All Chapters of 自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです: Chapter 11 - Chapter 20

32 Chapters

第十一話 ルシフェルは直感を信じる&クッキング・メシア!

「その、あれだ。リリスはどうも怖い夢を見てしまったらしいぞ。それで我の所に来たのだ。な?」 とっさに「かばう」方に判断の舵を切った。もし今回のことが公になればこの子は帝都に送られるだろうが、俺を手にかけようとしたということで、どんな目に合うかわからない。 もう一点、これは根拠も何もないが、彼女は傍に置いておかないといけないと勘が囁いている。俺は小五のある日、たまたま気が変わって普段と違う道で帰ったら、本来の帰り道でトラックが歩道に乗り上げて大事故を起こしたということがあって以来、自分の直感というものを信用することにしている。「そうなのですか、リリス?」「えと、リリスは……」「さあ、もう一度休むといい。騒がせたな、ベル。もう戻って良いぞ」 ベルの問いに、リリスが馬鹿正直に答えてしまいそうだったので、慌てて彼女の口を抑えてフォローする。ベルは釈然としない様子だったが、自室へ戻って行った。しかし、一歩間違えれば俺がリリスを連れ込んで良からぬことをしようとしたと誤解されかねない場面だったな。信用って大事だ。「リリス、さっきのことは我の胸中にしまっておく。お前もそうせよ」 小声で言い聞かせると、彼女は小さく頷いた。「再確認しよう。さっきのは自分の意志ではないのだな?」 再び頷く。怯えようから、嘘を吐いているようには見えない。ふむ、どういうことだろうな? 例えば、神や天使に操られている? だが、仮説の域を出ない。ただ、この子に非がないなら、俺や周囲が腫れ物を触るように扱うことは、彼女を傷つけてしまうだろう。ならば、普通に接することが一番だ。 もう一度ベッドに横になり手招きをすると、やや躊躇していたものの、リリスも入ってきた。 きっと、少なくとも今日はもうあんなことは起こらないだろうという、無根拠の安心感、楽観と言ってもいいかもしれない――があった。 そして事実、何も起きなかった。 ◆ ◆ ◆ 朝、皆で昨日の残りの魚を食んでいると、『獣』の咆哮が上がった。天使襲来の知らせだ! 館から外に出れば、東の空に雲霞の如く湧く天使。早速シャミールも召喚して、迎撃に移る。 すると、何かが一直線に飛んできて、ベルやサタンの展開する障壁を破壊したが、俺の障壁には傷一つ付けることがでずに終わる。跳ね返ったそれは、槍だった。槍が、進
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十二話 リリスのいちにち&進撃の駄狼

 チュンチュンという鳥の声で目がさめたよ。お兄ちゃんはまだねてるね。おこしたらかわいそうだよね。きのう、がんばって『うどん』作ってたもの。 少しだけまどを開けて、お日様の光を入れたら、ちょっとまぶしい。おなか空いたな。ごはん食べに行こうっと。 ◆ ◆ ◆「おはよー」「お早うございます、リリス。今お魚焼いてあげるからね」 ユコお姉ちゃんがいたから朝のごあいさつをして、いすにすわって足をぶらぶらさせてたら、パンとやいたお魚を出してくれた。お魚おいしいな。パンはがんばって食べるけど、かたいなあ。「お早う、二人とも。リリス、きちんと食べて大きくなるんだよ~」「お早う~。今日も元気だね」 シトリーお姉ちゃんとウィネお姉ちゃんに頭なでられちゃった。えへへ。リリスの向かいに、二人ともならんで座って仲良しさんだね。「お姉ちゃんたちはけっこんしてるの?」「まだだけど、この戦いが終わったら結婚しようか、シトちゃん?」「そうだね~、それもいいね。ルシフェル様に祝福してもらったら最高だよね」 リリスも、大人になったらお兄ちゃんとけっこんできるのかな。およめさんってすてき。「うおー! 腹減ったぞー! 飯食わせろ!」「朝から騒々しすぎます、あなたは。もう少し大人しくなさい。皆、お早う」 シトリーお姉ちゃんとウィネお姉ちゃんが、ベルお姉ちゃんに立ち上がってごあいさつ。前、リリスもまねしようとしたら、「リリスはまだ小さいからいいんですよ」って言われちゃったから、ふつうに朝のごあいさつ。 マルコお姉ちゃんが、「よーしよしよし」って言いながらだきしめてくる。ベルお姉ちゃんにも頭なでてもらっちゃった。それにしても、なんでマルコお姉ちゃんはベルお姉ちゃんに、ひもでつながれてるのかなあ?「ベル様、お早うございます。皆さんもお早うございます」「おっはよー、みんなー!」 フォルお姉ちゃんとサタンお姉ちゃんもおはよう! また頭なでられちゃった。サタンお姉ちゃんは、何かなつかしい感じがするの。ふしぎ。「諸君、お早う。リリス、先に食事してたのか。ユコ、魚は足りるか?」「そろそろ厳しいですね。一応、干し肉とパンは残ってますけど……」 お兄ちゃんもやっとおきてきた。みんな立ち上がって、おにいちゃんにごあいさつ。「リリスはまだすわったままでいいぞ」って言われてるから、すわったま
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十三話 覚醒&エテメンアンキ

