東京ドームは、声援と熱気で溢れかえっていた。満席の観客席からは途切れなく歓声が上がり、まるで巨大な生き物が呼吸しているかのようだ。時折、波のように拍手が広がり、その度に熱量が会場全体を揺らす。巨大なスクリーンには、麻雀卓の上で繰り広げられる静かな戦いが映し出されている。一枚一枚の牌が静かに置かれ、回転し、流れていく様子を、観客たちは固唾を飲んで見守っていた。その一手一手に歓声が上がり、ため息が漏れ、熱狂が波のように押し寄せては引いていく。だが、そんな熱狂の中心にいながら、篠宮リリィだけは、冷たい汗をぬぐいながら、控室の扉を閉めた。外の喧騒が遠い幻のように感じられるほど、彼女の胸の中には重く冷たい何かが沈んでいた。外の熱気とは対照的に、そこは異様な緊張と孤独が充満していた。「……リリィ、今のあれはどういうことだ?」四十代半ばのベテラン雀士、田所信介の声は震えていた。彼は長年チームの柱としてリリィを支え、時に兄のように、時に厳しい師匠のように接してきた。だが今、その目は怒りと、そして深い戸惑いに燃えている。「わざと振り込んだのか?」問いかけは冷たく、鋭く、リリィの心を刺した。彼女は俯くしかなかった。言葉が喉に詰まり、答えが見つからない。信じたくなかった。こんなことが自分の身に降りかかるとは。だが、現実はそれを許さなかった。「そんなこと、絶対にしていません!」声が震えていることを、彼女自身が一番自覚していた。必死に否定の言葉を口にしながらも、心は波立ち、不安と罪悪感に飲み込まれていた。「じゃあ、あの東一局の放銃はどう説明する? 誰が見ても不自然だったぞ。お前なら、あの牌は絶対に切らないはずだ」田所の言葉は重い。彼はリリィのプレイスタイルを知り尽くしていた。彼女は「守り」に徹するタイプではないが、決して無謀な放銃はしない。何かが違う、しかし理由が見つからないまま、彼の長年の信頼が音を立てて揺らぎ始めていた。リリィの心臓が痛いほど脈打つ。信頼する師匠の顔に浮かんだ裏切られたような表情が、彼女の心をさらに深く抉った。その時、控室の扉が軽やかに開き、香坂蓮が入ってきた。彼はチームの最大のスポンサーである大企業の御曹司で、どこか影を帯びた存在だ。笑顔を浮かべてはいるが、その目は氷のように冷たく、リリィをじっと見据えていた
Dernière mise à jour : 2026-07-15 Read More