Todos os capítulos de たとえ異端になろうとも~蒼炎と黒炎を宿した騎士、サルロの魔王焼却譚~: Capítulo 21 - Capítulo 30

42 Capítulos

#21 サルロ・ファージ偵察隊

 その日も、雨だった。火山の頂上から水蒸気が立ち昇っている。「サルロ隊長、揃いました」 セキを腕の中に収めたサルロに、一人の騎兵が近づく。「わかった。サルロ隊、蛇騎士の拠点への偵察に出るぞ!」 馬の腹を蹴ったサルロに率いられ、三十騎の小隊は一路西へ向かう。先頭を行く二十騎はハンドガンにサーベル、胸甲と完全武装で、それを追う十騎は通信設備を備える軽武装の騎兵だ。 ダカッポダカッポと蹄が鳴り、雨音の中に消えていく。「天気がよけりゃあよかったんだが」 サルロの隣に控えるガリヤがそう言った。「そうも言っていられないさ。少しでも早く、情報を集めなければならないのだから」 西進すること数時間、一行は火山の麓に到達した。「野戦魔通用意!」 小隊本部附きの下士官がそう声を挙げる。後方十騎が数十キロある野戦通信魔導通信機のセッティングを始め、三十分。「サルロ隊長、自分が、通信担当伍長であります」 サルロと大して変わらないであろう兵が、そう敬礼しながら言った。背中には、大ぶりな無線魔導通信機。角ばっていて、無骨なオリーブドラブの外見だ。「よろしく頼む。準備はできたか?」「はっ。今にでも出発可能です」「了解した。偵察隊は事前に通達した通り、二つの班に分かれて行動。第一班の十五騎は私とガリヤがつき、威力偵察を行う。第二班の五騎はなるべく隠密に敵情を視察し、小隊本部との連絡係にもなってもらう。いいな!」「了解!」 十五騎。それが多いのか、少ないのか、サルロにはわからない。ただ言えるのは、相手が全力で殺しにきた時、抗えるかもわからない数だということだ。 外套が降りしきる雨を弾く中、十五騎は岩だらけで起伏に富む地形を進む。視界は効かない。双眼鏡を持った兵士も、高台に上がっては首を横に振る。「こちら第一班。五キロ進出して猶会敵せず」 通信伍長が無線機にそう吹き込んだ。「この天気では、セリアードであってもまともに偵察できないな……」
last updateÚltima atualização : 2026-08-10
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#22 征伐は近い

 王都ナーガ、地下刑務所。看守もいないその場所を、金髪のナゲーラは一人で歩いていた。最奥、誰からも隔離された独居房がそこにある。 コンコン、と彼は扉をノックした。「私だよ、ミカハルデ君」 「ああ、殿下か。何の用だ」 囚われているとは思えない、張りのある声が戻ってくる。「彼らは拠点を掴んだ。近々、大々的な征伐を行うだろう」 「その隙を狙って、俺らが動くと」 「ああ。手筈は整っている。自由の身となるまで、もう少し待ってくれ」 「信じてるさ……ナゲーラ王弟殿下」 この時、ナゲーラの顔には一片の笑みも浮かんでいなかった。ただ、冷たく鋭い黄金の瞳で、扉を眺めているだけ。「では、期待しているよ」 カツンカツンと靴を鳴らして、彼は冷えた空気の満ちる廊下を進む。(目指すは祖国を正しく導く君主) スリーピースのスーツに身を包む彼に、無数の視線が注がれる。(優れているのは私だ。この国を真に繫栄させられるのは、私だ!) 門番に敬礼で見送られ、近くで待っていた馬車に乗る。『ナゲーラ馬車サービス』と刻まれた車は、ホテル・ナゲーラ近くのマンションに停まる。『第三ナゲーラマンション』だ。「持っていくといい」 口端に釣り針がかかったような笑みで、彼は紙幣を三枚、御者に手渡す。最上階へのエレベーターで、己の為だけの豪邸に向かった。 ◆  風呂上がりのサルロは、ガウン姿でロイヤルスイートの居間に入った。そこでは、ダンケルが菓子を食べながら、音楽を聴いていた。「それは、なんだ」 サルロは、向かいの席に座りながらそっと尋ねる。「エクレアだよ。カスタードクリームをたっぷり使ったお菓子さ……」 彼の視線が動く。机の上には、同様の菓子が六つほどある。だが、それを気取ったのか、「僕のものだからね」 とダンケルが短く言った。「セキはどうした」 「ホテリエに連れられて一階に行ったよ。
last updateÚltima atualização : 2026-08-11
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#23 開幕、蛇騎士征伐

