All Chapters of 自称・漆黒の堕天使が異世界を改革するようです: Chapter 21 - Chapter 30

32 Chapters

第二十一話 強襲・ラファエル!

 ザイドハーマから旅立ち一週間目、ついにヴェイヴァルへと到着した。正確にはヴェイヴァルだったと思しき場所と言ったほうが良いだろうか。 風化が進んでおり、城壁や石造りの建築物がかろうじてその一部を残しているような有様で、まさに廃墟という言葉がふさわしい。 世の中には廃墟マニアというのが居るようだが、こうも風化が進んでいると彼らの興味が惹かれるのかどうか気になるところである。 いや、そんなことはどうでもいいな。問題はエテメンアンキが遺っているかどうかだ。 オフィエルが頑張って描いたエテメンアンキの復元図を広げる。……申し訳ないが、非常に前衛的な絵画と言わざるを得ない。しかし、手がかりはこれだけである。まあ、それっぽい物を見つけたら彼女に鑑定してもらえばいいだろう。「各自散開し、エテメンアンキを捜索せよ!」 ベルの号令下、再現図の複製を手に、方々へと散っていく。ヴェイヴァルはかつての大都市であるから、相当広いのだろう。正直一万人で探しきれるかというのも怪しい。もともと分の悪い賭けだが、運に味方してもらう他はないな。 ◆ ◆ ◆「サタン。上から見てどうだ?」「これといって見当たらないねー」 上空からの探索をサタンに任せつつ、こちらはオフィエルとともに地上の視点からエテメンアンキを探す。所々瓦礫が転がっていたりもするが、この下にあったとしたら厄介だな。「いいよねえ、サタンお姉ちゃんは~。オフィエルちゃんもまた飛びたーい!」 いや、待っててもらって良かったんだがな。一緒に行きたいと言い出したのはお前じゃないか。「歩き疲れたのか? 疲れたなら休んでいていいぞ」 実際俺も結構疲れてきたところだが、サタン以外にはどうにも弱味が見せづらいものがある。「そうだ! おんぶしてよお兄ちゃんっ☆」 無茶言うな。召喚当初より体力はついたが、流石にそれは無理な相談だ。「私が運んであげようか?」「やったー♪」 ナイスアシストだ、サタン。両手を挙げて喜びを表すオフィエルを抱え上げ、天使ーズは再浮上しようとする。そんな微笑ましい光景を眺めていると、突然俺を何かが襲った! 一瞬確認できただけだが、それらは雷撃、氷塊、棒状のもの二本、それに大鎌だった。危ないな、おい! 自動ガ-ドがなかった死んでたぞ!「驚いたね! 話に聞いてた以上に硬いや!」 金髪優男風の天使が肩
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十二話 奇跡

「よしきたルシくん! お姉ちゃんにまっかせなさーい!」 弾丸のようなスピードと蝶のような華麗な回避術で、短剣の天使とドッグファイトというべきか、キャットファイトというべきか表現に迷う熾烈な奪い合いを繰り広げるサタン。そんな彼女を残りの天使が妨害しようとするが、そこは俺が魔法で援護だ。ここまで必死に護るということは、やはりあの短剣がキーアイテムということだな!「深淵の魔と堕天使の叡智の下、守護の障壁を賦与せり!」 サタンに追加の障壁を賦与する。何だか、今まで出てきた魔法の総決算という感じだ。 ついでに俺自身の障壁も重ねがけで強化しておく。サタンがあれを奪うまでは、じっと我慢の子である。 犬猫ファイトが繰り広げられること数分、ついにサタンが得物を叩き落とし、奪取することに成功した。「やったよルシくん! お姉ちゃん頑張った……ひゃうっ!?」 歓喜の表情で短剣を振り回すサタンだったが、横合いから魔法だの武器だのを喰らい、ダメージこそないものの衝撃でぐらついてしまった。「ちょっとルシくん、受け流しが発動しないよ! これ外れだったんじゃない!?」「いいや、それで間違いないはずだ! コキュートスを流るる死の江流よ! 全てを凍てつかせるその無情を以て、我が敵を砕け!」 狙いを槍使い二人と鎌使いに絞り、凍結粉砕の魔法で一瞬にして死に至らしめる。やはり、短剣狙いは間違っていなかった!「サンダルフォン、メタトロン、カマエル! くっ……六人がかりでもダメだっていうのかい、敵わないね……。なら、せめて最後に一太刀でも浴びせるさ! ガブリエル、ザドキエル! 最後の力を貸してくれ!! ルシフェル、最後に名乗っておこう! 僕の名はラファエル! ジュデッカの土産に持っていくといい!!」 優男天使が手を高く掲げると、二人の女天使も手を重ね合わせ、そこから眩い光が溢れ出す。既視感のある光景……これはまずい!「ルシくん! あの状態になったら、魔法は効かないよ!」「だろうな! サタン、オフィエル、我の後ろに入れ! 魔導師たちはすぐに距離を取れ! こいつらは自爆する気だ!!」 あらん限りの声を振り絞って周囲の魔導師たちに警告し、障壁魔法を幾重にも重ねがけする。大天使二人でサタンの翼がもがれるほどの威力だ。可能な限り障壁を張っておきたい。「オフィ
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十三話 新約の堕天使

