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第8話 「天才の噂」

Author: 辻野幸枝
last update publish date: 2026-08-06 04:55:03

 「おいおい、本当に聞いたのか? 昨日の勝負のこと」

「聞いた聞いた。ミミって小娘の代打ちに出た雑用係の女が、あのエドガーをぶっ倒したって話だろ? もう雀荘中がその話題で持ち切りだ」

「しかも一晩で、あのエドガーの全財産をほぼ持っていったらしいじゃねぇか。いったい何があったんだ?」

「信じられねえよな。雑用係だぞ? ただの掃除女が、王都の裏麻雀界でも屈指の打ち手と謳われたエドガーを、一方的に叩きのめしたってんだから」

昼下がりの王都雀荘は、いつもよりざわついていた。普段なら牌を打つ乾いた音と、たまに漏れるため息だけが満ちているはずの空間が、この日はまるで昼間の酒場のようだ。カウンター席でも、個室でも、耳をそばだてた客同士がグラスを片手に小声で情報を交わしている。彼らの視線は、店の奥へと向かう廊下の先に向けられていた。

「雑用係って……名前なんだったっけ?」

「リリィだよ。」

「……あ? 聞き覚えあるな。どこかで聞いたような……」

「そりゃあるだろ。数年前にこの王都の麻雀界に突如現れて、向こうじゃ“最強の女雀士”って呼ばれてた天才だ。わずか数年で麻雀界の頂点に駆け上がり、誰にも手がつけ
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     「おいおい、本当に聞いたのか? 昨日の勝負のこと」「聞いた聞いた。ミミって小娘の代打ちに出た雑用係の女が、あのエドガーをぶっ倒したって話だろ? もう雀荘中がその話題で持ち切りだ」「しかも一晩で、あのエドガーの全財産をほぼ持っていったらしいじゃねぇか。いったい何があったんだ?」「信じられねえよな。雑用係だぞ? ただの掃除女が、王都の裏麻雀界でも屈指の打ち手と謳われたエドガーを、一方的に叩きのめしたってんだから」昼下がりの王都雀荘は、いつもよりざわついていた。普段なら牌を打つ乾いた音と、たまに漏れるため息だけが満ちているはずの空間が、この日はまるで昼間の酒場のようだ。カウンター席でも、個室でも、耳をそばだてた客同士がグラスを片手に小声で情報を交わしている。彼らの視線は、店の奥へと向かう廊下の先に向けられていた。「雑用係って……名前なんだったっけ?」「リリィだよ。」「……あ? 聞き覚えあるな。どこかで聞いたような……」「そりゃあるだろ。数年前にこの王都の麻雀界に突如現れて、向こうじゃ“最強の女雀士”って呼ばれてた天才だ。わずか数年で麻雀界の頂点に駆け上がり、誰にも手がつけられない怪物だったって話だ」「は? それがなんでここで雑用やってんだ。そんな才能、放っておくわけねぇだろ」会話に割って入ったのは、卓を囲んで牌を並べていた中年男だった。彼は深く煙草をくゆらせ、薄い笑みを浮かべながら口を開く。「お前ら、知らないんだな。リリィは一度、表舞台から姿を消した。その理由は誰も知らないが……裏じゃこう言われてる。八百長の濡れ衣を着せられたってな」「八百長……まさか、あのリリィが?」「ああ。ただ、それを信じちゃいない奴の方が多い。彼女を知る者たちは、むしろ“リリィがそんなことするか”って言う方が大半だ。それほどまでに、彼女の打ち筋は純粋で、誰よりも麻雀を愛していた」その噂話に、近くの若い従業員がふっと口をはさんだ。「俺、昨日の打ち筋見てたけど……あれはもう、反則みたいなもんだよ。エドガーがどんな巧妙なイカサマを使っても、リリィさんの前では何一つ抵抗できなかった。まるで、エドガーの手牌や心の動きが、全部リリィさんに見えているみたいだった」その頃――店の奥の物置部屋では、リリィとミミがほこりをかぶった丸椅子に腰掛けていた。窓から差し込む一筋の光が、埃の

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