「申し訳ない」 「ううん、気にしないで」 三板の用意した食事をダイニングテーブルに運んだ珠希が、やさしく微笑む。 脳性麻痺さえなければ、彼女に世話をかけることもなかったのに。 生まれつきだ。今に始まったわけではない。先ほどは、杖を選ぶのが楽しいと言った。嘘ではないけれど、ときどきどうしようもなく自分の右足を恨めしくなるときがあった。 それと同時に、雪臣の胸の内はずっと騒がしかった。 ――タマが、自らここへ上がりたいと言った。 本邸は別として、自分の居宅にまで上げるつもりはなかった。正確には、上げてはならないと思っていた。 珠希は確かに、婚約者だ。これから自分と結婚する女性だ。 しかし、それは仮初の関係に過ぎない。 そうである以上、立場を口実に、珠希を必要以上に自分に関わらせてはいけない。ましてや、彼女の方から望んでくるとも考えてはいなかった。 それなのに珠希は今、雪臣が暮らしてきた、この建物の中で笑っている……。 百二十三本の杖を持っていることも、雪臣にとっては笑われるようなことではなかった。ただ、もう一度、笑った姿が見たいと思っていた。 珠希にとって今の状況は、さほど重大な出来事ではないのかもしれない。 しかし、三板や建物の修繕業者を除き、他人を自宅に上げた経験のなかった雪臣にとって、事情は違った。 「雪臣くん、私、お茶入れてもいい?」 「…………」 「雪臣くん?」 「……あ、ああ。申し訳ない」&nbs
Last Updated : 2026-08-17 Read more