Todos os capítulos de たとえ異端になろうとも~蒼炎と黒炎を宿した騎士、サルロの魔王焼却譚~: Capítulo 31 - Capítulo 40

42 Capítulos

#31 黒は蠢く、ただ静かに

「我が名はゼイド。古龍の造りし魔剣」 赤い両手剣を握った痩身の男が、立ち上がりながら言う。金銀で彩られた祭壇には似合わぬ、禍々しい赤い鎧。顔には、張り付いた白い仮面。それこそが、この魔域の主だった。「来い。我を打ち倒した者に、魔剣をくれてやる」 「なら、頂く」 サルロの剣を、黒を孕んだ蒼炎が覆う。少し、揺れていた。ガリヤの詠唱も、少しずつ弱まっている。だとして、戦わない事由にはならない。「蒼炎よ、我が剣に宿れ!」 そうして、燃え上がる炎を携え、彼はゼイドへと走った──。 ◆  ブオーッ、と汽笛が鳴り、曇り空に消えていく。海峡を抜けた小さな蒸気船が、アレウの港へと入ったのだ。「第一層は、そう苦労せずとも突破できるだろう」 甲板に立つ騎士と戦士。その中で、リゼルが最後の確認を行う。「問題は第二層以降だ。魔域は、時に人智を超える空間を作り出すのだからな」 「やってやらあよ」 ガリヤはそう言ってのけたが、腰にある小さな聖典に指を這わせていた。「未帰還の騎士団員は……確か三個小隊。ざっと騎士三人に団員七十人、となりますね」 サルロは冷静に計算する。「ああ。魔物も力を付けただろうからな……ガリヤ、だったな。お前の詠唱で、蒼騎士二人を援護できるか?」 「そりゃあもう」 セキは、メイスを抱くように持って、不安を顔に浮かべる。「もし、その者たちが肉体を乗っ取られたのなら……殺してやるのが、弔いになる。遠慮はするなよ」 ガラガラと回る外輪が、その動きを止める。到着だ。 船着き場は、空が歪んで見えるほどに厳重な結界に覆われていた。小さな小屋があり、船頭はその中にそそくさと入っていく。その向こうには、聖堂を戴く丘がある。しかし、その手前には三メートルはあるだろう、という人型魔物の群れが見える。「魔物を外に放出するようになったか……」 リゼルが剣を抜く。同時に、青白い鎧に身を包み、ヘルムで顔を隠す。サルロも、ガリヤも同じだ
last updateÚltima atualização : 2026-08-20
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#32 第一層、魔物の巣窟

「鯨の胃袋歩いてるみてえだ」 気色の悪い液体で濡れた床、肉の腐ったような臭い。ガリヤがそう呟くのも無理はない、と皆感じた。 グラグラと煮えたぎる鍋か、それとも泡沫を吐き出す泥濘か。小さな泡が、床でも壁でも生まれては、弾ける。冒涜の空間の中で、セキとダンケルの聖布だけが蒼を放っていた。 だが、明るい。粘液で覆われた壁から、光が放たれているのだ。それさえも恐ろしさを齎すように思えながら、サルロは地下への道を進む。「サルロ、感じるか?」 ガリヤが問う。「いや、駄目だな。邪気が四方八方から来て、魔物の気配なのか魔域の邪気なのか、判断できない」 それでも、進む先から薄汚い声が聞こえてきた。出口らしい穴ものも見える。「あれが、第一層か」 リゼルが言う。「先行します。セキ、私から離れるな」 炎を剣に宿し、サルロは穴へと飛び込んだ。そこは、パーティーホール大の空間。そこに犬、豚、熊など、獣の形をした魔物が犇めく。奥には巨大な目があった。真っ赤な虹彩を見開く、充血した怪物の目。 彼はまず、向かってきた猪を一撃で屠った。背後を取った熊を、振り向き様の斬撃で消し去る。狼をセキのメイスが打ち砕く。二人は、広間の中央へと向かう。「何でしょうね、あの目」 セキの問いに、答えはなかった。 二人を取り囲む、魔物の数々。そこで、サルロは剣を逆手に持った。そのまま地面に突き立て、蒼い炎を地面から爆ぜさせる。半径数メートルの範囲にいた魔物たちは、血も流せずに消滅した。その時。「あお きし あお きし」 そんな、魘されるような声が聞こえてきた。赤い目の近くから、首の千切れそうな女が歩み寄っているのだ。いや、それだけではない。メイスや剣を持つ、軽装の鎧を纏った人間が、力ない足取りで動いていた。「サルロ、あれはお前がやれ」 リゼルが告げる。「一対多は、得意なのだろう?」 「……ええ、そうですね」 サルロは、剣の炎を燃え上がらせる。「ガリヤ! 私に詠
last updateÚltima atualização : 2026-08-21
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#33 第二層、穢れた森

