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カンブリアン・アクアリウム のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

34 チャプター

第十一話 らいあ

「私たちは、渋谷で降りますんで!」「はーい。帰ったら、見せ合いっこしましょーねー」 ペコリとお辞儀する新人コンビに、奏と里愛が手を振る。らいあは照れくさいのか、ちょっと手を上げただけだった。 先輩トリオは、京王井の頭線から山手線に乗り換え、原宿へ向かう。 ◆ ◆ ◆ 渋谷109。開業から、百五十年近い歴史を誇る、女子のメッカにして老舗。 まりんとあくあは、109のブティックを物色していた。「あ、ここにしよ、ここ!」 キュート系の服を売る店に、ビビッと来たあくあ。 一緒に中に入ると、ハンガーを見ていく。「お! これは!」 あくあが上下を手に取り、店員さんに話しかけ、試着室に消える。 それを追い、どんな服を選んだんだろうとわくわくしていると、カーテンが開かれる。「どう?」 水兵風の、白基調のノースリーブに、同じく白基調の膝丈ショートパンツ。「可愛い~! すっごくイイ!」 まりん、好感触。ボーイッシュなあくあに、この上なく似合っている。「えへへ、そう? じゃ、これで決め打ちしちゃうかな」 再度カーテンが閉まり、しばしすると、元の服に着替えたあくあが出てくる。「これくださーい」 あくあ、お買い上げ。「私は、キュート系より、ガーリーかな~」 河岸を変える二人。 ガーリーファッションの店に入り、色々見ていく。「あ、これ、これからの季節に良さそう」 店員さんに声掛けし、試着室に入るまりん。 今度は、あくあがわくわくと待つ番。 ややあって、カーテンが開くと、白のキャミソールワンピに身を包んだまりんが。 あくあ、無言でダブルサムズアップ。「イケてる? じゃあ、これで」 着替え直して、お会計を済ます。 他にも、下着やコスメを買い揃えていく彼女たちであった。 ◆ ◆ ◆ 一方、先輩トリオは。 散歩しながらウィンドゥショッピングし、ビビッと来た服を見かけたら、入店するというスタイルを採る。 里愛がまず、青のゆるTと白のマーメイドスカートのフェミニンコーデで決め打ち。 続いて奏が、レースデザインの白いトップスと、空色のサス付きレーススカートの、これまたフェミニンなコーデで決める。 残るは、らいあのみだが……。「ねね、これどう!?」 奏が指さしたのは、ウィンドゥに飾られた、白のトップスと、黒
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十二話 なにをしよう?

(う~ん……) まりんは、大きなアノマロカリスのぬいぐるみを抱え、自室のベッドであぐらをかいて、ゆらゆらしていた。(三連休の、貴重なラストデイ。なにをしようか) お昼近くになっても、まだ予定が立たないでいた。 対面では、あくあがアイマスクをして、気持ちよさそうに寝ている。 朝食を食べた後、速攻二度寝してしまったのだ。 自堕落だなあ、などと思うまりん。 まあ、貴重な休日、どう使おうが、あくあの自由なのだが。 そのとき、不意にアラームが鳴る。あくあのデバイスだ。「ふぁ~……よく寝た~。おはよー、まりん」 おはようという時刻ではないが。「さーて、お昼御飯だー。食べに行こ!」 やはり、自堕落だなあ。と思う、まりんであった。 ◆ ◆ ◆ いつもの五人が、食卓を囲む。波部も、最近は企画課仲間より、こっちに混ざって食事を摂ることが多くなっていた。今日のメニューは、カレイの煮付け。「困りました。せっかくの休日最後なのに、この時間まで、やりたいことが思いつかなくて」 悩みを打ち明ける、まりん。「えー。アタシら、一昨日は飲み会、昨日は服買って、精神的には休めても、肉体的にはいまいち休めてないじゃん。だらだらしようよ~」 うーんと、伸びをするあくあ。「一理あるけど……」 まりんの性分には、合わない。「先輩方の、今日のご予定は?」「実は、あたしも考えあぐねてる。ツーリングに出ようか迷っているうちに、こんな時間になってしまった」 今日一日、雨が降るかも知れないし、降らないかもしれないという、微妙な予報が出ている。 らいあの姿は、例のお嬢様ワンピース。いたく気に入ったようだ。「わたしは、あみぐるみ作り」 奈良先輩らしい趣味だなーと思う、まりん。「私は、お勉強かな。そろそろ、企画当てたいし」 真面目さんだ。「うーん……。織田先輩、また調理器具借りていいですか?」「かまわないが、調理中に降られたら、困るんじゃないか?」「あー……」 内心、頭を抱えるまりん。不安定な天気が恨めしい。いっそ、ザーッときてくれれば、諦めもつくのに。 方針が決まってないのは、自分と織田先輩だけかと、難儀な表情でカレイをつつく。 あくあのように、自堕落に過ごすのは自分のスタイルでないが、波部先輩のように、休日に勉強に打ち込むのも、またスタイルではなかった。
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十三話 雨の日

