All Chapters of 女はAカップ以下の世界で! 冒険、観光、ウマいメシ!: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十一話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ①

 いつものように依頼票を見に行ったが、今日は芳しいものがない。こんな日もあるものだな。 幸い蓄えはまだ十分なので、皆でタマゴときゅうりのサンドイッチと、牛乳をゆったり楽しんでいると、突如、店の入口が勢いよく開け放たれ、からんからんと呼び鈴が鳴る。 何ごとかと注視してみれば、歳のほど十五と伺える街娘姿の女の子が、すごい形相で入り口に立っている。髪型は、一本に伸ばした黒髪のおさげを、二重に結ぶという、変わったリボンの結び方で束ねていた。あどけなさが残る童顔と、鬼気迫る様子が実にミスマッチだ。「たのもー!!」 声を張り上げる少女。おいおい、殴り込みかよ。朝っぱらから勘弁して欲しいなあ。まあ、何かあれば店の外につまみ出そう。「いらっしゃいませ。お食事ですか? ご宿泊ですか?」 平常運転で接客する、女将さん。肝が座ってるな。「で……」「で?」 言い淀む少女、首を傾げる女将さん。「弟子にしてください!!」 両手をびしっと伸ばし、九十度に折れた見事なお辞儀をしてくる。なんと、弟子入り志願だったのか。 ◆ ◆ ◆「私、バーシムレ・ストルバックといいます! 昔、ここで頂いた女将さんの料理に感動して、弟子入りをしたいと、ルンドンベアにやって来ましたた!」 少女はとりあえず手近なテーブルに通されたので、女将さんと一緒に事情を聞く。背筋をピンと伸ばしてハキハキと答える、少女改めバーシムレさん。耳が痛くなるぐらい、声がでかい。何で我々が同席しているかというと、まあ成り行きというやつだ。「気持ちはありがたいのだけれど、弟子も従業員も採らないことにしているの。ごめんなさいね」 申し訳無さそうに、頭を下げる女将さん。「横から口出しすいません。前々から思ってたんですけど、どうして従業員を雇わないんです? お一人で大変でしょう?」 せっかくの機会なので、ずっと抱いていた疑問をぶつけてみる。「それは、常にすべて責任を持って、お客様にサービスを提供するためなんです。誰かが間に入ると、責任を負いきれませんから……」 うーむ、仕事ぶりから真面目な人だとは思っていたが、ここまで徹底していたとは。「そこを何とか! お願いしますッ!」 それでも食い下がる、バーシムレさん。テーブルに、額を擦り付けんばかりだ。放っといたら、土下座までしかねない。「ご
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十二話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ②

「ナンシア、火を消してくれ!」 指示を出しながら女将さんの口元に耳をやり、呼吸音を確認する。大丈夫だ、息はしている。目立った外傷もないようだ。 ちなみにナンシアに任せた理由だが、こういうときは、「誰か火を消してくれ」ではなく、誰でもいいから明確に相手を指定したほうが、人は迅速に動いてくれるものだからだ。何ごとかと様子を見に来た野次馬客たちを、席に戻らせるフラン。「見たところ、怪我は無いようだ。呼吸も安定している。ベッドにとりあえず運ぼう」 そのようなわけで、彼女を奥にある部屋のベッドに寝かせた。おそらく、ここが彼女の寝室だろう。飾り気はないが清潔で、実直な人柄が伺える。「クコ、詳しく診てあげてほしい。俺たちは厨房を片付けてくるよ」「わかりました」 俺も、多少手当ての心得はあるが、こういうのはより詳しい者に任せよう。あとはまあ、女性同士のほうが、色々気を使わなくて済むというのもある。 ◆ ◆ ◆「クコ、入っていいか?」 厨房も片し終わり、寝室の扉をノックする。「どうぞ」という彼女の声に合わせて、再度入室。「具合は?」「いわゆる過労ですね。疲労が、限界にきてしまったようです。栄養を摂って、静養すれば良くなると思いますけど……」 ううむ、過労か。ずいぶん、ハードワークしてたからなあ。問題は、彼女の性格だな。