All Chapters of カンブリアン・アクアリウム: Chapter 1 - Chapter 10

34 Chapters

第一話 カンブリアン・アクアリウム

「あのじろー! あのじろー!」 もみあげの長い、ショートカットの幼い少女が、水槽を悠然と泳ぐアノマロカリスを見て、歓声を上げる。 右ヒレに薄紫のタグを付けたアノマロカリス、「あのじろう」は、カンブリアン・アクアリウムの人気者だった。 カンブリアン・アクアリウム。カンブリア生物を蘇らせた、水族館である。 西暦二一〇〇年、人類は画期的なテクノロジーを手に入れた。 量子を通し、高次元を観測することで、過去の地球の絶滅動植物のDNA情報を入手。それを元に、古生物を再現することに成功。 この技術は古生物学だけではなく、考古学や歴史学、犯罪捜査などにも、大きな波紋を与えた。 あのじろうがお気に入りな少女は、今はそんな小難しい話はつゆ知らず、「大人になったら、カンブリアン・アクアリウムで働きたい!」と、将来の夢に心躍らせるのであった。 ◆ ◆ ◆ カンブリアン・アクアリウム入社式。 若者たちが、希望に顔を輝かせる……。とは限らず、中年も少なからずいた。 西暦二一三○年。新卒主義は、とっくの昔に終わりを告げ、より働き方に幅ができた時代。 長いもみあげと、ショートカットが特徴的な女性、雁州まりんは、念願のカンブリアン・アクアリウムに入社し、希望に胸を膨らませるのであった。 (あのじろうと一緒に、仕事したい!)、その思いを胸に短大を卒業し、こうして、館長のスピーチに耳を傾けている。 まりんが、あのじろうと初めて会った日から、十五年の歳月が流れていたが、あのじろうはアノマロカリス長寿世界一位で、ギネスブックに載ったばかり。 案内課を志望した、まりん。明日の配属辞令を、心待ちにするのであった。 入社式終了。「よーっす! まりん! お互い、ピカピカの一年生だな!」 気さくにまりんに声をかけてくる、ベリーショートの活発そうな女性、春木あくあ。まりんの同窓生にして、親友である。「あくあちゃん! うん、うん! もー、楽しみでしょうがないよ!」 Vサインで返す。社員寮でも、同室だ。「記念にどう、これから?」 飲み物を傾ける仕草をする、あくあ。「うん、飲もう、飲もう!」 こうして、近所の居酒屋に向かう二人であった。 ◆ ◆ ◆ 翌日。(えー……) 配属辞令を受け取り、内心変な声を上げるあくあ。 彼女の希望は、まりんと同
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第二話 新人教育

 本日休館日につき、本館は案内課の新入社員と、その指導員しかいない。 今まで、何度も足を運んだカンブリアン・アクアリウムが、いつも以上に広く感じる。「じゃあ、最初のミッション。ゲートから多目的トイレまで、どこにでもお客様をご案内できるよう、頭に叩き込みなさい」 奏の表情は穏やかだが、態度はプロのそれ。 今は、空中画像投影・操作技術……スマホの進化形ともいえる、通称「デバイス」があるが、いちいちそれを見ながら案内しているようでは、プロ失格だ。 二人で本館を練り歩きながら、必死に覚え込むまりん。アノマロカリスの水槽で、あのじろうと出会ったときは、つい感動してしまったが、即座にプロの姿勢に戻る。「そろそろいいかな。それじゃあ、テストします。シファッソークタムの水槽へ、お子様連れのお客様をご案内しなさい」「はい!」 子どもの頃から、通い詰めたアクアリウムだ。難なく、水槽にたどり着く。「不合格」「ええ!?」「歩く速度が速すぎます。お子様が、ついていけません。ワンテンポ落としなさい」「申し訳ありません」 こういうところにも、気を配らないといけないのかと、プロ意識を刺激され、身が引き締まる。 道案内の、訓練を重ねることしばし。「いいですね。だいぶ様になってきました。では、今度は解説の訓練をしましょう」 教育は、次のステップへ。「お客様に、アノマロカリスの解説をしなさい」 アノマロカリス! 得意中の得意だ!「こちら、アノマロカリスになります。カンブリア時代、最大級の生物として有名で、かつてカナダのバージェス頁岩で発見された、エビの胴部ような化石に端を発し――」 水槽の前で、淀みなく解説していく。「受精後一ヶ月で孵化。その後は、幼生プロトカリア……」 頭が真っ白になる。第二形態の名前を、ド忘れしてしまった!「デミカリア。もう一度、最初から」「すみません! こちら、アノマロカリスになります……」 特訓は、続く。特に、得意中の得意だと思っていたアノマロカリスでしくじったのは、屈辱的だった。「この、前部付属肢で三葉虫などを捕え、捕食するのです」「よくできました」 ぱちぱちと拍手されると、ほっと、胸をなでおろす。「次は、お隣のオパビニア」「はい!」 特訓は、まだまだ続く。 解説訓練が終わると、今度は、他部署の見学。他の部署が、
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第三話 暴走先輩

