零域からの脱出は、まるで夢から覚めるように唐突だった。視界を覆っていた白い靄が裂け、気づけば美佳は藍都学園都市の一角、夜の校舎裏に立っていた。 だが胸の奥では、まだあの場所の冷たさが脈打っている。 「……彩音……」 彼女の名前を口にすると、零域で見た最後の光景が脳裏をよぎる。ホログラム越しに微笑んでいた七海彩音。その手から渡された、小さな金属製の“鍵”。掌の上でひやりと冷たいそれは、今もジャケットのポケットの中にあった。 背後で足音。反射的に振り返ると、そこには純の姿があった。LAPISの制服が街灯に照らされ、金色のラインが微かに光る。 「……無事だったか」 淡々とした声だが、わずかに安堵の色が混じっている。 「彩音が……私に鍵を渡したの」 言葉を選びながら、美佳はポケットから鍵を取り出した。純の視線がそれに注がれる。 「俺じゃなくて、お前に、か……」 そう呟く純の目は、驚きと何かの決意が交じっていた。 「この鍵、何なの?」 問いかけに純はすぐ答えず、少しだけ夜空を見上げた。 「説明はできる。でも……今じゃない」 その言い方はいつもの彼らしい慎重さだった。だが美佳は、零域で聞いたミオの声を思い出す。 ――“選べ、美佳。誰を信じるかで、未来は変わる” 耳の奥でその響きが甦り、胸が締め付けられる。 二人はそのまま旧校舎を離れ、LAPISの本部へ向かった。夜の学園都市は、どこか静かすぎる。街路樹の影が伸び、
Huling Na-update : 2026-08-09 Magbasa pa