放っておくと、絶対無理をする。目を覚ましたら、きちんと説得しよう。「寝室に大人数がいても邪魔なだけだし、俺たちは外で食事してくるよ。任せて悪いな。弁当買ってくるけど、何がいい?」「サーモンサンドをお願いできますか? なければ、適当なサンドイッチでいいです」 注文を了解して、手近な店へ、残りのメンバーと出かけることにした。 ◆ ◆ ◆「戻ったぞ、クコ。サーモンサンドあったぞ」 寝室の扉をノックすると、「入ってください! 女将さん、目を覚まされましたよ!」と、クコの明るい声が返ってくる。おお、それは良かった。早速中に入る。「申し訳ありません。こんなだらしないところを、お見せして……」 女将さんが起き上がろうとするので、慌てて制止する。「そのまま休んでてください。クコから、状態はお聞きになっているでしょう?」「……ご迷惑をおかけします。昨日、あんなことを言っておいて、情けないです」 ううむ、やはり責任感が強すぎる
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十三話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ③

「バーシ、失礼だが、料理の腕前を教えて欲しい。誰が陣頭指揮を執るべきか、決めておきたい」 エプロンを身に着けて、厨房で作戦会議を開く。厨房は俺とバーシ、接客はサンとフラン、洗濯と掃除とベッドメイクは、パティとナンシアの三班に別れ、各々の仕事をこなしていく。 クコは、フレキシブルにどれかを担当しつつ、女将さんの看病をするという、アクロバティックで大変な役割だ。そのぶん、各部署でも比較的楽な仕事を回すという寸法。これを一人でこなしてたんだから、女将さんは控えめに言って、超人ではなかろうか。 ちなみにこのチーム割も絶対ではなく、昼夕の食事どきには、清掃班が調理と接客に回ってもらう。現在厨房には、助っ人としてパティも加わっている。「東のバーブル国で五年修行して、椀方……スープ担当のシェフですね、それを任されていました。ロイは?」 ここで、バーブルの名が出てくるとは。意外な縁だな。「俺も、師匠の下で五年修行していた。まあ、飯炊きもやっていたけど、どっちかというと、剣と魔法の修行が主だな。ちなみに、得意料理はカレーだ」「カレー? 聞き慣れない料理ですね。私も職業柄、色んな料理を研究してきたつもりですが」「異界料理だからな。何でそんなもん知ってるのかという説明は、割愛する。料理に関しては、やはりバーシに分がありそうだな。指揮は任せる」 バーシは了解し、てきぱきと準備に取り掛かる。「それと」 彼女が手を動かしつつ、話しかけてくる。「何だろうか?」「あなたたちの仕事が終わったら、みんなをお客様として、さん付けで呼ばせてもらいます。いいですね?」「いや、呼び捨てでいいよ」「そうもいきません。他のお客様の手前もありますから」 むう、言われてみればもっともだ。「わかった。そうしてくれ」 そうこうしているうちに、フランが注文を取って戻ってきた。オーダーはずばり、シェフのおすすめ。「いきなり手強いのが来たな。どう行く?」「ルンドンベアではお米が手に入りませんから、主食は小麦を使った料理ですね。確か、スパゲッティの備蓄があったはず。これと、旬の鮭といくらを合わせれば、私の得意料理ができます!」 下唇に親指を当て、熟考していた彼女が、顔を上げて料理を決定する。「よし、早速取りかかろう!」 三人がかりでバーシの思い描く料理を作っていく。スパゲ
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十四話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ④