 パダールに着いてから五日目の朝が来た。降雨につき、本日はサタン、リリスと共にラドネス語の座学。なお、マルコはベル監視の下、風呂場の壁を絶賛修繕中である。壊したのは俺だが、原因を作ったのはあいつだからな。 ラドネス語を学んでみて分かったのは、日本語、すなわちこの世界の魔法語を習得している者にとって、かなり憶えやすい言語ということだ。この分なら、半年後ぐらいには結構使いこなせるようになっているかもしれない。 しかし、こうして美女・美少女に囲まれつつ勉学に励むというのは実に有意義であるな。「メダスというのは、他には例えば――」 マンツーマンで教えてくれてるフォルに質問しようとしたその時、『獣』が咆哮を上げた。天使~空気読めよ~! 一同揃って表に出てみれば、そこには全長十メートルはあろうかというクッソでかい六枚羽根の天使が城壁越しに立っていた。というか、このボロ布のようなローブに長くて白いヒゲ。ものすごーく見覚えがある。「ひょっひょっひょっ! ワシじゃよ、死んだと思ったか? じゃがワシは一度だけ巨大化して蘇ることができるんじゃよ!」 ラ ジ エ ル、 ま た お 前 か。 あーまー、道理で手応えがまったくないと思ったよ。「見よ! さらにパワーアップした触手を!」 またもやあの半透明の触手が地面から伸びて、俺たちを絡め持ち上げる。前回より数が多い。当社比三倍という感じである。「だからお爺ちゃん、こういうのは好きじゃないってあれほどー! はぁうん……っ」「やーめーろー! 股に這わせるなー! 気持ち悪いゾー!」「皇女たる私が二度までもこんな……! くっ、殺しなさい!」「いやああああ! シトちゃん助けてー!」「お兄ちゃーん! 何これ、ぬるぬるして気持ち悪いよぉ……っ!」 雨で肌に張り付いたエロコスに触手が絡みついてえらい絵面になってやがる。 あーもう最悪だよ。雨だわ勉強の邪魔されるわ触手だわラジエルだわでめっちゃテンション下がるわー。潰す! 念入りに、二度と蘇らないように徹底的に潰す!!「うねり猛り狂う奔流よ! 命育みまた奪う水霊よ! 我が敵を流却せよ!!」 ラジエルの周囲に渦巻く激流が生じ、奴を飲み込み、地の底へと引きずり込んでいく。「あ……あ……あいるびーばーっく!!」 断末魔が響き渡り、地の底へと流されてそ
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十四話 将軍シェム・ハザーのヒミツ

