All Chapters of 女はAカップ以下の世界で! 冒険、観光、ウマいメシ!: Chapter 1 - Chapter 10

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第一話 魔導剣士ロイ、旅立つ

(どうして……) お使いを頼まれただけなんだ。ほんの、数十分の間に、なんで……。 自宅に戻ったら、店の中が血まみれで、父さんも、母さんも、姉さんも動かない。 中の様子は、メチャクチャだ。 野次馬と、おまわりさんがなにか言ってるけど、なにもわからない。「だめですね、こりゃ。まあ、無理もないが」「この子は、孤児院行きかなあ」 わけがわからないよ。俺の家族がなにをした? 普通の雑貨屋で、いい商いをしていて、恨みを買うようなことなんてなかったのに!「店の金が手つかずです。物取りの犯行じゃないようですね」「すると、怨恨か……。おい、坊主。真っ青だぞ、大丈夫か?」 顎から、なにか垂れた。泣いていたらしい。 急に、これは現実なんだと理解できて、わあわあと泣いてしまう。「ロイくん。つらいでしょうけど、しっかり」 近所のおばさん。他人事だ。しっかりなんかできるわけないだろう。 差し出された手を、払いのける。 どのぐらいそうしていただろう。泣き止む頃には、おまわりさんも、野次馬もいなくなっていた。「坊、どうした」 声のした方を見ると、角縁メガネ……これは、かなり珍しい品だ。それと、黒の三角帽子に白いアラビアンパンツ――今よりも小さかった頃、頭を強打してからというもの、頭に異界の知識が流れてくる。それでわかる――の、いかにも魔女然としたお姉さんが、俺を見下ろしていた。 その目は、憐れむでもなく、蔑むでもなく……強いていえば、優しかった。「久々に街にでてみたら、気分の悪いものを見てしまったね。被害者の生き残りか? よかったら、あたしんちに来るかい?」 そっと手を差し伸べてくる。……今度はその手を、払わなかった。 ◆ ◆ ◆ 昨今流行りの、ガラス製の鏡で身だしなみを整える。 青い瞳に、金の短髪の若い男が、そこには映っていた。「では師匠。行ってまいります」 師匠に向かって、深々とお辞儀する。 今から五年前。家族を殺された俺を、救ってくれた人。今では、この世で最も尊敬する人に。「冒険者か。懐かしいねえ。危険な仕事には、就かせたくなかったけど」 師匠の美しさは、あのときとまったく変わらない。「俺ももう、十五です。いつまでも、ここで禄を食んでいるわけにもいきませんから。ないない尽くしが身を立てるには、冒険者しかありませんし」「そ
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第二話 魔導剣士ロイ、冒険者になる

 振り向くと、なにやら物々しい光景が目に入った。 ガラの悪そうなチンピラ連中が、歳のほど十二、三歳か? の少年を取り囲み、抜剣している。「ガキぃ! この、バッド・バット様の財布をスるたぁ、いい度胸だなァ!」 なるほど。こそ泥が、相手を間違えたってか。だが。「おらぁ!」 背後から、一人投げ飛ばす! 下は石畳。キョーレツに効いたはずだ! 実際、絶賛悶絶中だな!「何だぁ、テメェ!!」「通りすがりの、おせっかい焼きだ」 輪に入り込み、少年と背中合わせになる。「オレ、助けてくれなんて言ってねーぞ」「言っただろ、通りすがりのおせっかい焼きだって。とりあえず、盗んだものは返しておけ。それと、その、腰のダガーは抜くな。衛視が来たら、不利になるからな。相手を混乱させるように動け。俺が仕留めてやる」「なんだよ……!」「ほら、来るぞ!」 少年が、すばしっこく動き回ってチンピラを翻弄し、そこをすかさず、俺が投げ飛ばす。即席にしては、いいコンビネーションだ! 格闘技は専門じゃないが、伊達に『兄貴』と修行してきてないぜ! 連中、威勢の割には、素人に毛が生えた動き。瞬く間に、残り一人にしてしまう。「ちくしょお、なんなんだよ、お前ぇ……!」「だから、通りすがりのおせっかい焼きだって。ほら、返してやれ」「……ほらよ」 少年が小袋を投げて渡すと、チンピラたちは、「覚えてろよー!」と、月並みな捨てゼリフを吐いて、ほうほうの体で逃げていった。「あーあ、今日の稼ぎがパァじゃんか」 腹を擦る少年。「飯ぐらい奢ってやるよ、こってり絞られた後に」 今更駆けつけた衛視に、事情を説明。少々面倒な思いをしたが、相手が札付きで、金も返したということで、お説教だけで済んだ。 ◆ ◆ ◆「親父、串焼き二本」 屋台で、でかい串焼きを注文すると、それを少年と分け合う。 うむ。食欲をそそる、スパイスの香ばしい匂い。噛むとアツアツな肉汁が溢れ出てきて、これが実に美味い。間に挟まった野菜がまた、肉のしつこさを中和する役目を果たしていて、文字通り良い味を出している。 肉! 玉ねぎ! 肉! ピーマン! 肉! 交互に叩き込まれる、味覚へのファイブヒット・コンボだ! 少年は、それはもう勢いよくがつがつと頬張っている。元気でよろしい!「いつまでも、互いの名前がわからんのも話しにくいな。俺
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三話 魔導剣士ロイ、パーティを結成する ―前編―