「は~~~~……。つっかれたあああああ~!」 社員寮の自室に帰ってくるなり、ベッドに寝そべり大~きなため息をつくまりん。「ア~タ~シ~も~~~~!」 ほぼ同時に帰ってきたあくあも、これまたベッドに寝そべり、大~きなため息。 二人は、同室である。「アタシさー、出す企画、出す企画、全部ボツでさ、もーやんなった!」「私は、詰め込み教育と解説祭りで、頭と顎が疲れたよ」 互いを見て、力なく微笑む。「見るとやるとじゃ、大違いだねー」 今までは、客としてアクアリウムに訪れていたから気楽なものだったが、プロとはこんなに大変なものなのか。 はあ、と一つ小さなため息をつく、まりん。 でも、自分で選び、しかもまりんは、望んだ通りの部署にも就けた。これで不平を言ったら、贅沢だ。「あ、晩御飯の時間だ。食べに行こ」「うん」 食堂に行くと、まりんに気づいた奏から、手招きされる。 料理を受け取り、奏の向かいに座るまりんと、さらにその隣に座るあくあ。「こちら、奈良先輩。私の教育係。こちらは、私の同室で親友の、春木あくあです」「春木です。企画部に配属されました。よろしくお願いします」「こちらこそ、よろしくね。彼女は、織田らいあ。わたしの同期で同室」「織田だ。よろしく」 隣りに座ってる女性を紹介する奏。まりんが、どこかで見た顔だと思案していると、エディアカラ別館で会釈しあった、あの人だと気づく。「今日は、目玉焼きハンバーグですね」「ふふ、なんか童心に帰るわよね」 美味しそうに食む、奏。「いただきます!」 まりんとあくあも、食事に手を付ける。 美味しい。なかなかのレベルだ。「美味しいですねえ!」「うん。ここの料理、美味しいのよ」 和やかに談食。「別館の仕事って、どうですか?」 なにげなく、らいあに質問を飛ばすまりん。「どう、とは?」「そうですねえ。やりがいですとか」「割と暇だな。だが、これも大事な仕事だ。別館送りを島流しなどと陰口叩く者もいるが、そのように言われる筋合いはない」 地雷踏んだ臭いと、後悔するまりんであった。「トリブラキディウムも、キンベレラも、可愛いもんだぞ。人気度で、カンブリア生物に劣るのが口惜しいな。トリブラキディウムなど、大昔に切手にもなったというのに」 止まらなくなってしまった。適当に相槌を打ちなが
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第四話 それぞれの、仕事ぶり