 騎兵、歩兵、騎士。様々な戦力が混じる部隊に向けて、ドベル王は巻物を読み上げていた。「──ここに、ターリシュ国王ドベル・ハーベルの名に於いて、蛇騎士征伐令を発する!」 「おおッ!」 その結びの一言を受けた兵士たちは、一斉に鬨の声を挙げた。ライフルが掲げられ、鋭利な剣先が晴れた空に突き上げられる。「諸君の進む先に、戦神ゼルドナウスの輝きがあらんこと!」 「うおああッ!」 またも大声が響く。サルロは、鼓膜が破れそうな思いだった。「さあ進め!」 「我らが祖国に栄光を!」 誰かが叫んだ。すると、栄光を、と兵士たちが復唱する。叫びが続く中、一個混成旅団は、西への道を進んだ。そんな彼らを見下ろす者が、参謀本部に並んでいた。「旅団単位での派兵……随分と思い切ったものですね、閣下」 金髪青目のシィカルは、ランカリーダ閣下へと語りかけた。「偵察隊の情報を鑑みれば、彼奴らが本気で抵抗すると仮定した時、無限にも近い数の魔物が出るだろう……と、情報部からの助言を受けたのだよ。ダーブ君という優秀な友がいてくれて、ありがたい限りだ」 シィカルは、兵士たちを見下ろす閣下の顔をじっと見つめていた。「なんだね、髭が崩れているか?」 「いえ、特にありません。ただ、その采配に間違いはないでしょう、とだけ考えていたのです」 「擽ったいことを言う。どうした、そこまで出世したいか?」 笑みを浮かべる閣下。「今回、旅団を派遣したのには、背徳者が魔物の軍勢を用意しているとの情報が入ったのもある。もし、彼奴らの動きが速かったとしても、旅団規模の戦力が展開していれば、十分食い止められよう」 「正しいご判断です、閣下」 冷たい声で応じるシィカルの腿には、拳銃があった。 さて、西進する旅団は、火山付近へと到達する。噴煙が青空に靡き、白い雲が流れていく下で、馬の傍、セキの横に立つサルロは、刺すような邪気がひしひしと近づくのを感じ取っていた。 丘の麓、三十頭の馬が、湖から水を飲んでいる。「感じ
last updateÚltima atualização : 2026-08-12
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#24 撃退、しかし

 魔物の軍勢を追い返しながら、蛇騎士征伐に向けられた旅団は、遂に洞穴を包囲することに成功した。「これで、隣国へ抜ける裏道も制圧したことになります」 テントの下で、サルロはそう説明を受けていた。「砲撃で洞穴ごと崩す……というのはどうだろう」 「いやいや、蒼騎士殿」 恰幅のいい旅団長が否定した。「この洞穴には利用価値がある、と国王陛下は判断なさったのです。将来的にサルスム北方連邦との間に石炭貿易関係を築いた時、重要な通路になる、と」 「ならば、そうしましょう。私が突入して、中にいる蛇騎士を仕留めます」 「急ですな。何か、私怨でも?」 「そういう所です」 蒼騎士らしくもない、と誰かが呟いた。「ですが、包囲している以上彼奴らは動けません。じわじわと縊り殺すのが、安全でしょう?」 一人の女が言った。「食料も水も、無限ではないのですから。いつかは音を上げます」 「その『いつか』を待つ間に、何か策を講じるかもしれません。ここは、急ぐべきです」 サルロは譲らなかった。蒼い瞳に怒りと憎しみを滾らせ、女を睨むように見る。「蒼騎士様が仰るなら、そうなのでしょうね」 女は怯みながら応じる。「なら、二時間後、第二騎兵小隊による突撃を敢行するとしましょう。それで構いませんな、サルロ殿」 旅団長の決定が下れば、誰も文句を言わなかった。解散した作戦会議。青空の下、食事が行われていた。缶詰と乾パンと水だけの食事だが、魔物狩りが続いた兵士たちにとって、その休息はありがたいものだった。 セキと合流したサルロも、大きな缶詰と乾パンのセットを受け取った。牛頬肉のワイン煮込み、とのことだ。どこか落ち着こうと思って歩き回った末、ガリヤとダンケルを見つけて、傍に寄った。「こういう缶詰の製造も、ナゲーラ殿下の企業がやってるそうだぜ」 ガリヤが言う。「凄いな。ターリシュ屈指の資産家、というのは間違っていないのか……」 サルロはポーチから缶切りを取り出しつつ、そう言
last updateÚltima atualização : 2026-08-13
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#25 王都事変、揺らぐ