「ふあああぁぁぁ……」 翌朝大あくびをかましながら、俺たちは女将さんに教えてもらった、街の中央にある大きな商館隣の告知所へ向かい、依頼の内容が書かれた紙 (通称『依頼票』)の貼られた掲示板の前にいる。俺みたいな冒険者たちは、ここで依頼を手にする。 サンの方は、久々にいい食事と寝床にありつけたからか、スッキリ爽やかって感じの、好対象な顔をしていやがる。 当然ここには、都市中の冒険者が集まってくる。都市中の冒険者といっても、その数は百と少しというところ。まあ、俺らみたいのが千人ぐらいいたら、色んな意味で一大事だわな。俺たち冒険者以外には、見張りの衛兵が二人いるだけだ。 その昔、冒険者同士でギルドを作ろうなんて動きもあったらしいが、何ぶん自由人の集まりなのでうまくいかず、空中分解してしまったらしい。「兄貴、どんな依頼取るんスか?」「いや、まずはパーティーを組むのが先だ。剣と攻撃魔法は俺が使えるから、盾役と治癒魔法の使い手が欲しいところだな」 そう言って告知所を見回すと、いかにも盾役ですと言わんばかりの、重装戦士が目に止まった。 フルフェイスの兜を被り、体にはガチガチのフルプレートメイル。大盾に長槍、腰には予備武器の小剣、上背も百七十センチをちょっと下回るかぐらいでなかなかと、いかにもこいつは漢! って感じだ。 しかもしめたことに、パーティーに所属していることを示す、徽章《きしょう》を着けていない。つまりフリーだ!「なあ、そこのフルプレートと長槍のあんた! 俺たちと、パーティー組まないか!?」 右親指で自分を指し示し、アピールする。「ボクですか? よかった、ボクも入れそうなパーティー、探してたんです!」 返ってきたのは、鈴の音のような可愛い声。異界風に言うと萌え声だった。内股で愛らしいポーズまで取っている。「……あんた、女?」「あ、はい。こんな格好だから、よく間違われますけど……」 なんてこった! 俺の漢パーティーがあああああ! じゃあ別の人に改めて声をかけたらいいだろうと思うだろうが、実はそうもいかない事情があるのだ。 冒険者の間では、よほどのことがなければ声をかけた側が、「やっぱりなし」などと言ってはいけないという、しきたりがある。なぜならば、それは自分の人の見る目のなさを、露呈するようなものだからだ。 それを
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第四話 魔導剣士ロイ、パーティを結成する ―後編―