 雨の中、五人は職場へと向かう。 西暦二一三〇年になっても、相変わらず雨具は、傘とレインコート。 ただし、我々の時代よりは、少々高性能になっていた。 二十一世紀に発明された、風でお猪口にならない傘や、ハスの葉を応用して作られた「濡れない雨具」は、とっくの昔に特許が切れ、一般でお安く手に入る。「織田先輩、あのワンピじゃないんですね」「さすがに、通勤には使わんよ」 まりんの所感に、苦笑するらいあ。 彼女は、肘丈袖のブラウスとスラックスである。「あくあちゃんも、水兵さんルックで出社したら可愛いのに」「それはいくらなんでも、イタすぎる」 あくあも、呆れる。 彼女もまた、オーソドックスな通勤ルック。「今日は、暇そうですねえ」 奏、らいあにぼやくまりん。「そうね。こういう仕事は、どうしても天気に左右されるから……」 天を仰ぎ、応える奏。「企画課は、雨の日も晴れの日も、平常運転っす」 ふーっと息を吐く、あくあ。「春木さんの企画が、実現するんじゃない。もっと元気だそう?」 里愛に、励まされる。「ですねー」 GWを乗り越え、いよいよ絶滅展に向かってプロジェクトが動くが、やはり天気が良くないと、いまいちノリ気になれない。 そんな弛緩した会話を繰り広げていると、アクアリウムに着いた。「じゃあ、また後で」 傘立てに傘をしまい、三人に別れを告げる、あくあと里愛。「うん、また後で」 三人も、少し先の案内課に向かうのであった。 ◆ ◆ ◆(暇だなー……) オダライアの水槽を任された、まりんであるが、客は極めてまばら。 屋外型レジャー施設など、もっとガラガラだろうと思うと、いくぶんか心の慰めになるが。 奏が配置された、アノマロカリス水槽は多少マシだが、晴れの日の十分の一も、客がいない。 別館など、本館以上に暇だろう。 向かいの水槽の、カナダスピスをぼーっと眺めていると、「あのー」と、不意に声がかけられた。「はい!」 男性のお客様だった。油断大敵。初日のナラオイアのときから、進歩してないなあ、と自戒する。「オダライア……ですか。これは、どういった生き物なんです?」「はい。こちら、節足動物でして、チューブ状の殻に包まれているのが特徴です。また、尾びれのうち一つが下を向いており、泳ぐ際、大変舵取りがしやす
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十四話 あのじろうが大人になるまで