 さらに日が経過して、帝都に疎開していた者の再移住と、さらなる戦力増強が行われた。好天の中、パダールのいたるところで再建が進められつつある。そしてついに、俺がベルに頼んでいた物も届いたようだ。「仰っていた物はこれですべてのはずですが、何にお使いになるのですか?」 広場でベルたちと野次馬の子供が不思議そうに見守る中、この間ベルに頼んで置いた物を並べていった。磁石に長いエナメル線、やや長い銅線二本、銅板多数に亜鉛板も多数。さらに食塩水と多数の薄い布。そして鉄製の上部が上向きのU時になった、立てられる鉄器。あとは工具と丸太。さすが現代風眼鏡などというオーパーツが存在するだけあって、エナメル線が手に入ったのは僥倖というほかない。 早速工作開始だ。まず、丸太にエナメル線をこれでもかというぐらい巻きつけコイルにする。ある程度巻いたら、端の部分を伸ばして片方の端は全面エナメルを削ぎ落とし、もう片側は半分の面だけ削ぎ落とす。これを鉄器のU字部分に渡し、端っこをわかりやすいようにL字型に曲げておく。 続いて、コイルの下に磁石を置き、銅線をそれぞれの鉄器に結んで伸ばす。一つの銅線を地面に置き、亜鉛板、食塩水を含んだ布、銅板、食塩水を含んだ布、亜鉛板……と順番に重ねていき、てっぺんの銅板にもう一方の銅線を接触させると、L字に曲げた部分がくるくると回りだした。周囲から感嘆の声が上がる。「ルシフェル様、これは何という魔法ですか!?」 フォルが、興味津々に至近距離でガン見しながら眼鏡のブリッジを上げる。「魔法ではない、科学の一つだ。この回っている装置はモーター、銅板と亜鉛板と食塩水を含んだ布で作った物は電池という。磁石を強いものにしたり、エナメル線の巻き数を増やしたり、電池をもっと多くすればさらに早く回るぞ」「さすがです、ルシフェル様……」 恍惚とした表情で頬に手を添えるフォル。フハハハ! もっと褒めるがいい!「ちなみに、モーターの軸を回せば、逆に電気、モーターを回してるパワーだな、それを生み出すこともできる」 このぐらいヒントを与えておけば、あとは自力で研究が進むだろう。帝都にきちんとしたモーターが登場する日が楽しみである。 ◆ ◆ ◆ エテメンアンキを探すといっても、ヴェイヴァルは広い。途中に帝国の元拠点も多数ある。そこで、ついに魔導師隊・三十万
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十五話 百合ップルの危機!

 これはどうしたことか、夢か幻でも見ているのか。 ちゅーちゅん事件の翌朝、朝食のテーブルでシトリーがウィネに色々話しかけているのだが、ウィネは不快そうに耳を伏せ、尻尾を大きく振って無視し続けているのだ。確か尻尾振りは、猫の激おこ状態サインだ。これはただごとではない。 ◆ ◆ ◆「何があった?」 朝食後、一人になったシトリーを呼び止め尋ねた。「実はですね、昨日はボクとウィネのファーストキス記念日だったんです。ところがそんな大事なことをうっかり忘れてて、朝まで爆睡してしまって……。ウィネ、プレゼントまで用意してくれてたんですけど。もう、何度も何度も謝ってるのに、全然赦してもらえなくて……」 尻尾を足の間に巻き込み、組んだ指を落ち着きなく動かすシトリー。いやはや、ここまで凹んでる彼女を見るのは初めてだ。元気娘シトリーが、内気なウィネの尻に敷かれてるのか。百合ップルは実に奥が深い。「どうしましょう、ルシフェル様。ウィネに嫌われたら、ボク生きていけません!」 胸元に両拳を当て、潤んだ瞳で青褪めた顔を向けてくる。尻尾はよりいっそう巻かれ、耳は元気なく伏せられている有様。これはもう見てらいれない。「我に任せよ。何とかしてみせよう」 目処などまったく立たないのに、つい断言してしまった。だが、百合ップルの幸せは俺の幸せでもあるのだ。 ◆ ◆ ◆「確かに、あたしも強情だとは思うんですけど……」 尻尾を垂らし、腰の前で手を緩く重ね握って恐縮するウィネ。「でもですね! あたし、一週間以上前からすっごい楽しみにしてたんですよ! シトちゃんのために、密かに手袋編んでおいたんです。これから寒くなるからって!」 腕をピンと伸ばして拳を外側に向け、尻尾をぶんぶん振る。こんなに怒ってるウィネも、初めて見るな。 さてどうしたもんか。これは、どちらかといえばウィネの問題といえる。彼女が快く赦せば丸く収まる話なのだが、引っ込みがつかなくなっているのだろう。俺の立場で仲直りしろと言っても命令にしかならないだろうから、それで解決したとは言い難い。何かきっかけがあれば良いのだが……。 こうなると、一緒にこの問題を考えてくれる人材が欲しくなる。マルコ、論外。ベル、これ以上心労をかけたくない。シェム、昨日会ったばかりでこんな相談を持ち込むのもなあ。融通利かなそう
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十六話 ユコの決意、ルシフェルの決意