 初仕事。まりんは、三葉虫の一種、ナラオイアの解説を任されていた。 良く言えば楽、悪く言えば、暇な水槽である。 昨日、奏一人相手でもとちってしまったので、平時のアノマロカリス水槽など任せたら、パニックを起こしてしまうだろうとの判断から、この配置になった。 ただ突っ立っているだけではなく、周囲に気を配り、道に迷っていそうなお客様を見かけたら、ご案内するという役目もある。 しかし、こうやることがないと、昨日の織田先輩の愚痴が想起される。もしかすると、向こうの方がもうちょっと忙しいかも知れない。「すみません。これ、三葉虫ですか?」「はい! ナラオイアといいまして……」 いつの間にか来ていた男性客に、驚くまりん。気が緩んでいたと、自戒する。「ナラオイアは体節が二つしかなく、甲羅も柔らかいという、とても変わった三葉虫なんです。三葉虫の特徴である、側葉、中葉、側葉にも別れていないんですよ」「へえ」 彼は、しばらくナラオイアを興味深げに眺めると、去っていった。(ふう) 改めて、油断を自戒する。 ふと、きょろきょろしている親子連れの客が目に入ったのでお声がけすると、オダライアの水槽を探しているというので、ご案内。 なんだかんだで、やることがあるのだなと思う、まりんであった。 ◆ ◆ ◆(ネタ降ってこい~! ネタ降ってこい~!) 企画書制作中の、あくあ。今日も、悪戦苦闘していた。 館内生物のページをデバイスで必死に繰っていると、ピン! とひらめいた。(人気者、ハルキゲニアを、花のようなシファッソークタムやディノミスクスの中で混泳させれば、花畑の妖精のようで、お子様や女性客に受けるのではないか) さっそく、デバイスに企画書としてまとめ、課長に提出する。「ボツ」 見出しを読んだだけで、そう言い渡された。「せめて、本文読んでください! なにがいけないんですか!」「これねー。昔やってコケたんだわ」 また、このパターンか! と、がっくり肩を落とすあくあ。「肝心のハルキゲニアが、シファッソークタムやディノミスクスの群れに隠れちまってな。ハルキゲニアを探せ! みたいになっちまったんだわ」「はあ……」 心底落ち込む、あくあ。 その様子を見て、己の後頭部を撫でると、付け加える課長。「その失敗企画な。俺が昔、出したやつなんだよ」「えっ! 課
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第五話 先輩

「とまあ、散々でした……」 夕食の席で、大きなため息をつくあくあ。今日のメニューは、サワラの塩焼き定食。「ふふ。エディアカラ生物を盛り上げようとしてくれて、ありがとうね。らいあも、お礼言おう」「うむ。ありがとう」「その点、まりんは初仕事上々だったんだろ? うらやましいなー。案内課、行きたかったなー」 シジミの味噌汁を飲む、あくあ。「そんな。たまたま、暇な水槽を任されただけだよー」 とはいえ、悪い気はせず、照れくさそうにもじもじする。「エディアカラ企画、なんかいいネタないですかねー」 サワラをついばむ、あくあ。「ふむ。混泳が楽というのはあるが」「そうなんですか?」「エディアカラ紀は、エデンとも呼ばれていてな。まったく、弱肉強食のない時代だったんだ」 「へー」と感心する、あくあとまりん。「エディアカラ生物大混泳……うーん、安直すぎるか」 腕組みして、考え込むあくあ。「あ、エディアカラとカンブリア生物の混泳ってどうでしょうね?」 三人が、まりんを見る。「エディアカラの生物って、大人しいんですよね? ハルキゲニアみたいな、無害なカンブリア生物と混泳させたらどうかなーって」「賛成できないな」 らいあが、ぴしゃりと言い放つ。「エディアカラとカンブリアでは、水質、水温が違いすぎる。管理に問題が生じる」「名案だと、思ったんですけどねえ」 人差し指をつつき合わせる、まりん。「企画って、難しいですねえ……。あくあちゃんは、ほんと大変な仕事をしてるんだなあ」「わかってくれるか、友よ」 ぽんぽんと、まりんの肩を叩くあくあ。 その後も、食事を進めながら四人でアイデアを出し合うも、決定打となるものは出なかった。 ◆ ◆ ◆(エディアカラ……カンブリア……エディアカラ……カンブリア……) 出社前から、頭の中がぐるぐると、企画のことでいっぱいなあくあ。(あ~~~! だめだ! 何も出てこない!) 頭を抱えると、不意に、デスクに缶コーヒーが置かれる。「大変そうね。あまり根つめちゃだめよ? それでも一服して、落ち着こう?」 先輩社員が、優しく微笑みかける。「ありがとうございます」「私もねー。ボツばかりで。でも、野球でも三割ヒット出せたら、名選手なんだからーって思うことにしてるの」 その話を聞き、ふと思う。「あの、もしかして案内
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第六話 一人二役

