LOGIN十八歳のサルロ・ファージは、宿願だった騎士への叙任直後、魔王を復活させないため、その遺体を回収せよという、重い特命を言い渡される。 だが、サルロには聖なる『蒼炎』と同時に、忌むべき力が宿っていた。かつて魔王とその配下が使っていた、『黒炎』だ。教会が己を異端として破門しないのは、利用価値があるから。それを自覚して猶、彼は自身を民草の盾として規定する。 これは、異端となりながらも魔王を完全に焼き払った、一人の騎士の物語。矛盾こそが、全てを救う道だった。 毎日20字更新 表紙に使わせていただいたキャラメーカー https://picrew.me/ja/image_maker/2741711
View Moreサルロの背から、するりと赤い刃が抜かれる。それを覆うは、黒と赤の混じった雷霆。バチリ、バチリと不吉に鳴る。「行こう」 サルロは、ガリヤを待たずに山城へと踏み込む。ダンケルがセキを連れて飛び立つ。それを見送ることもしない。 門を蹴り飛ばした彼を待っていたのは、鋼を纏った魔物の群れだった。ガルル、と唸る魔物と、それから降りる鎧の騎士たちを前に、魔剣を握り締める。「撫で斬りにしてくれる」 そう呟いて、走った。 まず、魔物たちが彼に向かわせられた。黒を帯びた銀色の装甲と、馬並みの体躯を持つ魔物だった。その突撃を鎧で受けた彼だったが、かなり押し戻される。 だが、横に転がって受け流し、側方を取る。そこで魔剣を横腹に突き立て、横に振り抜くことで一体を屠った。 その背後から、もう一体。冷静に、彼は前脚を払う。前のめりに転倒したそれは、次の瞬間には首を刎ねられていた。「行け、行けよ、狼ども!」 騎士たちの横には、狼大の、四足歩行の魔物がいた。鋼の鎧で武装したそれらは、一斉にサルロへと駆け出す。 サルロは、剣を左肩の上に持っていった。間合いを見定め、十分近づいた所で、一閃。雷が幕のように広がって、狼たちを飲み込み、消し去った。蒼騎士剣術と赤き雷霆の融合。それを実現させた一撃だった。 が、それで終わる戦でもない。波濤めいて押し寄せる魔物の群れが、まだそこにある。長丁場にしたくはないサルロ。その彼の背後から、声が響いてきた。「そこで、あなたがたに幾らかでも──」 聖典の詠唱だ。魔物の足は僅かに緩み、速度を落としつつある。
帝国と共和国の国境に、古い山城がある。その頂上で、隻眼の男と緑髪のダブルシードが話していた。「ケラック、サルロ・ファージには気を付けろ」 ダブルシードは、立ち去り際に、ケラックという隻眼の男に告げた。「奴の魔剣は、我々の鎧を容易く斬り裂く。致命傷を負うぞ」「ダブルシードは、随分と弱気になったものだな」 ケラックは低い声で笑った。「まあ、撤退用の転移魔法は仕込んでおくとするか。ダブルシード、お前の助けは要らん」「ほう? 爆裂魔法を仕込んでやろうと思ったのだがな」「正面から殺し合いたい……そうすれば、俺が魔剣を手に入れることもできる」 古い様式を維持する玉座の間の扉を、彼女は開く。「死ぬなよ、ケラック」 バタム、と閉じた扉。「面白くなりそうだ、鉄殻戦団の、試運転としてはな……」◆『蒼炎だ』 魔剣ゼイドは、サルロにそう告げる。『汝から、蒼炎の力を奪った。そちらの方が、面白いものを見られそうだからな』 面白い、一体何が。彼はそう問う気力もなく、ガタガタと震える手を止めることすらできなかった。『取引の条件を精査しなかった汝の責任だ。精々面白い破滅を我に見せてみろ、蒼騎士』 サルロは、壁を殴る。ピシリ、コンクリートに罅ができる。『が、汝次第で返してやってもい
シャワーを浴びながら、彼は壁に手をついていた。(この肉欲から、どう離脱すればいい) 湯が流れていく。赤い髪が排水口に掛かっている。感じたことのない、下腹の熱。思い浮かぶのは、セキのことばかり。(私は、蒼騎士だ) 欲望に流される存在であってはならない。それは、民の模範ではない。それは、教会を信奉する者たちの進むべき道ではない。それは、なんだ? 彼の蒼い目は、頻りに瞬きを繰り返す。あるべき姿。人がそうなろうと望む、信徒の嚮導者としての姿。それが蒼騎士のはず。 焼き切れそうな思考回路を抱え、シャワールームを出る。鍛え抜かれた肉体に、パンツの一枚。メイスを手入れするセキが、ベッドの上に腰掛けていた。「武器は大事にしろよ」 そう告げて、サルロは彼女を後ろから見つめていた。薄着。ふわりとした寝間着だ。柔らかな首筋が見える。気づけば、そこに手を伸ばしていた。 跳ねるセキの体。困惑する声も無視して、胸へと抱きかかえる。「セキ」 耳元で、彼は囁く。「君と、一つになりたい」 それから数時間過ぎた、真夜中。疲れ果てたセキは、真っ赤な顔で息を切らしながら横たわっていた。一方のサルロは、自分のやってしまったことについて、肺を潰されそうな思いだった。 後ろから抱き締め、小さな熱を体全体で感じる。「あの、あたし、変じゃなかったですか」 セキが消え入りそうな声で問うた。「私も初めてなんだ、わからないさ」 過ちだっ
「何というか……場違いな気がしてきたよ」 夕暮れ、大統領官邸。燕尾服のダンケルが呟いた。サルロ一行に加え、リゼルもいた。「場違い、か。だが、私たちはやり遂げたんだ。それを評価してくれるなら、応えようじゃないか」 前庭を貫く石畳の上、サルロは啓行しながら言った。「ダンケルがセキを運んでくれなければ、魔剣を奪う隙は作れなかった。感謝してもしきれない」「全く、人を褒めるのが上手いね」 が、そのダンケルも悪くない心地だった。「大事な役割を任せてくれた君に、僕こそ感謝したい」 サルロは、誰にも顔を見せたくなかった。下腹部で渦巻く怒りの熱が、表情に出ているのでは、と。 肚の竈門の炎を食い止める、何か壁のようなものが取り払われたような思い。閂を外された城門が、騎兵の突撃を止められないままに開いたような思い。「──ロ様」 下から細い声。「サルロ様!」 ハッとする。扉の前に立っていた。「疲れてるんですか?」 横に、セキがいた。「……かもしれないな」 銃を持つ歩兵たちが、一斉に歓迎の動作をとる。ライフルを縦に持つ、捧げ銃というものだ。槍を持つ騎士が、その石突で地面を叩くと、扉は自ずから開いた。 サルロは、斜め下に視線を動かす。赤いイブニングドレスを纏ったセキがやけに綺麗に見えて、落ち着かない。子供だぞ、と言い聞かせても、どうしても肉体的な欲望が浮かぶ。蒼騎士として、相応しくな