九月六日、ニュウスを見ていると仏蘭西に関する話題が出た。“アルジェリア戦争における不服従の権利に関する宣言”と題する左派知識人通称“百二十一人宣言”が発表されたらしい。これは「アルジェリア戦争を合法的な独立闘争であると認め、仏蘭西軍が行っている拷問を非難し、仏蘭西人の良心的兵役拒否者を政府が尊重することを呼び掛ける公開状」だった。知識人の中にはサガンの名前もある。サガンは世間からは眉をひそめられる軽薄な|私生活《プライベエト》のイメエジが強いが、実際にサガンに会ったイレヱヌはそうは思わなかった。 (フランソワーズはやはり正義と人間の尊厳について真っ当な考えの持ち主だ)イレヱヌはこの件で確信を持つことができた。 (仏蘭西が間違った方へ向かったとしても、闘う勇気を持てる人はまだ存在する)その事実にイレヱヌは救われる思いだった。 九月下旬からブランドの発表コレクションが次々開催された。 舞台裏で二十人ほどのモデル達が待機する。ピンと空気が張り詰めていた。デザイナアはモデル達を四方から眺めて最終確認をしながらモデルの襟やリボン、ネクタイ等を一番美しく見せられるようにと最終調節を行っている。 イレヱヌはベビイブルウのローウエストワンピを身に纏っていた。髪はカーラーでしっかりと巻かれた後にビーハイブヘア風のシニヨンにして、毛先と後れ毛を遊ばせる。デザイナアの鋭い視線で見詰められながら裾の調節をされ、まるで美術品にでもなった気分だった。はあ、と思わず息を漏らし、自分が緊張している事に気が付く。此れ程緊張したことは無い。バレエの発表会や大人だらけのパーティーに参加した時も、セシルと初めて身体を繋げた時も此のような緊張は無かった。 前のモデルが歩きだし、イレヱヌも続いて幕をくぐった。暗い空間の中、正面に白く輝く一筋のランウェイが続いている。流星の軌道のようだ。カツカツと歩いていき、先端でポウジング。一斉にカメラのフラッシュがたかれる。目が眩みそうなほどの強い耀はまるで閃光のようだった。 全身が身震いしてしまいそうだ。何と云う快感なのだろう。ぞくぞくと寒気の様な、其れなのに熱を帯びた様な衝撃が電流の如く脊髄を走って全身に流れ込んだ。 (さあ、ご覧なさい。よく眼に焼き付けなさい。あたしはこんなに美しいのよ。あたしはこの
最終更新日 : 2026-10-03 続きを読む