「すごーい! おめでとう!」「なるほど。生体を見せることばかり考えていたが、逆に絶滅とは……」 夕食時の食堂で、奏とらいあは、しきりにあくあに感心していた。今日のメニューは、酢豚。「もう、あくあちゃん、すっごいドヤ顔で帰ってくるんですもん。で、武勇伝語る語る」「いや~、つい、ねえ。企画課でやっていける、自信がつきましたよ~」 弛緩しきった顔つきの、あくあ。「あ、そういえば。先輩方のご同期の方に、とても良くしていただきました」「おお、彼女か。元気そうで何よりだな」「あのー、こちら、いいかしら?」 あくあの先輩の話をしていると、当の本人が、食膳を手に、佇んでいた。「おお、里愛。噂をすれば。今日は、企画課の皆と食べないのか?」「春木さんに二人の話を聞いたら、久々に一緒したくなっちゃって」「まあ、座って座って」 奏が、着席を促す。「企画課の、波部里愛です。はじめまして」 初対面のまりんに、挨拶する。「はじめまして。案内課の雁州まりんです。あくあちゃんが、お世話になっています」 ご挨拶返し。「ちゃん、かあ。仲いいのねえ」「はは。アタシからは、まりんって呼び捨てなんですけどね」 照れくさそうに、後頭部を撫でるあくあ。「春木さん、すごいのよ。三日目で、企画採用されちゃって」「うむ。さっき、その話で盛り上がっていた所だ。エディアカラについても触れるのが、実に良い企画だな」「ありがとうございます!」 上機嫌で、酢豚を食むあくあ。「司会、志願したいなあ」「じゃあ、詳しい仕様が発表されたら、上申してみましょうか。わたしも、やってみたいわ」「はい!」 すでにノリ気な、奈良雁師弟。「エディアカラなら、任せろ!」 らいあも、大変ノリ気だ。「みんな、気が早いってば」「ですね」 くすくす笑う、里愛とあくあ。 今日の食事は、大変和やかに進んだ。 ◆ ◆ ◆「先生、どうしてハルキゲニアにはトゲがあるの?」「それはね。ハルキゲニアを食べる動物から、身を護るためなの」「へー! そうなんだー!」 今日は、奏とまりんがコンビを組んで、ハルキゲニアの解説役を務めている。 奏が「先生」、まりんが「生徒」という体で、質疑応答を進めていく。 司会は順調に進行していたが……。「あの……トイレはどこでしょう」 年配
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第七話 まりんの休日

「もー、ほんと助かっちゃった!」「いやあ、それほどのことは……」 夕食の席で、まりんの一人二役を、べた褒めする師匠。今日のメニューは、メバルの煮つけ。 まりんもまんざらではなく、でれでれである。「今年の新人は、有望だな」 腕組みし、うんうん頷くらいあ。「初日に指導してらっしゃった、新人さんはどんな感じですか?」 そんならいあに、まりんが質問を投げる。「む? 勉強熱心で、なかなか鍛えがいがあるぞ。カンブリア生物に比べると、種類が少ないからな。より、ディープに教育できる」 普段無表情な彼女だが、心なしか柔和な表情で、メバルに箸をつける。「あくあちゃんからは、なにかある?」「うん。絶滅展、夏休み初日から二週間、ブッ通しで開催することになった!」「おお! 一大プロジェクトじゃーん!」 あくあの背中を、べしんと叩くまりん。「へへ。まさか三日目で、こんなでかいプロジェクト、動かすことになるとはなあ……」 感慨深げに、シジミ汁を飲む彼女。「その、一人でできるの? 失礼かもだけど」 奏が、つい不安視する。「先輩たちも同期も、一丸となって展開するプロジェクトですから、きっと大丈夫です。それより、あと一ヶ月もない、GWを乗り切れるかの方が、心配ですよ」 それを聞いて、一同の瞳から光が失われる。世間では、ゆっくり骨休めする期間だが、彼女らにとっては、超繁忙期である。「が、がんばろー!」「おー!」 奏が震え声で拳を突き上げると、上ずった声で、それに続く三人であった。 ◆ ◆ ◆ まりんは、本日オフ。あくあも奏も、出勤しているのが寂しいが、たまには一人で時間を潰すのも良いと思った。「あのー、すみません」 競馬番組をデバイスで見ていた料理長に、声を掛ける。ちなみに、女性だ。女子寮は、男子禁制である。「なんだい?」「キッチン、使わせてもらっていいですか?」「あー、ごめんね。調理師以外は、触っちゃいけないことになってんだ」「そうなんですか……」 まりんの趣味は、料理である。料理をすると、いいストレス発散になるのだが。「どうした?」 そこに通りかかった、らいあ。彼女も、非番である。「あ、織田先輩。実は……」 料理趣味と、寮のキッチンが使えない事を話す。「あたしの、アウトドア用調理器具で良かったら、使う
last updateLast Updated : 2026-07-14
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第八話 GW到来!

