あの気分が悪くなる天界の出入り口を抜け、一路ザイドハーマを目指す。ヴェイヴァルはエテメンアンキが見つかったあとでは維持する価値がないので、ベルたちもシェム将軍の部隊に合流する手はずになっている。 しばらく飛んでいると、すでに懐かしさすら覚えるあの朽ちた港街が見えてきた。潮風の匂いが鼻孔をくすぐる。 虚空に花火のようにラドネス語で巨大な「勝利」の文字を描く。これで望遠鏡を持った見張りが気づいてくれるだろう。 距離が少し縮まってくると、風に乗って三十万の歓声が聞こえてくる。 魔導師たちが諸手を挙げている姿が視認できるようになった。先頭付近で落ち着きなく飛び跳ねてるのは……マルコ以外考えられない。すでにベルたちが合流しているということは、思いの外時間が経過したらしい。抱き合って喜んでいるものまで居て、女所帯ならではの光景だなと益体もない事に思いを巡らせてしまった。 ◆ ◆ ◆「ルシフェル様、ご帰還お待ちしておりました!」 跪く群衆の前に舞い降りると、制服姿に戻っている先頭のベルが面伏せたまま言葉をかけてくる。彼女の後ろには久しぶりに会うシェム将軍が伏せている。そのやや後ろで数人がかりで頭を押さえつけられてるのは……まあ、確認するまでもないな。「堅苦しい挨拶はしなくていい。皆、面を上げ、楽な姿勢になるといい」 言葉に従い、皆が立ち上がる。「色々と話したいことがあるが、まずは、こう言っておこう。神はもう居ない! 我らの勝利だ!」 再び巻き起こる黄色い歓声。いやはや、三十万人もいると凄いボリュームだ。「ルシフェル様、我々は救われたのですね。どれほど感謝を述べたら良いのか分かりません。ラドネスの民を代表して、感謝いたします……!」 拭っても拭っても溢れてくる嬉し涙を止めることができないまま、ベルが述べる。彼女を見ていると、パダールでのあの夜を思い出す。人々の思いをその細い肩に背負った皇女。君は本当に優しくて責任感の強い女性だ。「勝利を信じておりました! 軍を預かる身でありながら、ルシフェル様のお力に頼り切る形になり、自らの非才を恥じる次第です……って出てきちゃダメぇ!」 シェム将軍が生真面目を絵に描いたような顔で頭を垂れると、どうやらテントからちゅーちゅんがほっつき歩いて来てしまったようで、慌てて隠している
Last Updated : 2026-07-16 Read more