 あれから四日経ち、週末。 企画課は、今日も絶滅展、そしてその後に続くお盆企画のため、大忙しである。 あくあは、教授と話を詰めるため、挨拶を済ませ、荷物を置くと、東大に向かった。(お盆と言えば、あのじろうが二十歳になるのか) コーヒーを飲みながら、そんな事を思いふける里愛。 研究所で産まれて、四歳まで過ごし、十五年前の、カンブリアン・アクアリウム開設とともに引っ越してきた、あのじろう。 長寿記録としてギネスブックにも載り、館の人気者である。 実際、物販コーナーでは、通常のアノマロカリスぬいぐるみの他に、右ヒレに薄紫のタグを付けた、あのじろうぬいぐるみも売られており、これが、なかなかの売上を誇る。(よし! あのじろうのお祝いイベントを、企画しよう!) さっそくデバイスを操作し、企画書を書き上げる。今割り振られている仕事は、一旦放置だ。「課長。こちらの企画書をご覧いただきたいのですが」 ファイルを送信した後、課長の机に向かう。「んー?」 ファイルを開くと、「お盆企画 あのじろうが大人になるまで」という大見出しが、まず目に飛び込む。(そういえば、八月に二十歳になるんだったな。しかし、卵から今までを描いても、面白い企画にならんぞ) そう思っていたが、読み進めると、エディアカラ時代のご先祖様から、今に至るまでをシームレスに実写アニメーションで追いかけるという、大層なものだった。 現代の観測技術を使えば、不可能な話ではないが。「みんな、波部の企画書を送る。意見をくれ」 企画書が課内に回されると、「キーとなる種をまとめた、スライドを流すだけでいいのでは?」という、反対意見が出た。 この時代、生物学にミッシング・リンクというものはなく、高次元観測技術を使えば、一個体からただの有機物まで、シームレスに進化の歴史を遡れる。 では、どうやって「新種」を選定しているかというと、高次元観測技術の確立以降は、きわめて特異な変異をしたものだけが、新種として学名を与えられるようになっている。「それは、本企画のついでとして、常設展としてはいかがでしょうか」 引かない里愛。反対意見は、実際、常設展レベルの内容だ。反対者は、押し黙ってしまった。「面白い企画だが、とてもお盆には間に合わんな」 課長の苦言。実際、絶滅展と並行して進める場合、とても時間が足りな
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十五話 里愛

「おめでとうございます!!」 終業後、寮に帰る途中、里愛の企画が通った事を本人から聞かされると、あくあが彼女の手を握り、我が事のように、ぶんぶん振って喜ぶ。「おめでとう、里愛」「おめでとうございます」 他の三人からも、祝福を受ける。「ありがとう。ほんとに、嬉しくて……」 ぽろぽろ泣き出してしまう、里愛。 奏が、そっとハンカチを差し出すので、礼を言って受け取る。「明日は、お祝いしましょうよ!」「えー、大げさだよー。春木さんのとき、缶コーヒーぐらいしかあげてないし」「いえ、アタシと先輩では、やっぱり苦労の度合いが違いますから!」 うんうんと、気合を入れて頷くあくあ。「厚意は、受け取っておくものよ、里愛」「んー……。そこまで言われちゃ、断れないな。ありがたく、お祝いされることにします」「やったー!」 本人以上に上機嫌なあくあを先頭に、寮に帰る一行てあった。 ◆ ◆ ◆ 翌日、夕食後。「では、波部先輩の企画採用を祝して……」 パン! と、クラッカーを鳴らすあくあ。食堂のテーブルにケーキが置かれ、いつもの五人と、里愛と親しい企画課の仲間が、それを囲んでいる。「それでは、入刀をお願いします」「えへへ、照れるなあ……」 ケーキにナイフを入れていく、本日の主役。 ケーキが皿に切り分けられると、めいめい取っていき、着席する。 寮は、アルコール飲料持ち込み禁止なので、飲み物はジュースや紅茶だ。「おめでとー!」「おめでとーございます!」 改めて、一同から祝福され、照れくさそうに、もじもじしながら、「ありがとうございます」と、礼を言う。 楽しく談食し、里愛には一生忘れられない日となった。 ◆ ◆ ◆「しかし、結局お盆企画としては、通らなかったのよねえ」 皆で後片付けしている最中、不意に里愛がこぼす。 お盆企画は、未だに空白だ。「GWみたいに、過去企画の使い回しになりそうだねー」 企画課仲間の一人が、ため息つきながら言う。 アクアリウムも、すでに十五周年を迎えようとしている。 GW、夏休み、お盆、冬休み、春休みと、毎年イベントの機会があり、それを十五年近くもやっていると、さすがにネタ切れになってくるわけで。 あくあと里愛の連続企画通過は、近年稀に見る快挙だ。 それに、夏休みとお盆は時期が近く
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十六話 続・まりんの休日

