零域の奥へと進むたび、空気が濃くなっていく。まるで見えない海の底に沈んでいくように、呼吸さえ重くなる。 美佳は胸に抱えた「鍵」を確かめながら、仲間たちと並んで歩を進めた。彩音が託したもの。自分にしか開けられない扉が、この先にある。「気を抜くな」 東郷翔の低い声が響く。彼は前方を睨みながらも、常に美佳の足取りを気にかけていた。冷静な言葉の裏には、彼なりの信頼と期待が滲んでいるのが分かる。 やがて、彼らの前に巨大なホールが現れた。半球状の空間の中心には、黒曜石のような装置が浮かんでいる。その表面は波打つ光を放ち、まるで呼吸をしているかのようだった。「これが……LAPISの心臓部……?」玲が震える声でつぶやく。「違うわ」ユリが即座に否定する。「これは“鏡”よ。人々の選択を集め、映し返すための……」 その瞬間、装置から光が溢れ、空間全体に映像が広がった。 街の人々、学生、子ども、老人──藍都学園都市に暮らす誰もが次々と現れ、声を発する。 ──守りたい。 ──消し去れ。 ──便利だ。 ──怖い。 ──繋がりたい。 ──孤独だ。 無数の意見と感情が渦を巻き、やがて映像は美佳たち自身を映し出す。 そこには、美佳が二人いた。 一人は「すべてを壊して自由を得る」と叫ぶ美佳。もう一人は「受け入れて未来を紡ぐ」と微笑む美佳。「……これって……私……?」美佳は声を失った。「幻影よ」ユリが言う。「これは、あんた自身の心を写してるの」「選べってことか……」
Last Updated : 2026-08-19 Read more