 眼前に全員ではないが、ベルの騒動で千人以上の魔導師が集まる中、何事だろうかと皆が俺を注視する。少し躊躇するが、ここで決心が鈍ってはいけないと思い直し、口を開いた。「我は……いや、俺は、この世界の伝説の存在である、ルシフェル・アシュタロスではない」 ヴェイヴァルに吹く一陣の風とともに、ざわめきが起こる。真正面のベルを見れば、驚きで目を見開いている。「真実を明かすのは、士気に影響するかもしれないと思って偽っていたが、この世界とは異なる世界の日本という国から召喚された。本名は鈴木良太。ただ、この名前が好きではなくて、元の世界で偶然にも、ルシフェル・アシュタロスという別名を名乗っていたが、それが故か間違って召喚されたようだ」 目を閉じ、深く息を吐く。士気に影響するかもしれないというのは、半分は本心。もう半分は、拒絶されるのが恐ろしかった。「だが、全てを偽ったままどう転ぶか分からない最大の敵に挑むのは、自分の中に何か良くないものを残すと思った。どういう訳かこの世界で高い魔力を発揮できたこともあり、行動を以て救世主としての証を立ててきたつもりだ。こんな俺でも……その、いいだろうか?」 魔導師たちが再びざわめく。「我々がここまで来れたのは、ルシフェル様……良太様とお呼びしたほうが宜しいのでしょうか? 良太様のおかげです。何を問題視する必要がありましょうか」 ベルが口火を切ってくれた。ありがとう。君は本当に思いやり深いな。「ルシ……良太様はボクたちの愛を心の底から祝福してくださってます」「あたしたちの愛を見守ってくださる方を無碍に出来ましょうか」 ありがとう。シトリー、ウィネ。素晴らしきかな、愛。「良太様は私に女として生きる道を示してくださいました。感謝しかありません」 ありがとう、ユコ。本当の願いをいつか叶えてみせるよ。「そっか……。やっぱり、本物のルシくんじゃなかったんだね。薄々気づいてたよ。でもね、お姉ちゃん君のことも大好きだよ」「オフィエルちゃんも、なーんかアヤシイと思ってたんだよねー。でも、お兄ちゃんを見届ける気持ちは変わってないよ!」 ありがとう。サタン、オフィエル。でもオフィエル、お前それ絶対後付けだろ。まあいいけど。「あの奇跡の数々は異界の秘術だったのですね……。改めて言わせてもらいます。さすがです、良太様!
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十二話 気高き強敵よ