「……とても優しい味で、美味しいです。すみません、バーシ。あなたのことを、もっと早く信用するべきでした。改めて、これからも店をお願いしますね」「ありがとうございます! さらに精進を重ねますので、よろしくお願いします!」 深々とお辞儀するバーシ。俺も我がことのように嬉しい。 食事し終わった膳を下げ、バーシと笑顔で拳を突き合わせる。「やったな、相棒!」「やりましたとも、相棒!」 明日も忙しい。これを片したら、ゆっくり休もう。 ◆ ◆ ◆ その数日後の夜、ちょっとした珍事が起きた。「ロイさん! とんでもない方がいらしてますわ!」 フランがずいぶん慌てているので、食堂を覗いてみれば、姿こそ平民の出で立ちだが、王城の謁見の間で、王の傍らに立っていた、小太り髭スキンヘッドの、重臣と思しき御仁じゃないか!「おいおい、何の冗談だよ。お忍びってやつか? いい趣味してるなあ」「どうしました?」 バーシが怪訝な表情で訊いてくるので、かいつまんで説明する。さすがの台風娘も、超VIPの来訪に緊張が走ったようだ。「彼の注文は?」「シェフのおすすめを、とのことです」 厳かに確認を取る、バーシへのフランの返答も、声がずいぶん緊張している。「どうする、バーシ。やはり、鮭といくらのスパゲッティでいくか?」 下唇に親指を当て、考え込む彼女。「相手が相手です。最上肉のステーキを出しては?」 意見を呈するフラン。確かに、最高の肉でおもてなしするのが最善だろうか。しかし、バーシはなおも熟考をやめない。「思うのですけど、わざわざお忍びで庶民的な店に来るということは、素朴な料理をお求めなのではないでしょうか。同時に、とても試されているとも考えます」 真剣な面持ちで、言葉を紡ぐバーシ。「コンソメスープをお出ししようと思います。それと、焼きたてのパンを」「ええ!? そんな安っぽ……いえその、普通の料理を?」 バーシの決定に、驚愕するフラン。「スープとソースには、料理人のすべてが出ます。あのお方には、私のすべてをぶつけます!」 ううむ、決意は固いようだ。指揮権はバーシにある。俺たちとしては、彼女を信頼するのみ。「よし、何でも言ってくれ。君の指示通りに動く」「ありがとうございます。では……」 彼女の指示を守り、着実にスープと
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十五話 魔導剣士ロイ、プロデュースする ―前編―

「今まで、ありがとうございました。昨日までのお賃金です」 早朝の、青い三日月亭の食堂。あのVIP来訪から一週間と少し経ち、女将さんもすっかり元気を取り戻し、仕事に復帰することになった。もちろん、バーシは引き続き、ここで仕事を続ける。 給料袋もずしりと重く、女将さんの強い感謝の気持ちを感じる。「ありがとうございます。でも、女将さんが元気になられたのが、一番の報酬ですよ」 微笑む彼女。バーシも嬉しそうだ。「今日のご予定は? やはり冒険でしょうか」「少し、やってみたいことがありまして。もしかすると、女将さんやバーシにも、吉報になるかも知れません」 顔を見合わせる、当の二人。「まあ、あの人の決断次第ですけどね。じゃあ、みんな出かけようか」 二人に別れを告げ、「スティング・ホーネット」再始動だ! ◆ ◆ ◆「兄貴ー、こっち高級住宅街だぜ~。依頼票見に行くんじゃないのかよ?」 いつもと違うコースに進んでいく俺に、疑問を呈するサン。「いや、こっちで合ってるよ」 やがて、いつぞや訪れたモロオ邸に到着した。「直接、依頼でも取り付けるんですの?」「いや、ちょっと商談をね」 フランの疑問にざっくり答える。門衛経由でアポイントを取ろうとすると、丁度ご在宅で、すぐに会ってくださるとのこと。こりゃ幸先がいい。 ◆ ◆ ◆「やあやあ、久しぶりじゃない。何の用だい?」 茶菓子を提供しながら、例の萌え絵が飾られた応接室で、気さくに応対してくださるモロオさん。「新しいご商売のアイデアがありまして」「へえ?」 佇まいを直し、身を乗り出してくるモロオさん。「バーブルから、米を輸入してみませんか?」 そう切り出すと、彼は渋い顔をする。「ああ、そういうことか……。実はさ、前にそれやって失敗してるんだよ。この国の人たち、全然お米食べてくれなくてねえ」 ソファに身をうずめ、脱力するモロオさん。「失礼ですが、その時のお話を、詳しく伺ってもよろしいでしょうか」「ええ……? まあ隠すようなことじゃないし、大打撃ってほどじゃなかったから、いいけどさ」 そう言って、彼は当時の失敗談を、詳細に話してくれた。要約すると、バーブルの特産品として少し輸入してみたものの、結果は鳴かず飛ばず。不良在庫は、なんとか鶏の餌として売り払うことができ、それほど痛手ではな