 ラジエル騒ぎで一日遅れたが、昼過ぎ、帝国軍三十万はついにパダール出立の準備を整えた。やはり全員騎馬というわけにはいかず、俺の立てたヴェイヴァルまで二十五日という予想よりはずっと遅れそうである。「はあ~~~~~~……」 これからいざ出陣というのに、ユコが辛気臭い長いため息を吐く。実は、今朝からずっとこんな調子だ。「何があった、ユコ。悩みがあるなら話してみよ」 どうにも見ていられなくなって、問うてみた。少し悩んだ末に、こう切り出してきた。「赤ちゃんを産みたいんです」 これまたぶっ飛んだ答えが返ってきたものだ。「今朝、館の前を掃いていたら、妊婦さんを見かけまして。子どもを産めない自分の体が、凄く悲しくなってしまったのです」 うーむ、いやはや。性同一性障害者の悩みというのはかくも深いのか。性転換魔法でもあると良いのだが。 実は以前、ものは試しとユコに性転換の魔法を試したことがある。もちろん、前例などないからでっち上げた詠唱をあれこれ試すというものだった。しかし、どれも上手く行かなかった。無から麦畑まで作れるチート能力の持ち主としては、プライドが傷つく限りだが、ユコに絶望を与える結果にしかならなかったと思うと、実に心が痛む。何とかしてやりたい。 そんな思案を巡らせていると、知識と知識が化学反応を起こし、突飛なアイデアに化けた。傍らで指揮をしていたベルを呼び止める。「ベル、妊娠した馬は居ないか? 同行させてほしい」「妊娠した馬ですか? ……分かりました、連れて行かせます」 また突然何をこの人は言い出すのかという顔をしていたが、俺のこうした突飛な言葉は常に科学という結果を伴ってきた。だからベルも、俺がまた新たな奇跡を見せるつもりだと気付いたようだ。「あと、毛糸と小石と砂利、砂、消し炭と底を切ったワインボトルを用意してくれ。なるべく多い方がいい」 ベルがメモを取り、通りがかりの作業員に渡す。思いついたのが街を出る前で良かった。 それでは、いざ出発! ◆ ◆ ◆ 日が傾き、空が夕焼けに染まる頃、パダールを出て最初の野営拠点設置の最中、俺は馬手にある妙な頼みをした。「妊娠馬の尿を桶に集めて持って来てくれ」 というものである。最近は簡単なラドネス語は話せるようになっていたので通訳は必要なかったが、まあ変な目で見られたものだ。だが、これはユコのた
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十七話 ミカエルの懊悩&故郷に響く歌

 天界の円卓で、ミカエルは一人頭を抱えていた。ルシフェル率いるラドネス軍の猛攻で、大陸の地図が十数年ぶりに人類色に塗り替えられつつあった。天使の数も、およそ最盛期の五割近くまで落ち込んでいる。ラドネスが戦勝報告を他国にも飛ばしているのであろう、多方面の反乱も活発さを増しつつあった。 ウォッチャーの報告によれば、あのオフィエルまでもが積極的にルシフェルらを支援するものではないが、離反したという。 戦力の逐次投入など愚の骨頂であるが、これは神の命である。 実のところ、神になぜ総出でルシフェルを討たないのかと秘密裏に問うたことがある。しかし、返ってきた言葉は一言、「お前の知る必要のないことだ」というものであった。 ラファエルがそれでも多数を以て戦うべきだと述べたが、その意見は却下した。自分の立場としては、そうせざるを得なかった。 サタンを解き放ったことなども考えると、不敬な疑念がどうしても鎌首をもたげる。「フッ……」 変な笑いが溢れた。そしてその笑いは、虚しい馬鹿笑いへと変わっていった。 ◆ ◆ ◆ ラドネス軍は『獣』を哨戒に就かせ、そのだいぶ後方に俺とゆかいな仲間たちを先頭とした集団を形成して行進していた。何ぶん俺が異様に強い上に、敵側が散発的に戦力をぶつけてくるので、さしたる被害も出ずに連戦連勝である。ことに最近は、以前よりもより魔力が増していると感じる。 次の目的地ザイドハーマを奪還すれば、そこをやや南下したところにヴェイヴァルがあるらしい。この東進は、旧拠点を固め直さずに、電撃的にひたすら進撃する方策を採っている。兵站線は伸びる一方だが、それほどに、皇帝やシェム将軍はエテメンアンキの早期入手が重要事項と見ているのだろう。 『獣』が咆哮を上げた。どうやら、新たな天使軍と遭遇したようだ。 ◆ ◆ ◆「ドラス、ロシュ両竜佐は騎兵一万ずつを率いて左右に展開、天使を包囲せよ!」 シェムの命令が伝達されていき、騎馬隊が平原を激流のように左右に流れていく。残る騎兵と軍の多くを構成する歩兵は、真正面から天使とぶつかる算段である。そして最前線で矛となり、また盾となるのは俺の役目だ。 『獣』に続いてシャミールはすでに召喚してあり、今回はさらに悪魔学で思い出した存在の召喚を試みる。「獄炎より生まれし鋼の機巧巨人たちよ! 魔導と業火を以て敵を焼き尽くせ!
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十八話 皇帝バフォメット

