「見つけたぞ! 大場カナコぉぉぉおおお!! げほっ、ごほっごほっ」 今日も今日とて寄せ場で仕事を探していると、ずぶ濡れの女が現れた。黒縁の眼鏡に黒いパンツスーツ。生まれたての子鹿のように全身をぶるぶる震わせている。あっ、唇が紫色だ。真冬だというのに御苦労なことだ。「毎度毎度マシラオニ退治ばっかりじゃ飽きちゃうよねえ。何か変わった依頼はないもんかねえ」「あのう、カナさん? 何か呼ばれてるみたいですけど……」「しっ! 目を合わせちゃいけません! きっとアブナイ人だよ」「大場カナコぉぉぉおおお!!」 無視しようと思ったら、目を血走らせながら走り寄ってきた。まったくもうめんどくさいなあ。取立屋の中でもこいつが一番しつこかったんだよな。「ふふふ、上手く逃げおおせたと思ったら思い違いもいいところだ。皇國金融債権回収部隊長、鳥立流与様からは決して逃れられん! げほっ、ごほっ」「オウ? ユーは誰デスカー? 私はビッグプレイス・カナと申しマース。ルヨさん、ハジメましてデースネー」「えっ、あれ? いやお前大場カナコだよな?」「カナコ? ノー、ミーはカナですネー。ナイストゥミーチュー」「な、ナイストゥミーチュー……?」 私は外人のふりをし、ルヨの手をがっちり握ってシェイクハンドした。こちとら仕事探しの真っ最中なんだ。こんなやつに関わっている暇などない。「って、そんなので誤魔化されるかボケぇぇぇえええ!」「あ、バレたか」「バレるに決まってんだろ! 皇國金融を舐めるなッッ! 貴様の債権74兆3,031億円! 耳を揃えてきっちり支払ってもらうぞ!! げほっ、ごほっ」「ほーん」 まさか時空を超えて取り立てに来るとは、まったく仕事熱心なことである。まあ、意外と言えば意外ではあるのだが、こういう事態が生じることは想定の範囲内だ。何しろ私がこの世界に流されて来たのだから、他の誰かがやってきてもおかしくはない。「あの……どこのどなたか存じ上げませんが、まずは体を拭いた方が……」 ぶるぶる震えるルヨを見かねたのか、コガネちゃんが手ぬぐいを差し出した。「むっ、これはすまん。見知らぬコスプレイヤーの人」「こす……?」 ルヨは手ぬぐいを受け取ると、髪をがしがしと拭き始めた。ふふふ、この反応から察するに、案の定こいつもまだ異世界に来たことを認識してないな。
Huling Na-update : 2026-07-13 Magbasa pa