「来ちゃいましたねえ……」「来ちゃったねえ……」「はあ……」「だらしない、気合を入れろ!」 通勤の最中、すでに気力を吸い尽くされている、まりん、奏、あくあと、彼女らに活を入れる、らいあ。 四月二十九日、昭和の日。GW到来である。「着いちゃいましたねえ……」 とうとう、アクアリウムに着いてしまった。まりんが、がっくりうなだれる。 まりんとあくあは初GW出勤だが、客として来ていた時代に、どれだけ大勢の客が訪れるか、イベントが盛り上がるかを、思い知っていた。「気合だ、気合! 気合があれば、なんとでもなる!」 意気軒昂なのは、らいあだけである。「ぼやいてても、お仕事は待ってくれないわよ。入りましょ」 奏に促され、職場に赴く一同であった。 ◆ ◆ ◆ 今年のGWの目玉イベントは、アノマロカリス大混泳。イベント用巨大水槽に、アノマロカリスといえばこれ、という、アノマロカリス・カナデンシスの他に、タミシオカリスという亜種を、大量混泳させるというもの。 企画課長は、今でこそ混泳に難色を示す人物だが、かつて混泳に積極的だった頃に、このイベントを成功させたことがあり、五年ぶりに復活したイベントとなる。 混泳メンバーの中には、あの、あのじろうもいた。 まりんは、解説役を務めたいのはやまやまだったが、とにかく過酷な労働環境になるので、奏以上のベテランが、交代制で解説に選ばれている。 では、まりんはどこに配属されたかというと、あのナラオイアの水槽だ。 あのときは暇をひさいでいたが、今日はナラオイアすら大人気。多数のお客様の質問に、必死に答えるのであった。 奏は、オダライア担当。人気度としては中ぐらいで、奏レベルで、やっとこのぐらいの生物を任される。 ハルキゲニア、オパビニアといったスターは、よりベテランの担当となっている。 普段は閑古鳥が鳴いている別館も、今日は大盛況。らいあはトリブラキディウムを担当し、その知識と愛を、余すことなく披露していた。 別館スタッフフル稼働で、らいあの部下も、ヨルギアという、エディアカラ生物の中でもマイナーな生物を任されていたが、これまた人だかりができ、必死で解説を行っている。 あくあ、里愛ら企画課一同は、イベントに遅れや混乱を出さないように、進行プログラムと格闘中。 |GW《ゴールデンウ
last updateLast Updated : 2026-07-15
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第九話 女子飲み会・前編