 重い蹄の音が、何重にもなって翳る空へと響く。「王都の状況は!」 その先頭を往きながら、サルロは叫ぶ。隣には通信伍長がいる。「騎士館と王宮は既に占拠した、と王弟殿下が発表したそうです!」 「国王陛下の身は⁉」 「わかりません!」 勢いのいい否定だ、と悪態でもつきたくなった彼の目は、遠くの城壁を見つめている。同時に考える。優先すべきは何か、と。 王宮と騎士館が占拠されている、となった時、騎士館で待機している騎士も動けないとわかる。どちらに黒幕がいるにせよ、まずは騎士館を解放し、戦力を整えるべきだろう。「第二小隊は騎士館の奪回に動く! その旨を伝えておけ!」 駈歩の馬列は、二時間ほどで城壁の前に辿り着く。たった三個小隊、八十三騎。それで何ができようか、とサルロは思ってしまう。だが、何にせよ、やらねばならないのだ。「蒼騎士様だ! 戻って来られたぞ!」 城門が開く。まだ占拠はされていないか、と小さな安堵。馬の疲れを感じるが、サルロは構わずに腹を蹴った。目指すは騎士館。一人でも多く、騎士を仲間につけたい。 ◆  その騎士館では、ナゲーラ王弟の発表通りに事態が進行しているわけではなかった。激しい剣戟の音が鳴り、銃弾をものともしない騎士が内部で抵抗を続けている。 しかし、限界は見えようとしていた。「センク連隊長、歩兵の攻撃苛烈にして、怪我人も続出。これ以上の抵抗は、難しいかと……」 最上階、騎士館長兼連隊長の執務室で、センクは報告を受けていた。「では、裏切者の軍門に下れと? 我々は騎士だ。国王陛下に忠誠を誓った護国騎士だ。なんとしても、敵歩兵を突破して王宮に馳せ参じるのだ」 センクは、金色の髪を揺らして剣を抜く。「私が出る。予備兵力として下がっていた者たちも動かせ」 「は、はっ!」 伝令の騎士は、兜を被り直して走り出した。「この状況で蒼騎士の一人もいないとはな……やはり、下らんものだ」 ヘルムを被る。スリット部
last updateÚltima atualização : 2026-08-14
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#26 蛇騎士少女

 サルロらは、王宮に至る大通りを走り抜けていた。雨も降り出し、雷鳴が轟く。その中で、死体の十五は転がっている王宮前広場に突入し切れない、ガリヤ率いる騎兵隊と合流した。「サルロ、俺の詠唱があれば、あの機関銃陣地ぶっ潰せるか?」 建物の影で、彼はガリヤにそう提案された。広場には土嚢と機関銃の陣地が構築されており、鈍色の銃口が騎士や騎兵、戦士に魔法使いを睨めつける。背後には迫撃砲も控えていた。「ああ、やってみせよう」 青白い防御魔法を、盾を起点として起動したサルロ。「これは私の愛する子──」 ガリヤによる詠唱を受けて、彼は建物から飛び出した。背後には護国騎士団もいる。「出たぞ! 蒼騎士だ!」 十五ミリの重機関銃十挺は、一斉に彼へと銃弾を放った。ただの銃声ではない。それぞれの間隙を埋め合った銃声は、一つの連続体として彼の耳に届く。 だが、それでも祈祷騎士の援護を受けた蒼騎士に勝つことは、できなかった。秒間十発の連射も、無意味。サルロは、機関銃が旋回するより速く接近するのだ。 迫撃砲も榴弾を降らせるが、護国騎士団の放つ雷霆の魔法によって迎撃され、空で爆ぜるばかり。突撃は、虐殺へと変わろうとしていた。遂に押し切ったサルロの刃が、機関銃手の首を刎ねる。「ダメだ、重火器でも止められない!」 陣地で、幾つもの悲鳴が上がった。突入してきた護国騎士団の手によって、許しを乞う者まで斬殺される。五分もすれば、広場は血に沈んだ。「その辺りにしておけ」 銃を捨てて頭を垂れた者に剣を向けているのを見て、サルロはそう告げた。「裁きは、司法が与えるだろう」 白い盾を持つ護国騎士たちは、スリットが輝くヘルムで、視線を送り合う。「今は、国王陛下の救出を優先するべきだ。違うか」 「しかし、蒼騎士殿。こ奴らは国家への反逆に協力したのです。いずれにせよ縛り首でしょう」 「だとしても、無差別に殺すべきではない。そうなれば、私たちは蛇騎士と同じだ」 なっ、と若い声が言い返そうとしたがそこ
last updateÚltima atualização : 2026-08-15
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#27 反乱者の行く末