 一歩足を前に出す度に、ぐちゃりとした感触が返ってくる。ぼんやりと光る、粘液で覆われた壁。腐臭。だが、先頭を行くサルロの足は緩もうとしなかった。「急ぎ過ぎじゃねえか?」 ガリヤが問う。「これだけの邪気だ。聖布越しとはいえ、邪気を吸い続ければ、いつまでもつかわからないだろう」 「そりゃそうだが……」 それ以上、ガリヤは言及しなかった。「にしても、随分と長いな」 ダンケルが眉間に皺を作って言う。「もう十五分は歩いているぞ。とっくの昔に、聖堂の敷地を出るくらいには……」 「魔域というのは、歪んだ空間だ」 応じたのは、リゼル。「原理としては魔法のトランクと同じ……魔力によって、物理的な外見にそぐわない容積を生み出しているんだ」 「恐ろしいな……」 会話を聞きながら、サルロは肌を刺すような邪気に包まれていた。第二層との距離は、推し量ることさえできない。ピチャリ、液体を踏む。そこで、突然に景色が切り替わった。何の前触れもない。まるで、紙芝居を一枚捲ったかのような、唐突さ。 薄暗い森だ。十数メートルはある巨木が並んでいるが、その黴のついたような樹皮には深い亀裂が走っており、静脈血にも似た赤黒い液体が滴っている。 パサッ、と一枚黒い葉が落ちて、サルロの肩に乗る。途端、それは形を維持できず、燃え尽きるように崩れる。「邪気で構成された森、と言った所か……」 彼はそう呟いた。 蒼炎で藪を焼き払い、道を作る。果ては見えない。どこまでも、森は続いている。「気を付けろ、何を仕掛けてくるか──」 突如、風もないのに木々が激しく揺れた。ガサガサと、葉がこすれ合う。音に包まれた彼らが得物を握ったその時、分断された。 サルロは、ぽつねんと一人になっていた。盾で体を隠しながら、周囲を見渡す。気味の悪い森であることは変わらない。血のような樹液を垂れ流す大木と、肉の腐ったのにも似た悪臭だ。(私たちを、別々の空間に転送した? そんなことが可能なのか?) そこま
last updateÚltima atualização : 2026-08-22
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#34 森の主、征伐

