「おお、坊や。よくがんばったねえ。ほら、初段の免状だ。持っていきなさい」「わぁい! ありがとう!」 私は白黒将棋の道場で生徒たちに免状を発行していた。広い板間のあちこちで老若男女が白黒将棋に興じている。道場は私が経営するもの以外でも何軒も現れた。いまや大江戸八百八町は白黒将棋ブームに沸いている。「す、すごい大流行ですね……」「色々と工夫をしたからねえ」 道場の盛況ぶりに目を丸くするコガネちゃんの言葉に、これまでの苦労の数々が蘇ってきた。最初は湯屋という湯屋に無料で駒とルールブックを配った。大した材料は使わないし、ルールブックも半紙一枚だ。支出自体は大したものではない。だが、それらを何日も何日も徹夜で作る生活はかなりきつかった。 ある程度普及したところで、今度は段位を制定し、道場を借りて指導を行う。十歳未満は無料。それ以上は指導料や免状の発行料を取る。初めは無料で通える子供ばかりだったが、そのうち子供有段者に負けた大人が通い始める。なにしろ負けん気の強い江戸っ子だ。子供に負けたままではいられないとムキになったのだ。「大場先生、大場先生、ちょっとよろしいでしょうか」「急用かね? それじゃコガネちゃん、ちょっと失礼するよ」 アシスタントとして雇った黒い着物の男を連れて別室へ移動する。この男には色々と生臭い仕事を任せているのだ。生徒やコガネちゃんのいる場所でうかつに話などできない。「大場先生、公式駒の在庫がなくなりそうです」「おおっと、そんなに売れ行き好調とは笑いが止まらないねえ。工場に増産指示を出しておきな」「材料の仕入れが間に合わないとかで……」「馬鹿だねえ。ちったぁ頭を使いな。質屋や蚤の市で、箪笥でも戸棚でも買い叩いてくるんだよ。そいつを叩っ壊して材料にしちまえばいい」「し、しかし公式駒は桧作りが売りだったのでは?」「どうせ白黒に塗っちまうんだ。誰にもわかりゃしないよぉ」 こんな具合で毎日が大忙しだ。まったく充実している。額に汗して労働に勤しむのは素晴らしいことだ。「ところで、裏大会の件は順調に進んでるかい?」「はい、ちょどいい廃寺が見つかりましたので、そこを押さえています」「博徒どもは?」「清水の次郎長、国定忠治、黒駒の勝蔵。名の売れた親分さん方には片っ端から案内を済ませました」(※)「でかした! こいつぁ一晩
Huling Na-update : 2026-07-13 Magbasa pa