 白い雲が広がる天上の世界。一面の白雲広がる中、五十万弱の天使が片膝で跪いている。これが残存する天使の全て。その先頭に、赤髪のミカエルが居た。「天使たちよ」 彼らの前に光る球体が出現し、しわがれた声を響かせる。天使たちは、頭を垂れたまま、動かない。「ウォッチャーからの報告を聞いたであろう。あのルシフェル・アシュタロスは偽物であった。ならば、茶番はこれで終いにする。ミカエル、貴様に全ての天使の権能を与える」「はっ」 ミカエルはその意味がわからなかったが、承諾した。神は絶対だからだ。 しかしその刹那、後方から凄まじい悲鳴が大音響となって後方から聞こえてきた。驚いて振り返ると、後方に並んでいた下級天使たちがもがき苦しみながら、光の粒子へと変じていく様が視界に入る。「主よ! 何をなさっているのですか!?」 思わず立ち上がり光る球体に問いかけるが、答えはない。 元天使の光の粒子が、ミカエルの体内に吸い込まれていく。体が眩いオーラに包まれ、彼は体の隅々まで底知れぬ力が漲ってくるのを感じた。「お前には、この場に居た天使のみならず、今まで散っていった天使……ラファエルらセクンダディや数多の下級天使もだ、そのすべての力の残滓をも与えた。ルシフェル……改めてそう呼ぶが、奴も間もなく天界へ来るだろう。この期に及んでは大軍は要らぬ。その力を以て奴を滅せよ」「はっ!」 ミカエルは考える。神が何を考えているかは分からない。ただ、その命に従うだけだ。もはや自分はひたすらに堕落した人間たちを焼き尽くす、ひとつの燃え盛る巨大な炎であれば良いと。ただ、それだけを思った。 ◆ ◆ ◆「それでは皆、征ってくる」 エテメンアンキ試運転の翌朝、オフィエルの翼が十分成長し飛行可能になったことを確認すると、出立のために皆に挨拶を行うことにした。 サタンとオフィエルは俺の左右に立っており、魔導師と旗持ちたちが眼前に跪き、真摯な面持ちで俺を見つめている。本隊には早馬が昨日のうちに出ており、数日内に伝わるだろう。シェム将軍にもひと目会っておきたかったが、仕方ない。「ルシフェル様、ご武運を」 一同を代表して、キトン姿のベルが一言だけ述べた。もはや、互いに冗長な言葉は要らない。大きく頷くとサ
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十三話 一九九九年七月

「サタン、神はさらにこの上にいるのか?」 頭上を指差し彼女に問う。激戦が終われば、そこは雲が広がるだけのひたすら静寂の世界。上天の陽光、あれが神だったりするのだろうか。「どうかなあ。お姉ちゃんが会ったときはいきなり頭上に光が現れたけど……」 腕組みして首をひねる。ではオフィエルはと見れば、腰に手を当て首を横に振る。こっちも駄目か。ならば正攻法で呼んでみるか。「神! 出てこい! 貴様はすでに裸玉同然!! もはや天使の軍勢は潰え、貴様を崇め畏れる者は居ない! 人は、すでに新たな道を踏み出したのだ!」 我ながら安い挑発だなあ。「良かろう、異世界からの来訪者よ。話をしよう」 おお。なんでもやってみるものだな。一拍置いてエコーのかかった老いた声が響き、目の前に光球が現れたではないか。「飲め。毒など入っていないぞ」 一瞬後に、異常事態が起こった。目の前の白い木製のイスに白い長髭の禿頭のジジイが座っている。それはまだいい。しかし、周囲がどこのパラダイスとも知れぬ有様になっていたのだ。 青い空、さざなみの音、青い芝生にヤシの木が生い茂っている。目の前の白い丸テーブルには縁に柑橘類の輪切りを添えたグラスに入った、カットパインとバニラアイスが浮かぶ、蛇腹付きストローが刺さった氷入りの青い炭酸飲料が四杯。そして、俺は席についていた。サタンが俺から見て右手、オフィエルが左手に同様に着席している。いきなり時間も空間もぶっ飛んだ感覚だ。幻術か? 嫌な汗が滲む。 神と思しきジジイを改めて観る。赤いアロハシャツと白のハーフパンツというくつろいでいるにも程がある衣服に身を包み、美味そうに俺に出したのと同じものを飲んでいる。サタンもオフィエルもこの姿は初めて見るのか、あっけにとられているようだ。「久しいな、お前のような異世界……いや地球から来た者は。しかも日本人ときたか。同郷のよしみだ、この世界について教えてやろう」 同郷、だと……? 目の前のグラスの氷がからん、と音を立てた。「百聞は一見にしかずという。見たほうが早いだろうな」 神が右指を鳴らすと、プラネタリウムのようにドーム状に映像が展開され、音声が響く。「教祖様、世界はいつ滅ぶのですか! 一九九九年七月があと十分で終わります……!」 障子と畳が張られた、あきらかに日本の屋敷と
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十四話 怒りの日