 アレウの船着き場で、よく日焼けした海の男が煙草を喫み、呟く。「もうあれから一週間、か」 時間は、恐ろしいほど早く過ぎていた。 ◆ 「でりゃあ!」 セキのメイスが、森の主を殴った。マナを取り込んだ一撃は、確実な後退を齎す。バキッ、と骨を折る感触も、彼女の手にフィードバックされる。だらん、と本来曲がるべきでない地点で、相手の腕は曲がる。 が、そこで終わりだ。あっという間に傷を癒した森の主は、緋色の目でセキとガリヤを見る。睨み合い。「どうしたもんかね……」 ガリヤは呟いた。そのタイミングで、傍にダンケルが降り立つ。「ダンケル、どうだ。サルロとリゼルさんはいたか?」 盾を構え、攻撃に備えながらガリヤは問う。「いや、どこまで行っても僕たちだけだ」 ダンケルは、腰のポーチから赤い弾頭の弾丸を取り出し、装填する。「魔力も感じられないんだろう? 多分、魔域という空間を、更に断絶して分断させられている……こいつを倒さないことには、合流もできないだろうね」 二人の頷き合いの後、彼は空に上がった。森の主の肩に生えた棘が、それを追う。同時に、セキにも伸びる。ガリヤは、何を唱えるか、と考えた。 ガリヤは、自分に特別な才能を見出せないでいる。サルロのような蒼炎も、セキのようなパワーも、ダンケルのようなスピードも。 騎士を志したのは、実父が蒼騎士であったから。『何となく』だった。父にできるなら自分にもできる。そんな、軽い気持ち。(サルロ、どこかにいるならやってみろよ。俺を挫折させかけた、お前ならなんとか出来るだろ!) 頭の中で聖典を捲り、最終章へ。 昔、彼は父にこう言われた。「確かに、騎士団を引っ張るのは一握りの天才だ」 悔しさを吐露した、ティータイム。「だが、騎士団を支えるのは、それ以外の凡人の努力だ。ポーンなくしてチェスを指せないように」 だから、彼はポーンになると決めた。サルロという天才を支える、凡人
last updateÚltima atualização : 2026-08-23
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#35 心を暴く第三層

 どこまでも続く無窮の湖に、一行は立った。水かさは足首を覆うか覆わないか、という所だ。 歩けば、足が水を掻き分ける。春先の心地よいそれに似た微風が吹き続け、湖面を波打たせる。だが、突如、突風が一陣。水を巻き上げ、悉皆を覆う。霧が晴れた時、サルロは小さな山に上に立っていた。「サルロ、こんな所にいたのか」 背後から、知っている声。忘れられない声。振り返れば、黒い髪に黒い目、サルロによく似た綺麗な顔立ちの男が立っている。「……父さん?」 「なんだ、呆けたような顔をして。飯ができたぞ、って母さんが呼んでいる」 何故、今自分がここにいるのか。頭の中に靄が入り込んだのか、その思考は消えていく。そう、自分は八歳で学校終わりに山を登ったのだ。そうに違いない、と上書きされる。 父の向こうに、村が広がる。秋の夕焼けに染まった、橙色の街並み。瓦葺の屋根と、間を埋める畑。収穫期の麦が、黄金色の絨毯となっていた。「学校はどうだった?」 小山を下りながら、父の穏やかな声が問うた。「掛け算をやったよ。交易共通語のテストも、満点だった」 「お前は賢いからなあ。私みたいに、大学に行くといい」 父は、あまり健康そうに見えない顔色をしている。「父さんは、また首都に行くの?」 「いや、帝国の大学に行くよ。そこにしかない文献があってね……」 申し訳なさそうに、父は言う。「このトラバスには、大した産業はない。織物だって、近く帝国や共和国のものに飲み込まれて、売れなくなるだろう。だから、賢くなるんだぞ。賢くなれば、生きる道もできる」 「でも、織物がないと歴史家も服を着られないよ?」 サルロがそう尋ねると、歴史家の父は大きく笑ってから、咳き込んだ。青い顔で、そこらの岩に腰掛ける。「そうだな、それは正しい。この国が帝国に併合されても、なくならない仕事……」 考え出した父。「蒼騎士にならないか」 「蒼騎士って、教会の騎士様?」 「ああ。蒼い目の子供を、蒼騎士様は探しているそうだ。今度帝
last updateÚltima atualização : 2026-08-24
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#36 悔恨は、悔恨として