 火曜、休館日。「雁州まりんさん、お届け物でーす」 インタホンを通し、男性の声がする。男子禁制の女子寮といっても、こうした配達員などはさすがに別だ。「オートロック、開けますね」 寮長が応え、まりんを呼びに行く。「荷物ですか。ありがとうございます」 寮長に礼を言い、玄関で受け取ると、ロビーまで持っていく。(ひょっとして、「あれ」かな?) 段ボール箱のテープを解き、オープン!。「おお!」 カセットコンロにボンベ! 包丁! まな板! 雪平鍋! フライパン! 食器! 生ゴミ圧縮乾燥機! その他もろもろ!「うふふ~」「どしたの、それ」 ロビーで、ソファで寝っ転がりながら、サッカーの試合をアーカイブを見ていた、あくあが尋ねる。「んー? 通販で買ったの~。これで、織田先輩がいなくても、雨の日でも、自炊できるの~」 新品の包丁を取り出し、うっとりと刃を見つめるまりん。ちょっと、怖い。「よっと! ……重!」 自室まで運ぼうとして、腰を痛めそうになる。「あー、手伝う、手伝う。無理すんな」 二人がかりで、えっちらおっちらと運ぶ。「さて! さっそく、なにか作りたいな! 寮長さーん、買い出し行ってきまーす」「はいよー」 外出届にサインし、近所のスーパーに向かうのでありました。 ◆ ◆ ◆「ただいまー」 ニコニコ笑顔を浮かべて、帰ってきたまりん。「おかえりー。いい感じに材料揃ったみたいだね」 再び、ロビーで試合を見ていた、あくあに言われる。「うん! 今日、特売日でねー。先輩方は、いらっしゃるかな」「織田先輩、キャンプで明日まで帰ってこないって。奈良先輩と波部先輩は、いるよー」「そっかー。織田先輩にも、食べてほしかったんだけどな」 そう言いながら、食堂に向かうまりん。「なに作るん?」 あくあも試合鑑賞を中断し、あとをついてきた。「焼きそばですよー。しかも、具だくさん! お昼ご飯が入るように、おそばの量は控えめにするけどね」「へー」 さっそく、自室から新品の包丁とまな板、フライパン、皿を持ってきて、流しで洗う。流しだけは、使う許可が出ている。圧縮乾燥機も設置。「さーて! 作りますよー!」 ふんふふんふふーん、と鼻歌を歌いながら、具材に包丁を入れていくまりん。人参の皮だの、キャベツの芯だのは、乾燥機に入れていく。 サラダ
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十七話 らいあの休日

 五月の爽やかな風が、頬を撫でる。 らいあは、暖かな春の日差しと、心地よい風を、キャンピングチェアの上で、ゆるりと愉しんでいた。 彼女はこうしながら、様々な思索に耽るのが好きだ。 例えば今、カンブリアン・アクアリウムについて思いを馳せている。 カンブリアン・アクアリウムは、近年珍しい、案内員が案内する水族館だ。今どき他の水族館は、AI搭載ロボットが対応している。 人件費をかけてここまでするのは、初代館長が、人と人とのふれあいを大事にしたいと考えたからだという。 実際、このコンセプトは当たり、独特の地位と人気を博することに成功した。 カンブリアン。アクアリウムには、二一〇〇年以降発見された生物はいない。これは、それ以前のカンブリア生物たちを知る客たちにとって、新種はあこがれの対象ではないからだ。 文字通り、生きた化石に会える。それがコンセプトなのだから。 らいあたちが入社したのは、ちょうど、館長が代替わりした時期。 コンセプトは受け継がれ、エディアカラ別館という部署に配属される。 エディアカラ。大学で習ったことはあるが、それほど詳しくない時代だった。 暇な部署で、最初は不満も抱えたが、仕事のためにエディアカラ生物について調べていくと、その魅力に取りつかれた。 特に気に入ったのが、トリブラキディウムで、三放射対称という、あまりにも特異な姿に、目と心をを奪われたものだ。 以降、らいあの愛はエディアカラ生物に等しく注がれるようになり、今のエディアカラ・マニアぶりに至る。 パーコレーターのコーヒーが湧いたので、カップに注ぐ。かぐわしい香りを愉しむらいあ。 そういえば、企画課から回ってきたアンケートが、まだ未回答だったことを思い出す。 カップを一旦置き、デバイスを立ち上げると、該当ファイルを開く。「エディアカラ紀とカンブリア紀の絶滅で、興味あることはなんですか?」 この設問に、らいあは迷うことなく、「エデンと呼ばれた時代の、エディアカラ生物が滅んでしまったのはなぜですか?」と記入して、送信する。 エディアカラ・マニアのらいあは、当然正解を知っていたが、お客様はそうではない。 これは、お客様のための質問だ。 エデン滅亡の謎。エディアカラに興味を持ってもらうなら、ここだと考えた。「腹が減ったな……」 デバイスで時刻を見ると、ちょうど
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十八話 恐竜園