 返り血で汚れた青白い鎧が、玉座の間の前に立つ。護国騎士から寝返ったのだろう、白い盾と直剣を持った騎士が十人、門番として構えていた。右腕には黄色い布が巻き付けられている。「改心するつもりはないか」 鎧に幾らかの傷を持つサルロは、そっと問うた。背後には、これまで生き延びた騎士や戦士、魔法使い。前には、まだ死体はない。だが、通ってきた道には幾つもの死体がある。黄色い布を右腕に巻いた、戦士、魔法使い、背徳者、護国騎士。「我らは、祖国の未来を憂いて王弟殿下に従った」 十人が、サルロを取り囲む。「貴様や、その後ろの者たちこそ、逆賊である。今悔い改めるのならば、殿下はお赦しになるだろう」 「……そうか」 彼の剣を、黒い炎が包む。「貴様らは、蛇騎士や背徳者と通じていた。そうだな」 「いかにも。今の暗愚王ドベルを排し、正しき国家を建設するべく、蛇騎士を利用した」 「刃向かわないのであれば、私も戦うつもりはない。もう一度問う。改心するつもりは、ないか」 「毛頭ない」 サルロは腰を沈め、剣を構えた。「来い」 そう彼が発した直後、十の剣が一斉に襲い掛かった。 一撃を、盾で受け止める。その接触点を中心として、体を回す。すれ違い様に黒炎で切りつければ、まず一人が倒れた。内臓を零し、糞を散らして。 次。背後から来る縦の斬撃を、半身で躱す。同時に、盾で頭を殴る。苦し紛れに掲げられた白盾ごと、サルロの剣は断ち切った。「あれが、蒼騎士様の戦い方だって言うのかよ……」 獣のような、肉を喰い千切るにも似た戦い。獰猛だ。一度黒炎が振るわれれば、一つの命が散る。「……加勢するぞ」 護国騎士の一人が、走り出す。赤い炎を剣に宿し、裏切者の騎士へと向かう。白い盾が入り乱れる。誰が敵で、味方なのか。腕の布を頼りに見定め、剣を、鈍器を、槍を振り合う。投じられる魔法も、慎重すぎた。 乱戦が、続いた。黒炎が、邪悪なる炎が護国騎士団の制式鎧を容易く引き裂き、中の肉を傷つける。血みどろの絨毯だけが、そこに残った。
last updateÚltima atualização : 2026-08-16
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#28 蒸気機関車と、真夜中の街

 シューッ、と青空に煙が昇った。黒く塗りこまれた鉄の怪物が、石炭の齎す熱を以て、山へと向かう。 馬とは全く違う振動に、セキは柔らかい椅子の上で不安を覚える。心も内臓も揺さぶられ、ちらちらと窓の外を眺めていた。「これが、蒸気機関車……」 サルロとセキの向かいで、ダンケルが窓に顔を張り付けて呟いた。ガリヤはボックス席の端に追いやられていた。 飛ぶように過ぎる景色。膝の上で拳を震わせるセキの肩に、サルロはそっと腕を回した。私がここにいる、と言わんばかりに。「凄いぞ! このデカブツがこの速度で動くだなんて!」 一方のダンケルは大興奮だ。周囲の乗客が向ける白い目も、今の彼を止められない。一等車の中に、密やかな囁き声。「これじゃあ、セリアードの郵便屋は廃業かもな」 ガリヤが、笑い交じりに言った。「まさか!」 ダンケルは大声で否定する。「この世の全てに機関車を走らせるなんてことはないよ! いつまでも、セリアードの需要はなくならないさ」 「なんだ、お前も結構頭が回るんだな」 席の三分の二を占領されていることへの苦言も込めて、ガリヤは返した。「もっとスピードは出ないのか⁉ というか、どうやってこのデカブツがこんなスピードを出しているんだ⁉」 叫ぶ彼を見ていると、セキの不安も少し和らぐ。そうだ、楽しんでいいのだ、と。窓の外を見る。そこで、丁度隧道に入ってしまった。「ガリヤ、何か知らないか! 君は博識だろう!」 「石炭ってので湯を沸かして、その蒸気で車輪を回してんだよ。俺も詳しことは知らねえが、蒸気ってのはスゴイパワーがあるんだってよ」 「ああ、石炭!」 何か得心した様子のダンケルが、ずいとガリヤに顔を近づける。額を人差し指で弾いて、ガリヤは相手を離す。「祖国は石炭が採れなくて困っていたな……何でも、船の燃料になるとか」 「ターリシュには炭鉱がねえのか?」 「採算が合わない、と聞いている。教会領の厚意で定期便を就航させてもらったが……年流の補給ができない、という理由
last updateÚltima atualização : 2026-08-17
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#29 魔剣への覚悟

