紗英はキッチンで、フライパンに落とした卵の焼き加減を確かめていた。昨夜、怜司が美味しそうに食事をしてくれたことを思い出すと、自然に頬が緩む。「……よし、こんなものかな」怜司のいる朝は、冷蔵庫にハウスキーパーが置いていったものを出すだけだが、今朝は、それに焼きたての卵とトーストを添える。このくらいの朝食は、用意してもいいだろう。「おはようございます」背後から声がして振り返ると、怜司が立っていた。「おはようございます」怜司はテーブルに並べられた皿を見て、柔らかく微笑んだ。「嬉しいですね。ありがとうございます」正直、昨夜の今朝でこんな風に朝食の用意をすると、どう思われるかと心配ではあった。怜司の様子が好意的なので、ホッとする。「いつものおまけ程度で、大したことはしていませんから」そう言って、怜司は椅子を引いた。いつもなら、紗英が起きる頃には出勤していることが多い。今朝は、まだ少し時間に余裕があるらしい。「まだ、お時間大丈夫ですか?」「ええ。午前中の予定を少し調整したので」怜司はコーヒーをカップに注ぎながら、紗英を見た。「無理して用意する必要はありませんからね。紗英さんが、やりたいときだけ食事の準備をしてくれればいいです」そんないい加減な感じでいいものだろうか。「そうですか……」紗英は向かいの椅子に腰を下ろした。やりたいときだけ、と言われても、今の自分の状況では、家の中でできることが限られている。昨夜の話を聞いてか、紗英には一つ考えていることがあった。「あの、怜司さん」「はい?」「昨日のお話なんですけど……」怜司がコーヒーカップを置いた。「雅人のことについて、私にも何か協力できることはありませんか?」「協力、ですか?」「はい。私の口座が使われていたんですし、仕事の関係でも雅人とはつながりがありましたから。何か、できることがあるんじゃないかと思って」怜司は静かに首を振った。「紗英さん名義の口座の動きを見せていただくことで、十分協力していただいていますよ」「でも、ただ、ここで待っているだけって……」「貴女から聞いた話が、調査の手がかりになっていますから」紗英は静かだが、有無を言わせない怜司の答えに自分の言葉を飲み込んだ。正直、雅人の件に関して、自分が何もできないのは、もどかしい。怜司に何もかも任せきりで
Last Updated : 2026-10-16 Read more