「貴様、ただの僭称者だったのか!」「僭称《せんしょう》とはずいぶんな言われようだな。百万を超える天使はワシが生み出した存在だぞ。お前は麦畑を作って喜んでいたようだが、お前にできることは当然ワシにもできる。このテーブルセット一式と周囲の光景もそうだ。無から有を作る。これが神の所業でないなら何だというのだ。そもそも、ルシフェルになりすましていたお前が僭称《せんしょう》とか言えた義理か」 く、痛いところを突いてくるな。余裕綽々な表情が実にムカつく。「ルシくん、お姉ちゃん今いち事態が飲み込めていないんだけど……」 サタンが困惑の表情をこちらに向けてくる。「うむ、こいつはこの世界の大昔に、俺と同じ世界の日本からやってきた転移者だ。そして、この世界に来た異世界人は強力な魔法力を得る。そういうことだな、僭称者?」「概ね正解だ。ついでに言えば不老不死にもなるぞ。すでに何千年生きたか覚えておらん。時の経過とともに魔力は強まり、まさにこの世の理を外れた存在となるのだ」 やはりな。しかし、当てつけにこいつの二人称を僭称者にしてみたが、大して効いていないようで癪だ。「だが、一つ腑に落ちないことがある。俺がこの世界に来たときは二〇一七年。しかし、貴様が死んだときは一九九九年。この開きはどういうことだ?」「なんと、そんなに年数が経っておったのか。どんな理屈かは知らんが、あの世界とこっちは時間の流れ方が違うのだろう。しかしそうか、世界は滅びなんだか……」 尊大な態度を崩さなかった僭称者が、初めてため息とともに憂いの表情を見せた。「せっかくだから、少し歴史の授業をしてやろう。ただし、こっちの世界のだがな」 再び僭称者が手をかざすと、見覚えのある槍を持った、見覚えのない隻眼の一人の男の率いる軍勢と、天使たちがスーパー魔法大戦をしている光景が周囲に映る。「……バフォメット皇帝の軍勢との戦争か?」「違う。それより遥かに昔、同じように異世界から来たものが少数居た。その一人がこいつだ。こいつもまた神を名乗っておった。他にもこういう手合は居たが、すべてワシが勝利した。グングニールなどの神器は、こいつらから鹵獲したものだ」 どこかで
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十五話 約束?

122 †漆黒の堕天使†ルシフェル・アシュタロス 2016/11/11(金) 19:34:47我を崇めよ123 名無しさん@666ちゃんねる 2016/11/11(金)  19:37:32あ、ルシフェルさんだ! こんばんは!124 名無しさん@666ちゃんねる 2016/11/11(金)  19:39:15>>122こんばんはリア充うらやましいっす126 †漆黒の堕天使†ルシフェル・アシュタロス 2016/11/11(金)  19:41:22>>123-124うむ。良い心がけだ ……ふう、今日も見知らぬ誰かたちと心地よい挨拶を交わした。黒のルームウェアを着た、666ちゃんねるの名物コテハン『ルシフェル・アシュタロス』こと、俺『鈴木良太《すずきりょうた》』は、PCのキーボードをタイプする手を止め、手元の五百ミリペットボトル入りの「ほ~い紅茶」を一口飲んだ。 少し休憩しよう。椅子を反転させ、自室を見渡す。蛍光灯に照らされた室内には、シングルベッドに本棚にクローゼット。左手の閉め切ったカーテンの上にはエアコン。右手に出入り口のドア。そして後ろにさっきまで使っていた机とPC一式。それだけ。味気ない部屋だが、ここが俺の聖域だ。中二の五月に中二病を発症したが、それがきっかけでブレイクし、すっかり校内の人気者である。もうあれから半年か。 少し目を閉じて、再びPCに向き直る。PC越しに見知らぬ人々にすら敬愛される日々。こんな充実した毎日、いつまでも続かないだろうか。 そんな思索にふけっていると、食事に呼ぶ母さんの声が階下から聞こえてきた。 ◆ ◆ ◆「良太~!」 ダイニングのドアを開けると、突然ハグされた。これもいつもの光景だ。それにしても母さん胸ないよな。「おはよう」 父さんも頭をなでてくる。さすがにちょっと恥ずかしいぞ。夕飯が冷めてしまうよ。特に取り柄らしい取り柄はないけれど、そんな俺を両親は心から愛してくれている。 いつもの光景。おなじみの光景。……でも何だろうか、妙な違和感を感じる。 美味しい手料理を食べた後、めんつゆが残り少ないとのことで、お使いを頼まれてしまった。まあ、ちょうど漫画の立ち読みでもしようかと思っていたからいいけれど。 ◆ ◆ ◆「こんばんは。良くん!」 一軒家を出たら、お隣に住んでる|間《はざま
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十六話 約束!