「ただいま」 夕食時少し前。キャンプ道具を手にした、らいあが帰ってくると、皆に「おかえりなさい」と挨拶される。「楽しかった?」「うむ」 ベッドに腰掛け、あみぐるみを作っていた奏と、道具をしまいながら、そんななんでもない会話を交わす。「そういえばね、雁州さん、調理器具一式買ったのよ。カセットコンロも付けて」「へえ」 遠くから帰ってきて疲れていたので、ベッドに横になる。「彼女のことだ、さっそくなにか作ったんだろう?」「うん。昨日はやきそばをね。そしたら、ここのお昼でも、焼きそばが被っちゃった」 苦笑するらいあ。「今日は、ミニホットケーキ。美味しかったー。らいあにも食べてほしかったって、切なそうだったわよ」「そりゃ、申し訳ないね。でも、あたしの趣味が、アウトドアだからなあ」 ため息をつく。 一方その頃、あくあと里愛は食堂で。「先輩、なんで恐竜園ってないんでしょうね?」 オレンジジュースを飲みながら、里愛に問うあくあ。「理由は簡単。日本の気候から、恐竜を守れないからね」「そうなんですか?」「うん。恐竜はね、とても暑い時代に生きていたの。だから、日本の気温じゃ寒すぎるのよ」「へー」 ペットボトルをゆすぎ、ペットボトル用ゴミ箱に捨てる。「屋内型テーマパークには、できないんですか?」「世界最大の恐竜、アルゼンチノサウルスは、全長三十メートルもあるのよ? 彼らを屋内で不自由なく飼おうと思ったら、とんでもない巨大施設になっちゃう」「ティラノとか、あのへんの有名どころも、必要ですしねー」 腕組みして、悩むあくあ。「アメリカでは、いっそ本気で作ろうかなんて話も、出てるらしいけど」「すごいですね。さすが大陸!」「あとは、熱帯雨林気候のブラジルでも、屋外型テーマパークとして造れないか、検討してるみたい」「夢が膨らみますねー」 瞳を、キラキラさせるあくあ。「なんのお話ですか?」 そこに、まりんが通りかかった。「んー? 恐竜園ないねって話」 両手で頬杖ついて、答えるあくあ。「そういえば、聞いた事ないですね」 もう一度、同じ説明をする里愛。「なるほど。確かに、夢が膨らみますね」 ちなみに、オルドビス・アクアリウムやシルル・アクアリウムといった施設も、カンブリアン・アクアリウムの成功を受けて順次開館したが、今ひとつ不人気な
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第十九話 奏、がんばる