「自由だーッ! アタシは自由だーッ!!」 五月七日、GW最終日の仕事を終え、あくあはハイになっていた。 体力・気力は尽きてるが、開放感だけで動いている状態。「お疲れ様。ふわあ……早く寝たいわ……」 里愛から労われるが、彼女も疲労困憊モードだ。「今日は、案内課の三人と、一緒に帰りましょうよ」「そうね。二人と春木さんのお友達にも、お疲れ様って言わなきゃ」 あくあがデバイスで連絡を取ると、「すぐ行く」と、まりんから返信があった。 少しして、三人が職場から出てきた。「おまたせしました~」 まりんも開放感から、のほほんと二人に挨拶する。「みんな、お疲れ様」 さっそく、里愛が三人を労うと、「お疲れ様」「お疲れ様です」と、労い返される。「やー! 三連休だー! 何しよー!」 相変わらず、ハイなあくあ。寮に向かって歩きながら、明日の計画に思考を巡らす。 カンブリアン・アクアリウムは、毎週火・水が休館日だが、スタッフの疲労を考え、明日月曜も臨時休館となっている。「せっかくですから、みんなで飲みに行きませんか?」「あら、雁州さん、飲みスタ?」 奏にツッコまれる。一世紀以上前に流行った、飲みニケーションにすっかり取って代わった、「飲みでコミニュケーションを取るスタイル」の略語である。「あははー……。お酒の味、すっかり覚えちゃいまして」 照れくさそうに、己の後頭部を撫でる。「同じく……」 あくあも同様に、人差し指で、頬を掻く。「あら~……。その歳で、覚えちゃったのね。まあ、可愛い教え子の頼みとあれば、やぶさかではないけど。二人はどう?」 らいあと、里愛に尋ねる。「あたしは構わんぞ」「私も、二人と飲むの久しぶりだから、賛成~」「じゃあ、決定ですね! 近所で、いいお店見つけたんですよ! ご案内します!」 まりん、ノリノリ。 談笑しながら寮に帰ると、御飯をしっかり食べ、入浴し、早寝。 テンションこそ高かったが、やはり疲労困憊してることには、変わりないのであった。 ◆ ◆ ◆「今日は、何時頃から行きます?」 朝。アジの開き定食をつつきながら、五人で今日の予定を相談。まりんが、四人に尋ねる。「そうねえ。夜になると混むし、早めに行かない?」「平日の真っ昼間から酒ですかー。ダメ人間って感じで、いいですねー」 
last updateLast Updated : 2026-07-15
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第十話 女子飲み会・後編

「おおう、油揚げというからなにかと思ったが、厚揚げじゃないか」「福井じゃ、厚揚げイコール油揚げらしいですよ。お味噌汁に入ってるようなのは、薄揚げっていうんだそうです」「へえ」 さっそく、油揚げを食むらいあ。「む! 確かに美味いな!」「ですよね!」 まりんも、白岳仙と油揚げを、ちびちびやる。「おまたせしましたー! レバー、ぼんじり、黒龍です!」「いただきまーす。うん、焼き鳥も美味しいわね」 奏は、黒龍をきゅーっといく。「おまたせしましたー! つくね、ねぎま、保津です!」「きたきた! ……んー! 美味しー!」 ご満悦なあくあ。「いいなあ、みんなもう来て」「すみませんね! おまたせしました! 油揚げとぬか漬けと鳴り瓢です!」「まってました! ……ん! 美味しい!」 ほくほく笑顔で、いただく里愛。「ぬか漬け! その手があったか! すみません。わたしもぬか漬けと、黒龍のおかわりを」「っしたー!」「よく、そんなに飲めるな」「わたし、強いのよ」 呆れ顔のらいあに、笑顔で応える奏。 飲み会なんて、久しぶりだから忘れてたが、強かったかなあ? と、おぼろげに思い出す。 奏以外のメンバーは程々に抑え、談笑を楽しむ。「おまたせしましたー! ぬか漬けと、黒龍です!」「ありがとうございまーす。くぅ~っ、効くーっ!」 (やれやれ、新人二人をいじってた割には、自分が一番呑兵衛じゃないか)と、呆れるらいあであった。 ◆ ◆ ◆「っしたー!」 店主に頭を下げられ、店を去る五人。「美味しかったわね~」「ですよね! ほんと、気に入っちゃいました!」「わたしも、贔屓にしよーっと」 ほわほわと、酔いの残るトークを繰り広げる、里愛、まりん、奏。「車とか、気をつけようね」 心配で、皆……特に奏に、注意を促す里愛。「はーい」 上機嫌で応える奏。本当に大丈夫かなと、本気で心配になるのであった。 ◆ ◆ ◆ 特にトラブルもなく、寮に戻ってきた一同。「はーっ! 楽しかった! 明日は、何しよーかなーっと!」 明日の計画を、あれこれ考えるあくあ。「おい、そんなとこで寝たら、風邪引くぞ!」 ソファですやすや休む奏を、揺するらいあ。「すまん、誰か手伝ってくれ。ベッドまで運ぶ」「じゃあ、私が」 里愛と二人がかりで、搬送する。「奈良先輩、
last updateLast Updated : 2026-07-15
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