「鈴木くーん!」 秋の心地よい日差しの中、銀杏の繁る市立公園の南口でスマホをいじっていると、正午ぴったりに鈴村の声が聞こえてきた。まめというか、本当にしっかりものだな……などと思ってそちらを見れば、飼い犬の丸子に半ば引きずられるようにして彼女が駆けてくる。 落ち着いたおしゃれという相反する要素をまとめ上げているところに、彼女の人柄がよく出ていた。赤いリュックが特に目を引く。何が入っているのだろうか? 丸子というのは鈴村家で飼われている、でかいシベリアンハスキーだ。そしてこいつがまた……。「わっぷ、舐めるな、舐めるなって!」 異様に俺に懐いている。というか、以前思いっきり腰を振られたことがある。お前、雌だろうが。 しかし、デートと犬の散歩を兼ねるとか、鈴村はどこかずれている部分があるようだ。まあ、これをデートだと考えたのは、俺の一方的な思い込みではあるのだけれど。 ……やはり妙だ。丸子とも何か大事な約束をしていた気がする。本当に、昨日から何なんだ?「鈴村、どこか行きたいところとかあるの?」 妙な疑問を振り払うように、質問をする。「落ち着いて話ができるところならどこでも!」 落ち着いて話がしたいのに丸子を連れてきたのか。やはりどこかずれてるな、彼女は。 ◆ ◆ ◆ カルガモの親子が呑気そうに泳ぐ池の畔で、ベンチに腰掛けることにした。柵に繋がれた丸子が、リード一杯に俺に飛びつこうと頑張っている。本当に落ち着きが無いな、こいつ。 学校のこと、友人こと、教師のこと、将来のこと、新しいアプリ。そんな他愛もない平和な話をお喋りする。「こんにちは、良お兄さん」 聞き覚えのある声に右手を向くと、優ちゃんが居た。可愛らしいフェミニンな子供服に、お下げが映える。彼女は、近所に住む小学生六年生の女の子だ。 ただ、彼女には公然の秘密がある。彼女は、生物学的には男なのだ。しかし、心は完全に女の子であるので、男性化を止める治療を受け、将来的に手術することを望んでいる。そのようなわけで、俺も含んだご近所さんは優ちゃんを女の子として扱っている。「知り合い?」 鈴村が興味深げに訊いてくる。ああ、二人はまだ会ったことなかったっけ。「近所に住んでる優ちゃんって子だよ。小学生だけどしっかりしてるんだ」「はじめまして。私
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十七話  これが正真正銘、最終決戦だ!

