずかに眉を寄せ、紗和を見た。紗和の指は強く握りしめられていた。これまで怜央にどれほど傷つけられても、紗和は耐えてきた。莉乃に夫婦の間へ入り込まれても、怜央に冷たくされても、すべて受け入れてきた。だが今度は、莉乃が自分の仕事まで奪おうとしている。黙って譲るつもりなどなかった。紗和は口元に笑みを浮かべた。「いいですね。花宮さんがヴァルサンダーのエンジニアなら、せっかくですし、一緒にお話ししませんか?」隆成も同じことを考えていた。まずは莉乃の実力を確かめようと、いくつか質問を投げかけた。すると、莉乃の笑みがふいに固まった。怜央をからかうように見つめながら言った。「怜央くん、相馬社長は御堂ゲームスをそ
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第40話

莉乃の言葉を聞き、隆成と伊織はそろって驚いた表情を浮かべた。莉乃は甘えるような目で怜央を見た。怜央はうなずき、淡々と言った。「望月紗和はハッカーと結託し、ヴァルサンダーに損害を与えました。弊社がそれを突き止めています。海外版に残虐な映像が不正に挿入された、あの事件です」莉乃は満足そうに笑った。「相馬社長、そんな人にプロジェクトを任せて、本当に安心できますか?それとも、他人の特許について得意げに語り、自分の成果のように装うことが、エンジニアとして正しい姿勢だとお考えですか?」隆成も、まさか話がこのように覆るとは思っていなかった。すぐに伊織へ問いかけた。「伊織、どういうことだ?君が天才エンジニアだと言っていた人は、最低限の職業倫理すら持っていないのか?」「彼女がそんなことをするはずがない。なぜなら……」伊織は、ヴァルサンダーを作ったのは紗和だと明かし、彼女の潔白を証明しようとした。だが、その瞬間に思い出した。ヴァルサンダーの特許はすでに怜央のものとなり、さらに莉乃へ譲渡されている。今さら何を言っても、名義上の権利者が誰であるかという事実は覆せない。下手に口にすれば、かえって紗和の立場を悪くし、隆成に「伊織まで紗和に騙されている」と思われるだけだった。紗和は怜央を見つめた。莉乃のためなら、ここまで手段を選ばず、自分を陥れ、心血を注いだ成果まで差し出すのか。信じられなかった。怜央が以前から、莉乃に実績として示せる特許をいくつか持たせたいと言っていたことを、ふと思い出した。完成した成果を莉乃へ譲れと、紗和に命じたこともあった。そして今、ついに実行したのだ。その対象が、ヴァルサンダーだった。怜央は、ヴァルサンダーを莉乃に与えた。紗和は声を上げて笑った。だが、その笑いはひどく悲しく、痛々しかった。「御堂社長、本当にヴァルサンダーを莉乃に渡すつもりなの?」怜央は迷いなく答えた。「莉乃の言うとおりだ。あの頃、陰でずっと俺を支えてくれたのは莉乃だった。だからこそ、あれほど複雑なゲームを完成させることができた。恩に報いるため、ヴァルサンダーを彼女に返すのは当然だ」そして冷たく続けた。「皆がお前を天才エンジニアと呼んでいるから何だ。御堂ゲームスに8年もいながら、お前は会社のた
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