「リゼル!」  リゼルは、そう名前を呼ばれた。船の上、ずっと向こうまで透き通った空。甲板に立っている。  視線を横に動かす。緑の黒髪に、どこまでも深い、海のように蒼い瞳。風に靡く髪に、彼女は触れた。 「もう、何よ」  黒髪の持ち主は、くすりと笑った。 「旅ともなれば、その髪も傷んでしまうね、ユウヒ」  ユウヒと呼ばれた彼女は、まだうら若い。 「手入れはするもん! そういうリゼルこそ、お風呂に入ってもちゃんと乾かさないし……」  フッ、と赤髪のリゼルは息を漏らした。 「女らしさは捨てたさ。従騎士となった日から、女としては死ぬつもりで生きている」「またそんなこと言って……結構綺麗なんだからさ、もっと女磨きしようよ」  ユウヒの、丸い目、すっと通った鼻筋。可愛らしい。 「まずはダルセか。何がある?」「えっとね、大きな植物園があるんだって。見に行こうよ」「植物ゥ? そんなものを見て何するんだい」「知らない薬草があるかもしれないじゃない? 怪我は魔法で治せるけど、病気ってそう簡単にはいかないんだから。私みたいな新人騎士なら、特に」  勉強熱心なことで、と呟きながら、リゼルは手摺で頬杖をついた。 「あ、皮肉だ。皮肉ばっかり言ってると、一番大事なものをなくすって先生が言ってたよ?」「その通りだ」  船室から、低い声が聞こえてくる。金髪に蒼い目。 「バッシュさん!」  リゼルは慌てて
last updateÚltima atualização : 2026-08-25
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#37 魔域平定

「ガリヤ、本当に助かった」  地下への階段を降りながら、サルロは親友に向け、感謝を口にした。 「お前の詠唱が無ければ、私たちは帰れなかった」「おうよ。戻ったら飯奢れよ」「いや、私が持とう」  リゼルが、少し毒の抜けた顔で言った。 「年長者らしいことをさせてくれ」  消えない過去を見つめながら、彼女は先頭に立っていた。  さて、石戸の前。ダンケルが弾倉に弾を送り込む、カチャンという音が反響した。 「ガリヤ、仮に魔剣が魔王の遺体を取り込んでいた場合……詠唱で援護しつつ、遺体の在り処を探ってくれ」「はあ⁉ そんな簡単に──」  サルロの頼みに言い返そうとしたガリヤ。だが、それより早く、リゼルが扉を押し開いた。ズズズッ、と音を立てながら動いた扉の向こうには、大聖堂か、という広い空間が待っていた。だが、参拝者のいない聖堂に椅子などない。随分と寂しい広間だ。ただ、一点を除いては。  聖堂の奥、金銀で彩られた祭壇がある。赤い両手剣を持った痩身の男が、聖なる祭壇に、不遜にも腰掛けている。 「随分と、活きのいい挑戦者だ」  男は、裸だった。ただ、蒼騎士のヘルムだけが唯一の装身具。右手の剣で、ビュンと風を切り、立ち上がる。 「我が名はゼイド。古龍の作りし魔剣」  魔剣によって意識を乗っ取られたか、とサルロは判断した。何にせよ、斬らねばならない。 「来い、我を打倒した者に、この剣をくれてやる」「なら、頂く!」  サルロの剣を、黒と蒼の混じった炎が覆う。心は、風のない海にも似
last updateÚltima atualização : 2026-08-26
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#38 サルロを飲み込むもの

「一騎討を、させてください」  サルロは、リゼルにそう告げた。今しがた鞘に納めたばかりの魔剣ゼイドを、再び抜く。血を吸ったような刃が、よく晴れた空に輝く。 「魔剣使いってのは、いいモンだよな」  呂色の鎧を纏うシゲレルは、大ぶりな戦斧片手に言った。背後に控えていた配下たちが、魔域を攻略したばかりの一行を妨害し始める。 「俺も憧れたさァ……だから、頂くぜ、お前の剣」  斧が、黒炎に覆われる。揺らめいて、魂を焼く邪悪な炎。蒼騎士として、サルロはそれを断たねばならないことを理解していた。  先に動いたのは、その斧だった。左から右へ、サルロに横薙ぎが襲い掛かる。後ろに跳んだ彼だが、連撃だ。檜の棒か何かか、とでも思わせるほどに、斧は速い。  蛇騎士の重斧が振り下ろされ、石畳を打つ。その度に、バキンッという派手な音が鳴ると共に、白い礫が飛散する。  風を切る斧が、迷いも躊躇いもなく、サルロの頭を狙った。彼は本能的に剣を翳し、その一撃を受け止める。赤き雷霆は、そこにはない。腕に響く、斧の質量。痺れる両腕を伴って、彼は少し距離を作る。 「ゼイド、何故だ、何故赤き雷霆を使えない!」  魔剣に問う。 「力を貸せ、あの蛇騎士の鎧とて、お前の雷霆なら斬れるのだろう⁉」『見届ける、とは言ったが、全てをくれてやるとは言っておらん。一撃は繰り出させてやったのだ、その分の感謝をしてほしいものだな』  詭弁だ、とサルロは呟く。 『小僧、何を差し出す? 我が力欲しくば、相応の供物が必要であろう』「なんだ、何を求める。くれてやるから言え!」  どす黒い嘲笑が、聞
last updateÚltima atualização : 2026-08-27
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#39 歪む心