「さて、どんな徽章にするかだが」 仕立て屋で、徽章のデザイン発注のために、皆と相談する。ちなみに、先ほど改めて交わした自己紹介によると、フランは俺と同い年の十五、パティは一つ上の十六とのことだ。「我が神、オルナウの聖印などいかがでしょう」 あかんだろ。俺は、その宗教に帰依した覚えはないぞ。「ネコ……とか可愛いと思いません? にゃーって」 招き猫ポーズを取るパティ。猫は可愛いかも知らんが、そのごつい格好で真似されてもなあ。 ちなみに、パティがデザインを起こした猫の絵は、可愛すぎるということで、申し訳ないがボツにさせてもらった。「やっぱ、オレら的には蜂じゃね?」「俺も、それに賛成したい。構わないだろうか」 パティとフランは少し逡巡した末に、承諾してくれた。 一番絵が上手いパティが描くと、先ほどのように異様にファンシーになってしまうので、不肖俺がデザインを描き起こす。あまり上手ではないが、仕立て屋がブラッシュアップしてくれることだろう。「次に、リーダーとパーティー名だが」「オレは、兄貴を推すぜ!」 おおう、実に義兄想いの義妹よ。「いいんじゃないでしょうか。ボク、あまり人を引っ張るタイプじゃないですし……」 ごついアーマー姿で、人差し指同士を突かせ合って、もじもじするパティ。すごい絵面だ。「私も、特に異存はありませんわ。では、リーダーはロイさんということで」「では、俺がリーダーを務めよう。パーティー名だが、『スティング・ホーネット』というのは、どうだろうか」 スズメバチの一刺しのイメージだ。ちょっと、かっこいい気がするだろう?「可愛くていいと思います!」 いや、可愛くはないだろう。スズメバチだぞ。「特に、反対する理由もないですわね」「兄貴、センスかっくいー!」 おう、こちらもスパッと決まったな。どうでもいいが、全肯定マシーンと化してないか、義妹よ。あとは注文して、例の宿屋兼酒場で結成式と洒落込もう。 ◆ ◆ ◆ 翌日早くから仕事に取り掛かるので、どんちゃん騒ぎとは行かなかったが、美味い食事に美味い酒と、なかなかいい結成式となった。 特に、ティガロア……異界で言うマスのような魚 (以後、異界のも
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第五話 魔導剣士ロイ、戦慄する

 翌々日の昼過ぎ、ルンドンベアから徒歩で二日かかる、ドッカノ村のさらに外れ、村から徒歩半日ほどの森の奥にそびえ立つ、不気味なでかい館に、俺たちはやって来ていた。 聞くところによると、村人が最近ここを発見したが、どうやら邸内をゾンビが徘徊しているらしく、特に被害があるわけではないが、不気味だし、今後何かあっても困るので、退治してくれということらしい。「早く突入しましょう! さあ! さあ!」 一昨日から、やたら意気込んでいるのがこのフラン。ふんすふんすと、鼻息が荒い。「お、おう。開けるぞ」 大きな扉を押し開けると、早速広間で、腐臭を撒き散らすゾンビ一体とご対面!「イイイイイィィィハアアアァァァァッ!!」 剣を抜こうとすると、奇怪な雄叫びを上げてゾンビに襲いかかる、一つの白い影! 気づけば次の瞬間、フランが鎚鉾でゾンビの脳天をストライクしていた。「オラァッ! ゾンビ風情が、現世をうろついてるんじゃあねーですわよッ!! ウリィィィィヤァァァッー! ぶっつぶれよォォッ!!」 鎚鉾で、何度も何度も何度も何度もゾンビを打擲するフラン。返り血ならぬ、返り脳汁 (物理)を浴びようがお構いなしだ。百年の恋も冷めること間違いなしの、ドン引きシーンである。せめて人間らしく。「フゥーッフゥーッ! イヒイッッ! 粉砕イイイッ……! トドメの死霊浄化術ォォォォッ!!」 彼女が、恍惚絶頂の叫びとともに盾を掲げると、聖印から光が溢れ、もはや原型を留めない肉塊と化したゾンビを灰にする。いやもう、初めからそれでいいだろ。この数分間の光景は、見なかったことにしたい。残虐行為手当という、意味不明な単語が頭をよぎった。「うふふふふ……この感じ、まだまだいやがりますわねェ。ヒョホォッ! 悪霊滅すべし! 慈悲はなァァァいッ!!」 舌なめずりしながら、袖口で頬の汚汁を拭う神官サマ。やっぱ無理、俺はこの光景を一生忘れることはできないだろう。夢に出そう。 もはや暴走状態にある神官サマを追う形で、館を突き進む俺ら。リーダーって何だっけ。 野獣と化したフランの快進撃にも、ついに壁が立ちはだかる。館の最奥部には、二十体近いゾンビが待ち受けていたのだ!「ヒャハァッ! こいつァ潰し甲斐がありますわよ! |死霊浄化術《ピュリフ
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第六話 魔導剣士ロイ、新たな仲間と出会う ―前編―