「宮殿にご案内致します。ルシフェル様、こちらへ」 時間は、フォルたちを紹介され、ベルの後に付いて宮殿へ向かう所に遡る。 皇女に先導され前方に見える巨大な宮殿へと向かうが、もの凄い熱狂だ。誰も彼もがルシフェルの名を讃え、俺目掛けて押し寄せようとしてくる。ベルが素早く人間バリケードを組んでくれなかったら揉みくちゃにされていただろう。 興奮した魔導師が一人、命令違反を犯して飛びかかろうとしてきたが、ベルによって鮮やかに群衆の中に投げ飛ばされた。一瞬の出来事でよく分からなかったが、爆乳が印象的な奴だったな。 サービスの意を込めて片手を挙げると、声援がより一層強まる。いやはや、まるで芸能人……いやそれ以上だ。しかし、この声は『俺』ではなく、コテハンと同姓同名の『ルシフェル・アシュタロス』に向けられたものなんだよな。あのウリエルなる大天使を倒したのは、間違いなく俺自身の力なのだが、そう思うと少し切ない。 ◆ ◆ ◆「待て! 待ってくれないか!」 ベルの歩調に合わせて十分ほど歩いたら息切れがしてきた。俺、ヒッキーなんだぜ。歩くの早いよ、お前!「もう少しゆっくり歩いてくれ。あれだ、ジュデッカが永かったものでな」「申し訳ありません! 考えが至らず……」 深々と頭を下げられてしまった。そこまで恐縮されると、むしろこっちが申し訳ない気分になる。どうも、俺の言葉は思った以上に絶対的なもののようだ。発言には気をつけなければ。 ペースを落としてゆっくりとさらに十五分ほど歩くと、城門にたどり着いた。槍を持ったコテコテなファンタジーの門衛が敬礼し、扉を開ける。 これほどの大宮殿だからどれほど豪奢な内装が出迎えてくれるかと思ったら、造りは質素なものだった。代わりにと言っては何だが、四、五十人の召使いが出迎えてくれる。基本男が多く、女はかなり歳を取った者だけだ。いかにもな若いメイドは一人しか居ない。魔導師隊を見て思ったことなのだが、どうもこの世界では若い女が戦力として重要で、そちらに女手を割かれているようだ。「早馬から伝わっているでしょうが、ルシフェル様をお連れしました。陛下は?」「ご自室にて、ルシフェル様と殿下をお待ちでございます」 一番位が高いと思われるメイドがベルに返答する。自室とな? 玉座の間とかそういうのではないのか?「分かりました。ルシフェル様
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第十九話 質素な晩餐会