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十六話 魔導剣士ロイ、プロデュースする ―後編―

 後日、モロオさんとバーシは正式に契約書を交わし、我々はバーブルから米を持って帰ってきた。前回の失敗を考慮してか消極的な量だが、それはまあ仕方ない。 バーシの注文で、醤油と海苔、大豆に米酢にみりんに干し昆布に鰹節、その他細々した物も、同時に輸入している。これらは、バーブル料理に欠かせないものらしい。 むろん、商取引はこれだけではなく、様々な交易品を、向こうとこちらで売買している。「で、バーシ。どんな料理を作るんだい?」 青い三日月亭の厨房で、彼女の発案を皆と待つ。責任者であるモロオさんにも、ご足労願っている。「バーブル料理でも特に人気がある、寿司というものにしようかと思っています」 寿司とな? そういや向こうに滞在しているとき、そんな名前を耳にした気もする。「内陸ですから、川魚の寄生虫を避けるために、スケロクと呼ばれる、魚を使わない寿司にします」「へえ、こっちでもスケロクっていうんだねえ。懐かしいな」 郷愁に、目を細めるモロオさん。早速、バーシの指導で試作品を作り上げる。スポンサーであるモロオさんは観戦。「できました。実食してみましょう」 出来上がったのは、海苔を巻いた円形の寿司と、バーブルで見た米俵のような形をした、イナリと呼ばれる寿司の二種。早速頂いてみよう。 まずは円形の方から。バーシとモロオさんによると、手づかみで食べるのが粋らしい。 一口齧ってみる。パリッとした海苔の歯ごたえに続き、酢を和えた米がパラパラと解ける。この酸味と米の甘味に、具の卵焼きの甘味椎茸の滋味、きゅうりの爽やかな歯ごたえが合わさる。 あとは、干瓢といったか、これも歯ごたえがあって良い味わいだ。いやはや、これは面白いな。卵と野菜だけでこれだけ美味いんだから、現地の魚の寿司なんて食ったら、昇天してしまうぞきっと。 続いて、稲荷の方に手を付けようとすると、こちらは手づかみ非推奨だと止められる。 では、フォークで頂こう。そのうち箸の使い方も覚えないとなあ。 一口齧ると、甘辛いタレの味が、まず第一弾として舌に来る。これに、確か油揚げといったか、大豆と油の旨味が第二弾。そして、いい具合にタレの染みた酢飯の甘さが第三弾として口腔を満たす。 これを、バーブル名産・緑茶ですっきりさせる。素朴でほっとする味だな
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十七話 魔導剣士ロイ、閃く

「東の国バーブル名物、スケロク寿司でーす! お試しくださーい!!」 十二時の鐘とともに、青い三日月亭の入口横にテーブルを設置し、スケロク寿司と、土瓶に入れた緑茶の売り子をする。往来の通りすがりたちが物珍しそうに見るが、「まあいいや」と言わんばかりに立ち去ってしまう。うう、メンタルに来るな……。 しかし、ついに最初の一個が売れ、それが呼び水になったかのように、二個、三個と売れていく。 これはいけるんじゃないか? と思ったが、五個目で頭打ちになり、今日はそれ以上売れなかった。「売れ残っちゃいましたね……」 青い三日月亭の食堂で、売れ残りの弁当を食みながら、反省会を開く。「いや、僕の経験では悪い出だしじゃないと思うよ。明日次第かな」 戦果を見に来てくださったモロオさんが、意見を述べる。真剣な表情で、慰めの言葉には見えない。「そういうもんですか?」「そうですね、見慣れない料理の初日なら、こんなものではないでしょうか」 女将さんも、彼に同意する。「明日、今日以上に売れたら、リピーターがついたってことだから、あとは口コミで売れるんじゃないかと予測するよ」 モロオさんの言葉に、一同希望を取り戻す。「よし、みんな! 明日も気合を入れて売るぞ!」 拳を突き上げ、戦意高揚の音頭を取る。皆も拳を突き上げ、気合の籠もった声を上げる。 勝負はまだ、序盤戦。頑張っていこう! ◆ ◆ ◆ 二日目は微増して、七食がはけた。モロオさんの予測が、的中したらしい。 三日目にはついに完売! 序盤戦は制した模様。「いけますよ、モロオさん!」 