 冒険者の朝は早い。雀の声を聞きながら、四人で告知所に向かうと、早くから人だかりができている。 フランを除く俺らは、宿からずっと気を放っていた。「今度こそ、何が何でもマトモな治癒術師をゲットする」という決意である。 でも、パティだけは、なんだかファンシーオーラを放ってる気がしないでもない。 ざっと場の冒険者たちの品定めをする。やはり、どいつもこいつも徽章を着けている。 まあ、あそこで唯一運良くというか、運悪くというか残ってたのがフランだしな……。 諦めかけたそのとき、珍しいものが目に入った。長い尖った耳の女、エルフだ! エルフが人の街に出てくるとは、珍しい。 そうそう何度も外れを引くとも思えないが、うかつに話しかけてまた外れというのではいけない。  まずは人間観察。背丈は百七十センチほど。肩甲骨の下辺りまで伸びているブロンドのロングヘアを、ローポジション・ポニーテールにまとめている。 スタイルはエルフらしく華奢で、緑基調の上着と白のロングスカートを履いており、どこぞのバーサーカーとは異なる、真に清楚な印象を受ける。 しかし、さらに真に注目すべきは、腰に装着している様々な草や種がぶら下がったハーブホルダーだ。 これは、薬師独特の装備で、イコール治癒魔法を使えることを示している。見たところ徽章も着けていない。これは優良物件。俺たちは運がいい!「俺はロイ・ホーネット、こいつらは俺の連れ。見ての通り、冒険者だ。頼りになる治癒術師を探している。そこのエルフの姉さん、仲間にならないか!?」 ビシッと右親指で自分を指し示し、ドヤ顔でキメる。どうよ!?「ありがとうございます。わたしも都に出てきたばかりで、右も左もわからなくて……。クコ・ハーバロイエといいます。よろしくお願いします」 ぺこりとお辞儀する彼女。おお、好感の持てる娘さんだ。一同自己紹介を行い、明日の糧を稼ぐために依頼票を吟味する。 まず目についたのはスケルトン退治……まだ心の傷が癒えてないので、鼻息の荒い神官サマを見なかったことにしてスルー。 ゴブリン退治。ベタだなー、保留。 ドラゴン退治。死ぬわ、次。 遺跡探索……ほう、これなんか面白いんじゃないか? ただ、遺跡探索というのは結構博打だ。まず、遺跡の情報を持っている人物
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第七話 魔導剣士ロイ、新たな仲間と出会う ―中編―

「兄貴ーまだっスか~?」 依頼人の自宅に向かうべく、高級住宅街の石畳の上を歩いていると、サンから苦情が飛んできた。もう体感三十分以上、この辺歩き回ってるからなあ。「まあ待て。ええと……この建物の角を右に曲がれば、すぐのはずだ」 それにしても、どいつもこいつも、いい家に住んでんなあ。俺たちも、目指せセレブ。「お、多分ここだ」 高級住宅街の中では、比較的質素 (あくまでも比較。それでも十分大きい)な作りの邸宅に、『ベイシック』の表札を確認する。今回の依頼人だ。「冒険者グループ、『スティング・ホーネット』です。まだ徽章ができあがってませんが……。こちらにお住まいの、依頼人のベイシック卿にお話を伺いにまいりました」 依頼票を二人の門衛に見せる。しかし、どうして門衛ってのはどいつもこいつも、二人組で槍持ってんのかね。「確かに、ご主人様の依頼書だ。通っても良いが、腰の物は一応預からせてもらう」 そりゃそーですな。得物を門衛に預け邸内に入ると、両開きの玄関の扉をノックする。 少し間をおいて、いかにもって感じの執事服を着た、白髭禿頭の老人が扉を開ける。「ようこそおいでくださいました。冒険者の方ですね? どうぞこちらに」 いでたちを見ただけで、依頼を受けにきた冒険者と理解したようで、てきぱきと応接間に通された。 外観も比較的質素なら、内装も比較的質素で、華美ではないが上品な感じだ。ソファー、テーブルは素人目にも上物とわかる。 主人を待つ間、執事と入れ替わりに入ってきた若いメイドが、お茶を出してくれた。いい香りが応接室に立ち上る。 これはミルクティーか。まずは一口。うむ、うまい! 鼻腔をくすぐる豊かな香り、深いコクにミルクのまろやかさと砂糖の甘味。温度も丁度いい。 財を成して冒険者を引退したら、本を読みながら日向でゆったりと楽しみたい、そんな味だ。 美味い茶を堪能していると、依頼人と思しきいい身なりをした、カイゼル髭の五十代ほどと受け取れる、ローブの男性が入室してきた。皆で立ち上がり、お辞儀して挨拶をする。「初めてお目にかかります。『スティング・ホーネット』の、ロイ・ホーネットです」 皆も続けて自己紹介していく。「ほっほっほ。そう、畏まらなくてもよいですぞ。吾輩はログ・ノイマン・ベイシック。王立学院で、|
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第八話 魔導剣士ロイ、新たな仲間と出会う ―後編―