 皇帝との話も終わり、食事をすることになった。食堂に行くと、漫画でしか見ないような、白いテーブルクロスの掛かった長いテーブルの上に火の灯った燭台が幾台も乗せられ、ベルと重臣思しき人々がすでに食事を始めていた。皆、俺の姿を見ると、一斉に起立し、頭を下げ挨拶をしてきた。 俺の到着まで食事を待っていてくれないのかよとこのときは思ったが、後で知った所によると「食べられるときにすぐ食べておく」というのがラドネスでの風習らしく、戦時中であることを考えると、合理的な考え方なのかも知れない。 召使いに椅子を引かれ着席すると、ややあってパンとハムっぽい肉、それと謎の黄色い飲み物が運ばれてきた。ふむ? コース料理だろうか。それにしては、いきなり最初が肉とパンというのがよくわからないが、まあ異世界だしな。作法も違うのだろう。 さっそく食べてみるが、ハムっぽい肉は割とうまい。ただ、パンのほうがどうにも酸っぱい。確か、何かで聞きかじった所によると、ドライイーストが生まれる前のパンはパン生地を継ぎ足しながら、前のパン生地のイースト菌で発酵させるため乳酸菌なども増えて酸っぱいのだったな。この飲み物は……ほんのり甘くて微炭酸。なんというか、コーラに風味がよく似ている。ていうか何だ? 妙に気分が良くなってきた……。ひょっとして酒か、酒なのかこれ!? うーむさすがファンタジーな異世界、十四にして飲酒する羽目になってしまった。 さて、食べ終わってしまったぞ。目の前の皿が下げられる。次は何が運ばれてくるのだろうか。 しかし、いくら待っても次の料理が来る気配はない。よく見てみれば、ベルを始め皆にも次の料理が来る気配はない。「つかぬことを聞くが……ひょっとして料理はあれで終わりか?」「はい。本来ならルシフェル様にはもっと良いものを振る舞いたかったのですが、農民がまともに作業をするのも危うい有様ですので……」 ベルが心の底から申し訳無さそうな顔をする。そうか、そこまで困窮しているのか。なんとかしてやりたいものだ。こうして、質素な晩餐会は終わった。 ◆ ◆ ◆「ルシフェル様の世話は、彼が務めさせていただきます」「ユコ・バックと申します。よろしくお願いいたします、ルシフェル様。精一杯お世話させていただきます」 食事が終わると、応接室でメイド長の年配女性によって、おさげのメイドが紹介された。
last updateLast Updated : 2026-07-16
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第二十話 好きなだけ甘えていいんだよ?&ラファエル

 真っ暗な空間。天地左右も分からず、そこにただ居るという感覚。 気分が悪い。ここから出たい。 いきなり何かに足を掴まれた。「私たちだって生きているのに。まだ死にたくなかったのに……!」 天使だ。俺が殺した名もない天使の誰かだ。眼球はなく、暗い眼孔が覗いている。「よくも殺したな」「呪ってやる」「ただ命令に従っただけなのに」 幾人もの天使が足に絡みついてくる。引き剥がそうともがくが、まったく振り払うことが出来ない。 さらに、ウリエル、ザカリエル、アナエルら、今まで屠ってきたセクンダディが恨み言とともに体を引きちぎろうとする。 体に激痛が走る。痛い。苦しい。 やがて、俺の体は八ツ裂きにされた。 ◆ ◆ ◆ 視界が広がる。見慣れたテントの中だ。そうか、夢だったのか。嫌な夢を見た。あんな悪夢を見ても、漫画みたいにガバッと起きないもんなんだな。体中汗だくだ。水差しからコップに水を移して飲む。寝起きの喉に染み渡って旨い。 テントの入口から顔を出すと、二人の衛兵が敬礼して「おはようございます、異常ありません」と言葉をかけてくる。空を見れば、東の空が白み始めている。「少し出かけてくる」 二人にそれだけ言い残し、ザイドハーマをうろつくことにした。 天使の命か。考えたこともなかったな。いや、敢えて考えないようにしていたのかも知れない。だが、俺を慕う者のために戦うと決めたのだ。ここで信念がぶれてどうする。「ルシくん!」 海の見える高台で物思いにふけっていると、背後から突然呼び止められた。この呼び方をするのは当然――。「サタンか。奇遇だな」「んー……?」 どうしたサタン。俺の顔に何かついているか? などと思っていると、突然両手で頬を軽く押さえられた。「ルシくん、凄く疲れた顔してる」 心の底から心配そうな声音だ。「あのさ、ルシくん。私はルシくんのお姉ちゃんだから、好きなだけ甘えていいんだよ? 辛いこととか、全部吐き出していいの」 そう言って、彼女は俺を抱きしめた。サタンは百七十センチ以上はある長身なので、こういう構図が非常に様になる。いい匂いだな。胸は固いけど、それがいい。そこがいい。「すまんな、サタン。少し甘える」 彼女の手が、優しく後頭部を撫でる。俺が誰かにこんな風に甘えたのは生まれて初めてかもしれない。「嫌な夢を見たよ
last updateLast Updated : 2026-07-16
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