「皆さん、おはようございます」「おはようございます!」 案内課の朝礼。課長の挨拶に、スタッフが元気に挨拶を返す。 細々とした話の後、課長はこう切り出した。「三日後、英王室ご一行が、訪日されるのはご存じですね?」「はい!」 この時点で、少なくないスタッフが、嫌な予感を覚えた。「当日、ご一行が、飼育エリアも含めて当館をご覧になりたいとおっしゃられ、貸し切り状態でご案内する運びになりました」(やっぱり!) 内心、緊張が走るスタッフたち。「通常、英語圏のお客様はコリンズさんがご案内するのですが、彼女は現在、肺炎で入院中です。そこで、英語の上手いスタッフに、代打を頼もうという話になりました」 一息入れる、課長。「奈良さん。あなた、英検二級持っているそうですね」 白羽の矢が立ち、背中に嫌な汗をかく奏。「我々の中では、一番英語力が高い。英王室ご一行のご案内を命じます」「お言葉ですが、英検で扱うのはアメリカ英語で、イギリス英語ではありません。両者は似て異なり、イギリス英語のできる方を雇い、ご案内に充てた方が、先方に失礼がないかと存じます」 実際、彼女の言う通り、英語と米語はかなり違う。英語では、一階がグランドフロアで、二階が1Fなどというのは、知る人ぞ知る話である。「外部スタッフを雇って、館内の案内が十分に務まると思いますか?」 返す言葉がない。「……二日間、通常業務から外していただき、勉強に充てさせてはいただけないでしょうか。相手が相手だけに、失礼があってはいけませんので」 肚をくくる奏。「わかりました。そのようにしましょう。みなさんで、二日間、奈良さんの穴を埋めてください。では、解散。業務開始です」 さあ、大変な事になったと、頬を冷や汗が伝う奏。 もはや退路はないので、机に腰掛け、英語と米語の違いについて、熱心に調べ始める。 そんな彼女に、心配そうな視線を送るまりんであった。 ◆ ◆ ◆ 懸命に、両者の違いを調べる奏。 たとえば、米語では「Center」が、英語では「Centre」になったり、「Color」が「Colour」になるなど。 これらをリスニングし、実際に発音するという、涙ぐましい反復作業をする彼女。 気づけば、昼休みになっていた。(ああ、もうこんな時間か) 社員食堂で、赤魚
last update最終更新日 : 2026-07-15
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第二十話 企画課奮闘記

「春木さ~ん、波部せ~んぱ~い。一緒に帰りましょ~」 終業時刻になったので、二人を誘うまりん。 公私を分けるため、仕事場では、あくあちゃんではなく、春木さんと呼んでいる。「ごめん、残業。先帰ってて」 残念そうに、断るあくあ。最近、企画課コンビはずっとこんな感じである。二人に限らず、企画課全体が残業状態だ。 これは、カンブリアン・アクアリウム独特の、長期休暇体制によるものである。 GWにお盆と、世間的な長期休暇のない社員たち。 では、彼らはどこで休暇を得ているかというと、閑散期の六月二週目から、七月一週目の前後半どちらかに、二週間まとめて休みが与えられるのだ。 案内課や広報課、飼育課といった、誰かしらいないと困る部署は、半数ずつ交代制で。企画課のような、半端に誰かいても意味のない部署は、前半か後半の二週間、完全に空っぽになる。 客の少ない梅雨時に、多数スタッフがいても意味がないという判断からである。 梅雨時に、こんな超長期休暇をもらっても困るというのが職員の本音だが、他の時期がおおむね行楽向きなので、やむなしというところ。 そして、こんな体制であるために、企画課は六月はまる二週間仕事にならず、夏休み企画を落とさないため、五月にできるかぎり仕事をやっつけておき、七月に余裕があるようなら、そこでマイペースに仕事するという習慣が出来上がっていた。 寮の夕食が食べられない企画課職員たち、コンビニ弁当を食みながら、仕様書を必死に切っている。「春木。『迫力が足りない』って、コンテ突っ返せ」 試作映像のコンテを見ていた課長が、ダメ出しをする。「完成、間に合いますかね?」「間に合わせるために、必死こいて残業してるんだからな。向こうさんにも、頑張ってもらわにゃ困る」 肩を落とし、「夜分遅く、申し訳ありません」と、制作スタジオに掛け合うあくあ。 交渉が終わると、間を置かず、「春木さーん、展示パネルのことなんだけど」と、別の社員から声がかかる。 先輩方の力を借りながら、中心となって仕事を進めていく、新人プロジェクトリーダー。身に余る大仕事に、てんてこ舞いであった。 ◆ ◆ ◆ 一方その頃。寮に帰ってきた、案内課トリオ。「あくあちゃんと波部先輩、大変ですねー」「そうねえ。わたしたち、終業になったらやることないから、残業は
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