「うう……もう我慢できない! ロイさん!」 徽章の発注を済ませて宿に向かう帰路、いきなり後ろから襟首を引っ張られた。痛え! むち打ちになるかと思ったじゃないか。振り返れば、やたら興奮したクコの姿。「猫ですよ猫!」 クコの指差す方を見れば、雑貨屋の横の路地の入り口で白と黒のにゃんこが二匹、愛の営みに励んでいた。ほほう、エルフにゃ猫は珍しいのかね? 猫の可愛さに興奮するとか、微笑ましいじゃないの。まあ、場面がアレだけど。「知ってますか!? 猫はですね、交尾するときオスがメスの首を噛むんですよ!」 頬に両手を当て、大興奮の彼女。は? ごめん、何言いたいのかわかんない。「あとですね、あとですね。あそこに花があるでしょう。花ってエッチだと思いませんか? だってですね、いわば性器を露出させてるんですよ! これはもうエロスです、エロス!」 あーはい、理解しました。こいつやべーやつだ。今まで猫かぶってたのね。こういう話がしたくて、ずっとうずうずしてたのね……。 サンはクコの博識 (?)に感心しているが、フランとパティは、この場からすげえ逃げたそうだ。特に後者。「聞いてますか、ロイさん!?」「アーアーキコエナーイ」 耳を塞ぎ、すっとぼけながらさくさく宿に向かう。俺って、人を見る目がないのかなあ……。 ◆ ◆ ◆ なんだか、見なかったことにしたい光景があった気がするが、明日に備えていつもの店で歓迎会だ。クコもいい宿を探していたとのことで、丁度良かった。「今日はよく育ったマスの白子が手に入ったので、ソテーにしてみました」 食前酒のエールを楽しんでいると、女将さんが料理の皿を運んできた。「ロイさん! 白子って……」「それ以上何か言ったら、口を縫い合わせるぞー、クコー」 めっちゃいい笑顔で下ネタを披露しようとする彼女を、負けじといい笑顔で牽制する。食えなくなるわ、アホの子め。 気を取り直して、まず一口。むう、これは……とろりととろけて、こってりとした味わい。やもするとくどい味わいになるが、柑橘類の酸味がそれを打ち消し絶妙なバランスで味がまとまっている。 香り付けにニンニクが使われており、食欲をそそる。いやはや、これは実に酒が進む。 白子を堪能し終わった頃合いに、二品目が運ばれてきた。おなじみのマスだが、シンプルに切り身の塩焼きという漢
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第九話 魔導剣士ロイ、愛を歌う ―前編―