 一日あって、昼。サルロ一行は大統領官邸の前に立った。ここもまた、大理石で作られた建物であった。数千平方メートルの敷地には、豊かな緑が茂り、数十人の庭師が忙しなく歩いている。「立派は立派だが……」 ガリヤは鉄格子の門を通る前に、そう呟いた。「庭と建物、どっちが主役なんだろうな」 ボルトアクションライフルを持つ親衛隊の兵士と、剣と赤い盾を持った鎧の騎士とが、門を固めている。サルロはトランクから外したタグを、モーニングコートのポケットから取り出し、門番の騎士に見せた。「蒼騎士、サルロ・ファージだ。通してほしい」 祈りの手を模した紋章が刻まれたタグ。そこには、ターリシュで見せたものと同じ文言が刻まれていた。「確認いたしました。どうぞ、お入りください」 騎士が手を鳴らすと、鉄格子は自動で開く。軋むこともなく、静かに。「あれが蒼騎士サルロ……」 騎士は、一行の背中を見送って呟く。「ターリシュのクーデターを阻止し、蛇騎士を討伐した、当代最高の騎士……」 長い石畳を進みながら、サルロは肌を撫でる、鋭い気配を感じ取っていた。邪気ではない。魔物や魔族、蛇騎士のそれとは全く異質。どちらかと言えば安寧を齎すが、それが過ぎて、却って不快感になるようなもの。(監視用の結界か? かなりの魔力だ……) 考えながら歩いていた彼の手を、セキが握る。「どうした、ドレスが合わないか? ヒールは辛いか?」 「この国で一番偉い人、って思うと、緊張して……」 彼は、表情を緩める。「人間は人間さ。変わらない」 が、サルロもサルロで少し背が強張っていた。それを、セキに気取られる。「サルロ様も緊張してるじゃないですか」 「……共和国は、北の帝国による侵攻の脅威を、常に背負っている。そんな国を率いる者が、どれほどかと思ってな」 チチチ、と鳥が青空に泣いた。一行は建屋へと到着する。ここの警備兵にもサルロはタグを見せて、歩兵から捧げ銃の礼を受けた。 大きなアーチとな
last updateÚltima atualização : 2026-08-18
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#30 リゼルとの再会、されど記憶は彼方にて

「リゼル・ダシンさん……?」 「誰だよ、お前は」 初恋の騎士の名を呼んだサルロだが、敢無く斬り捨てられた。(この人が、サルロ様の初恋……) セキは、じっとリゼルを見つめていた。すらりとした長身に乗っている、短い赤髪と鋭い瞳。野心的な光が、サルロを見下ろしていた。「サルロ・ファージです。バッシュ・ファージの養子の……」 「ん? ああ、あいつの所のガキか」 中年に入るか入らないか、という歳か、とセキは見当をつける。白目がある筈の場所は黒い。そう、オルメアだ。「そういえばそんな名前を聞いたかもしれんが……生憎、大昔のことまで覚えていられるほど、余裕のある生活はしていないものでね」 リゼルの背中に盾はない。代わりに、一振りの両手剣が斜めに背負われていた。黒い鞘と、長いグリップだ。そこから放たれる、邪悪とも神聖ともつかない魔力を、サルロはずっと感じていた。「で、本題に入らせてもらうよ」 ドカッ、と彼女は机に腰掛ける。「お前らみたいな若造が魔域に挑むんだって?」 「ええ。大統領閣下より、直々に依頼されましたので」 「ハッ!」 鼻で笑う。「今回の魔域は魔剣が核になってる。そういう場合は、大抵魔剣が持ち主を求めているんだよ。この中に、魔剣に認められそうな奴はいないね。脱出できないまま、飢え死にだ」 「なっ!」 ダンケルが言い返そうとしたが、ガリヤに抑えられた。「俺とダンケルはともかく……サルロは違うぜ、リゼルさんよ」 「ほう? こいつが?」 リゼルは少し腕を組んで考える。「ああ、サルロ! ターリシュのクーデターを阻止した騎士! 忘れていたよ、名誉連隊長殿」 どこまで本気か、と若人たちは訝る。「ま、だとしても無理だろう。魔剣は名誉連隊長の勲章を見て、遠慮してくれるわけでもない」 「サルロ様のことを馬鹿にしないでください」 「おいおい、従順な従者までいるのか! 魔王の亡骸集めというのも、随分大仕事なようだ」
last updateÚltima atualização : 2026-08-19
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