一昨日の反省会から一転、祝賀会でエールのジョッキを傾け、一気に飲み干す。効くぅ!「うん、これは軌道に乗りつつあるね。増産体制を敷こう」 モロオさんもノリノリだ。「そういえば、通行人が、街の東で大規模な工事してるって話してたぜ」 サンが、耳ざとく拾った話を振る。「モロオさん、そちらでも売ってみませんか?」「いいね、やってみよう」 範囲を拡大して、労働者向けに、スケロク寿司を売ってみることに決定した。 だが、この試みは結果から言えば、失敗に終わった。三日間の試験販売でも、さっぱり売れなかったのだ。「何がいけなかったんでしょう?」 パティが両こめかみに人差し指を当てながら、首を傾げ疑問を呈する。「相変わらず、店頭
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十八話 魔導剣士ロイ、観劇する ―前編―

 モロオさんと劇場の商談は、つつがなくまとまり、我々は再度バーブルを訪れた。そちらの劇団との契約もまとまったが、遠征は早くてもさらに二週間後とのことで、今回はバーブルの品を仕入れ、米のさらなる供給を目指す。 この頃になると、「うちでも米を買いたい」という店が増え始め、また家庭用としても、少しずつ需要が見込めるようになってきた。モロオさんからは感謝されることしきりで、極めて良好な関係が築けている。「VIP席用意したからさ、劇、見に来てよ」 さらに再度バーブルを訪れ、劇団を連れ帰ってきた数日後、青い三日月亭にいらしたモロオさんから、チケットを六枚頂いた。女将さんとバーシにも、同じものを配られている。「ありがとうございます。ご商売の成功ともども、楽しみですね」「うん。みんなの力で、バーブルブームが来つつあるからね。これで決定打にするよ」 上機嫌のモロオさん。「他にも、有力貴族の方々を招いていてね。さすがの僕も、ちょっと緊張するな」「それはまたずいぶん、お話が大きいですねえ」「うんうん。じゃあ、僕は色々やることがあるから当日!」 ちょっとした思いつきが、ずいぶんと大きくなったものだ。それが今、自分の手を離れて独り立ちしつつある。誇らしいやら、少し寂しいやら。俺としては、あまり深入りする気もなかったし、あくまでも本業は冒険者だと思っているので、これでいいのだろう。 我々としても、モロオさんがイロを付けてくださったこともあり、一連の仕事は結構大きな収入となった。 開演は一週間後とのことで、VIP席に招待された以上、粗末な格好ではいけない。皆で、フォーマルな衣装を仕立てに行くことにした。 ◆ ◆ ◆ かくして、街一番の服飾店「レアリティ」で服を作ったわけだが、受け取り当日に試着したサンが、今にも泣き出しそうな声を上げる。「兄貴~。やっぱオレ、こんなヒラヒラした格好無理っス~!」 とは彼女の弁だが、浅黒い肌と黄色いドレスが引き立て合ってて、実に綺麗じゃないか。「いやいや、サン。とても似合っているぞ」「ほんとっスか?」 懐疑的なマイシスターに、うんうんと頷く。「兄貴がそう言ってくれるなら……」 今度は、何だかもじもじし始めたぞ。むう。 他の皆も、パティは青、フランは白、クコは緑、ナンシアは
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第三十九話 魔導剣士ロイ、観劇する ―後編―

 やがて、劇もクライマックスを過ぎ、あとは終劇に向かうというところで、耐え難い尿意を催してしまった。「ロイさん、どちらへ?」「用足し。あとで展開教えてくれ」 立ち上がったとき、クコに尋ねられたので簡潔に述べる。するとこいつ、頬に手を当て、「あらあら」なんて言いながら、妙ににんまりするじゃないか。変な想像しやがったな。本当にシモのことしか頭にないのか、こやつは。 トイレの帰り、扉が開いているボックス席が目に入った。そういえば、モロオさんがあの辺りの席だと仰っていた気がするな。 通り過ぎざまに、何の気なしに中をちらりと見ると、席で観劇されている見知ったモロオさん、貴族と思しき男の後ろ頭、それとナイフを振りかざしたフードとローブ姿の人影が目に入る。 って、ナイフだと!?「曲者!!」 声を上げ、不審者に飛びかかる! 揉み合いになり、とりあえず得物は落とさせることには成功したが、やつはボックス席の窓から飛び降り、逃走を図る!