「お待たせしました。おはようございます」 朝六時の鐘とともに起き、支度を終えてベイシック卿と合流する。卿の他には、荷物持ちの男が二人。「いやいや。吾輩たちもさっき来たところですぞ。さあ行きましょう」 ◆ ◆ ◆ 健脚な卿の先導のもと、我々遺跡探検隊は往路五日ほどかけて、鬱蒼と茂る森の奥深い、蔦這う石造りの朽ちた遺跡の、入り口前に来た。入り口の向こうには、下に向かう階段が伸びている。これが恐怖への入り口というわけか……。「はいはいはい、ここからはオレが先に行くっスよ~」 サンが、意気揚々と一行の先頭に立つ。盗賊のお手並み拝見といこうか。二人分の道幅があるので、サンのすぐ後ろを俺とパティ、その後ろにカンテラ持ちのクコとマッピング担当の卿、その後ろを荷物持ち二人、最後尾をフランが固める。 どこから調達したのか、コツコツと三メートルほどの棒で叩きながら、階段を凝視するサン。普段の様子が嘘のように、顔が真剣だ。 慎重に階段を降りていくと、分厚そうな高さ四メートルあろうかという、金属の扉が立ちはだかる。「あー……これは臭いっスね。みんなちょっと離れててほしいっス」 床を丁寧に調べるサン。しばらくして、圧力で沈む部分を発見したようだ。「なるほど。ここ踏むと、上から崩れるっスね、多分。ここは踏まないように、気をつけてほしいっス」 トラップ発動ポイントを、チョークの円で囲む。さらに扉を調べるが、OKサインを出してきた。どうやら、トラップはこれだけらしい。亀の歩みか、蝸牛の走りか。時間がとにかくかかるが、死んでは元も子もない。サン大先生に任せるとしよう。 ◆ ◆ ◆「ストップ!」 罠はあるがモンスターはいないという、この遺跡における自分の存在意義を見失いかけていた頃、サンが手で一同を制した。 一同の前には、石造りの四メートル四方の部屋に加え、二つの年季が入った宝箱、そして散乱した古い人骨があった。「ここでいきなり人骨? 何か怪しいな……」「同感っス」 サンが腰から外したスリングに石を詰めて振り回し、片方の宝箱に石礫をヒットさせる。無反応。続いて、もう片方の宝箱に当てると、宝箱が「ギャッ」と悲鳴を上げて動いた。こいつが、噂に聞くミミックか! このままでは、一方的にスリングで打
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第十話 魔導剣士ロイ、愛を歌う ―後編―

「話を聞け、侵入者たちよ。お屋形様の命により、一つ提案がある。我らを笑わせてみせよ。さすれば、秘蔵の宝物を与えよう」 意気込む俺たちをアーが制し、提案を持ちかける。……って、ゴーレムを笑わすですと?「笑わせればいいの? あんたたちを?」 鷹揚に頷くアーとウーン。どうやらマジのようだ。この二人の主は、何だってそんなトンチキな命令を与えたのか。古代人の考えることはよくわからん。ともかく、円陣を組んで相談タイム。「どうします、ロイさん。ボクお笑いとか自信ないですよ?」「いやー、でもやるだけやってみようの世界だろ、これ。だめならそのときゃ、覚悟決めて戦う感じで」「吾輩に任せてくだされ。人を笑わせることにかけては、自信がありますぞ」 何だか知らないが、すごい自信だ。ベイシック卿、あなたに決めた!「こほん。では、不肖ベイシック、行かせていきますぞ。スケルトンが透けとるん!」 広場を冷風が駆け抜けた気がした。……は? 卿、本気っすか? いやむしろ正気っすか!?「むむむ。これならどうですかな? スライムが悪夢を見た、辛い夢!」「えーと、あっはっはっ。うっふっふ! ベイシックさん、とても面白いですよ!」 パティが頑張って笑う。君は優しいなあ。でも声が本当に笑っていないし、兜で見えないが、表情もきっとこわばった笑顔だろう。 しかし、彼女の盛り上げも虚しく、アーさんとウーンさんブチ切れそうである。ベイシック卿の口を塞いで二度目の作戦会議!「どうしましょう。何か怒気を感じませんか?」「ひしひしと感じるな! ならば……」 耳を垂れて、ぐるぐる目になっているクコ。皆、大ピンチであることを自覚しているようだ。上手くいくかわからないが、フランとパティに急遽思いついたネタを授ける。「二番、フランシスカとパトリシア、行きますわ! 隣の家に、囲いができたんですってね!」「へえ~かっこいー!」「君とはやっとれんですわ!」 鎚鉾でパティを、思いっきりストライクするフラン。小気味良い金属音が鳴り響く。異界名物どつき漫才。どうよ!「…………」 無言で腕組みして、二の腕を指で叩くゴーレム兄貴たち。あ、だめだこれ。キレる一秒前っすわ。すんません、あんまベイシック卿のこと、どうこう言えないで
last updateLast Updated : 2026-07-22
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