西区、旧市街。狭くて汚れた路地裏は、普段なら自転車やバイクくらいしか通らない。だが今日、真っ赤なフェラーリが唐突に現れ、路地口にいたお年寄りたちは一斉に振り返った。車が完全に止まる前に、馨はドアを開けて飛び出した。彼女は記憶を頼りに階段を駆け上がり、渉の家を見つけ出した。「渉!渉、中にいるの!?」錆びついたドアは、押し黙った口のように固く閉ざされている。馨はドアを力任せに叩き、手のひらが真っ赤に腫れ上がるのも構わなかった。「渉!返事をして!私よ、馨よ!」返事はない。彼女は慌ててスマホを取り出し、再び渉に電話をかけた。すると、ドアの向こうから微かに着信音が聞こえてきた。渉のスマホだ!彼は中にいる!馨の心臓がドクンと跳ね上がった。中にいるのに電話に出ず、ドアも開けないとすれば、可能性は一つしかない。何かあったんだ!「開けて!渉、ドアを開けなさい!」馨は一歩下がり、邪魔なハイヒールを脱ぎ捨てた。黒ストッキングに包まれた足が、冷たく汚れたコンクリートの床を踏みしめる。彼女は歯を食いしばり、向かいの壁に背中をつけて助走をつけると、その華奢な肩からドアに向かって力一杯体当たりをした。――ドンッ!何度か繰り返したが、ドアはビクともしない。跳ね返される衝撃で全身に激痛が走り、目には涙が浮かんだ。法曹界で恐れられる「女魔王」が、今はまるで迷子になった子供のように取り乱していた。彼女はドアの周りにベタベタと貼られた水漏れ修理や鍵開け業者のチラシの山から、狂ったように鍵屋の電話番号を探し出した。20分後。馨の殺気立った視線に射抜かれながら、鍵屋の業者は震える手でその古い鍵をこじ開けた。――ガチャリ。ドアが開いた。蒸し暑く湿った、そして強烈な生臭い悪臭を伴う熱波が、顔に向かって押し寄せてきた。馨が部屋に飛び込んだ瞬間、彼女の動きはピタリと止まり、頭の中が真っ白になった。薄暗い部屋の中、渉はボロボロのぬいぐるみのようにベッドの脇に倒れ込んでいた。顔は異様なほど赤く、唇は干からびてひび割れ、胸の起伏はほとんど見えないほど微弱だ。そして、その脚は……ガーゼは完全に染み通り、膿と血が混ざり合ってふくらはぎを伝い落ちていた。あの吐き気を催すような悪臭は、間違いなくそこから漂って
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