 雲だけが広がる光差す世界。眼前であの僭称者が、ふてぶてしく頬杖をついてにやけていた。先程のアロハシャツではなく、いかにも神ですと言わんばかりのキトンを纏い、宙に浮く黄金の玉座に腰掛けている。サタンとオフィエルの姿は見当たらなかった。「何だ、出てきたのか。せっかくお前のための楽園を用意してやったのに」「……貴様という奴は、どこまで人の心を踏みにじれば気が済むんだ! あれからどれぐらい経った! そして、サタンとオフィエルをどこにやった!」 袖口で涙を拭い、一喝する。「教える必要があるか?」「俺の人物眼が確かなら、教える。常に余裕を見せながら風上に立って居たい、貴様そういう奴だ」 指を突き付けドヤ顔で指摘すると、僭称者が鼻で嘲笑う。「呆れた奴だ。まあいい、教えてやろう。天界の牢獄だ。ただし、嘘かも知れんぞ?」 意地悪くにやける僭称者。しかし、そんな挑発に動じる訳もない。「それは貴様の今までの行動と合致しない。貴様は永遠の支配者という立場に飽いている。そこに俺という貴様に対抗する面白いゲームのコマが現れた。戦力の逐次投入などという馬鹿げた真似をして目の前まで俺たちをおびき寄せたのは、エキサイティングなゲームがしたいからだろう? 反吐が出そうな性格をしているな」 奴はにやけ顔を崩さず、手を動かそうとした。危機を察知して一気に距離を開けると、寸前まで居た場所で巨大な爆発が起こる。茶番は終わりということか! そのまま高速で襲い来る光弾を回避しながら策を練る。奴は玉座を降り、ノーキャストで光弾を繰り出しながら猛追してくる。 まず、奴の方が実力的に上手であることを認めねばなるまい。故に俺一人では勝てない。サタンとオフィエルの助けが絶対必要だ。無論、打算抜きで二人を救助したいという気持ちも十二分にある。 ではどうするか? そこでこいつを使う。手を振ると、極小の光点が多数周囲に現れる。俺のためのウォッチャーを創った。こいつらに天界の牢獄を探させる。「征け」 一言命じると、光点が方々に散って行く。実際には命令は要らないのかも知れないが、まあ気分というやつだ。 あとは時間を稼ぐ! 逃げを打ちながら、光弾を放って僭称者を牽制する。さらには
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more

第二十八話 勝利者

 輝く粒子の尾を引く光弾同士がぶつかり合い相殺し、風の刃の衝突で眼下の雲が逆巻き、氷塊と獄炎が互いを消滅させ、宙舞う神器同士が激しく斬り結ぶ。 俺も、僭称者も互いに譲らない。サタンとオフィエルは障壁を五十枚ほど付けて離れさせている。「ふははッ……愉しいぞ、小僧!」 愉悦を表しながら、何やら強大な魔法を発動しようと、両手を胸の前で向かい合わせ巨大な光球を創り出す。それを見て、俺は背後に分厚い障壁を展開する。 既の所で、背後で障壁が砕ける音がした。「見え見えの引っ掛けだな。予備動作ほぼなしで魔法を使える貴様がこれ見よがしに光球なんぞ練りだしたら、バックアタックをしますと言ってるようなものだ」 腕組みして鼻で嘲笑うと、僭称者は愉快そうに口の端を歪める。 再び魔法の乱戦に突入するが、互いに勝機がつかめないでいる。「ルシくん、大丈夫!?」 真横からサタンの声が聞こえ、ハッとする。互角に戦っていたつもりだが、いつの間にかここまで押されていたのか。嫌な汗が滲む。「お前とオフィエルこそ大丈夫か?」 魔法の応酬をしながら二人に声をかける。二人に流れ弾が行くと危険だが、攻撃が激しくなかなか距離を取ることができない。「サタンお姉ちゃんが魔法で温めてくれたから、だいぶ良くなったよお兄ちゃん。ジジイ絶許!」「悪態がつけるなら大丈夫そうだな。妙案がある。ちょっと脳に直接語りかけるぞ」 絶許とか何処で覚えてきたんだ。パパからジジイ呼ばわりに転落とは自業自得よな。そして一度やってみたかった、「脳に直接話しかける」シチュエーション。 余裕があるんだかないんだか判らんが、耳打ちなどして向こうのウォッチャーにばれると宜しくない。 上手くこの策が決まると良いのだが。「行くぞ!」 手を突き出して号令をかけ、回り込むように三方に散る。「何をするかと思えば、ただの挟撃か。つまらん……実につまらん! お前には失望したぞ」 呆れ顔でため息を吐きながら、ぞんざいに三方向へ巨大なエネルギー塊を放ってくる。高速で躱すが、しつこく追尾してくる。振り切れんか! オフィエルがエネルギー塊で消し飛ぶ。それに一拍遅れる形でサタンも消し飛んでしまった。「まあ、それなりに楽しかったぞ小僧。挟撃とはこうやるものだ」 |僭称者《
last updateLast Updated : 2026-07-16
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status