「逃がすか!」 俺もそのまま飛び降り、観客の間を泳ぐように追跡する。犯人がパニックを起こした観客に行く手を阻まれ、まごついているところを、後ろ絞めで取り押さえることに成功した。 ややあって警備員がやってきたので、身柄を引き渡す。やれやれ、せっかくの劇をめちゃくちゃにしやがって、この野郎。 ◆ ◆ ◆ その後、俺も事情を訊かれたが、被害者になるところだった貴族と、モロオさんが間に入ってくださったおかげで、あんまりややこしいことにならなかったようだ。 暗殺者は官憲に引き渡され、これから詳しく取り調べるとのこと。「君のおかげで九死に一生を得た! 礼がしたい、何でも言ってほしい!」「ロイ氏、僕からもお礼を言わせてほしい」 本日は公演中断となった劇場の前で、狙われた黒髪短髪で髭の豊かな中年貴族とモロオさんから、感謝感激されることしきり。サンたちは、俺の背後に控えている。 お礼かあ。そうだなあ、あのことをお願いしてみる、またとない機会かもしれない。「では、お言葉に甘えてひとつ……」 内容を告げると、貴族とモロオさんは目を丸くする。「そんなことで、いいのかね?」「ええ。こんな機会でもないと、実現できないと思いますので」「わかった。では、その通りにしよう」 貴族は快諾してくれて、本日は解散となった。
last updateLast Updated : 2026-07-22
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第四十話 魔導剣士ロイ、北へ行く ―前編―

 ある日の底冷えする早朝、今日も今日とて糧を稼ぐために、依頼票の吟味中。さて、今日はどんな依頼が来てますかね。 ドラゴン退治。おいおい、まだ残ってたのかよこれ。最初に見かけてからもう半年ぐらい経ってるぞ。まあ、さすがに相手が相手だししゃーないか。 次、ゴブリン退治。定番だが、実入りが悪いのが難。とりあえず新人に譲ろう。俺たちも別に、熟練でもないけどね。 えーと次は……? 北の国「エーデルガルド」で、悪魔崇拝の教団退治。報酬がかなり高い。脳内でエーデルガルドへの旅程を試算するが、雪で閉ざされる前には帰ってこれそうだ。「フラン、フラン。お前、こういうの興味あるだろう?」 後ろで様子を見守っていた神官サマに依頼票を見せると、それはもう、食い入るようにガン見。「やりましょう! そうしましょう!」と、鼻息も荒く急かしてくる。他のメンバーも不服はないようなので、これに決定! ◆ ◆ ◆ ルンドンベアから、北に馬車で行くこと五日と少々、ついに、エーデルガルドにたどり着いた。建物の造りが、それほどルンドンベアと違うわけでもないので異国情緒は薄いが、吐く息が白く、かなり厚着をしないと厳しいため、やはりここは北国なのだと、強く意識させられる。 もう数刻で日が沈みそうなこともあり、依頼者に会うのと、悪魔教団を退治するのは明日に回し、今日はゆっくり休もうという話になった。 さて、とりあえず宿探しだ。話し合いの結果、例によって俺のカンに任せるという話になったので、さっそく大通りを歩きながら、宿を物色する。 すると、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐるじゃないか。匂いの元をたどっていくと、一軒の宿屋が。「ここでどうかな?」 一同に同意を求めると、ここでいいという。じゃあ中に入ろうか。「いらっしゃいませー」 入口をくぐると、小太りで頭頂部の心もとない、なんとも気さくそうな初老の男性が出迎えてくれた。他には談笑している客が、そこそこいる。「六人、泊まれますか? 少なくとも二部屋はシングルで」「大丈夫ですよー。サウナもご用意しますねー。アニタ、サウナの用意してあげてー」 独特の間延びした口調で、お孫さんと思われる若い女性に、指示する主人。「すいません、サウナってなんですか?」「この地方では一般的な、蒸気にあたるお風呂ですねー。あったまりますよー」 へ
last updateLast Updated : 2026-07-22
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