「何というか……場違いな気がしてきたよ」  夕暮れ、大統領官邸。燕尾服のダンケルが呟いた。サルロ一行に加え、リゼルもいた。 「場違い、か。だが、私たちはやり遂げたんだ。それを評価してくれるなら、応えようじゃないか」  前庭を貫く石畳の上、サルロは啓行しながら言った。 「ダンケルがセキを運んでくれなければ、魔剣を奪う隙は作れなかった。感謝してもしきれない」「全く、人を褒めるのが上手いね」  が、そのダンケルも悪くない心地だった。 「大事な役割を任せてくれた君に、僕こそ感謝したい」  サルロは、誰にも顔を見せたくなかった。下腹部で渦巻く怒りの熱が、表情に出ているのでは、と。  肚の竈門の炎を食い止める、何か壁のようなものが取り払われたような思い。閂を外された城門が、騎兵の突撃を止められないままに開いたような思い。 「──ロ様」  下から細い声。 「サルロ様!」  ハッとする。扉の前に立っていた。 「疲れてるんですか?」  横に、セキがいた。 「……かもしれないな」  銃を持つ歩兵たちが、一斉に歓迎の動作をとる。ライフルを縦に持つ、捧げ銃というものだ。槍を持つ騎士が、その石突で地面を叩くと、扉は自ずから開いた。  サルロは、斜め下に視線を動かす。赤いイブニングドレスを纏ったセキがやけに綺麗に見えて、落ち着かない。子供だぞ、と言い聞かせても、どうしても肉体的な欲望が浮かぶ。蒼騎士として、相応しくな
last updateÚltima atualização : 2026-08-28
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#40 離脱できぬ感情

 シャワーを浴びながら、彼は壁に手をついていた。 (この肉欲から、どう離脱すればいい)  湯が流れていく。赤い髪が排水口に掛かっている。感じたことのない、下腹の熱。思い浮かぶのは、セキのことばかり。 (私は、蒼騎士だ)  欲望に流される存在であってはならない。それは、民の模範ではない。それは、教会を信奉する者たちの進むべき道ではない。それは、なんだ?  彼の蒼い目は、頻りに瞬きを繰り返す。あるべき姿。人がそうなろうと望む、信徒の嚮導者としての姿。それが蒼騎士のはず。  焼き切れそうな思考回路を抱え、シャワールームを出る。鍛え抜かれた肉体に、パンツの一枚。メイスを手入れするセキが、ベッドの上に腰掛けていた。 「武器は大事にしろよ」  そう告げて、サルロは彼女を後ろから見つめていた。薄着。ふわりとした寝間着だ。柔らかな首筋が見える。気づけば、そこに手を伸ばしていた。  跳ねるセキの体。困惑する声も無視して、胸へと抱きかかえる。 「セキ」  耳元で、彼は囁く。 「君と、一つになりたい」  それから数時間過ぎた、真夜中。疲れ果てたセキは、真っ赤な顔で息を切らしながら横たわっていた。一方のサルロは、自分のやってしまったことについて、肺を潰されそうな思いだった。  後ろから抱き締め、小さな熱を体全体で感じる。 「あの、あたし、変じゃなかったですか」  セキが消え入りそうな声で問うた。 「私も初めてなんだ、わからないさ」  過ちだっ
last updateÚltima atualização : 2026-08-29
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