朔夜(さくや)が出張から帰ってくる当日。私は彼を迎えに行く途中で、多重衝突事故に巻き込まれた。救急車に運び込まれる際、看護師さんが私のスマホから朔夜の電話を鳴らしてくれた。繋がった瞬間、電話の向こうから聞こえてきたのは、氷のように冷たい彼の声だった。「ちょうど俺から連絡しようと思っていたところだ。雫に輸血が必要だ。今すぐ来い」私が何か答える間もなく、口から大量の血が溢れ出した。看護師さんがスマホを耳に当て、切迫した声で言った。「九条結乃(くじょう ゆの)さんのご家族ですか!?こちら中央病院の救急です。結乃さんが交通事故に遭い、大変危険な状態です。至急、病院へ来てください!」電話の向こうで、朔夜は数秒沈黙した。「……結乃、今度は何の茶番だ?お前が何を企んでいようが知ったことか。今すぐここへ来い。もし雫に万が一のことがあったら、ただじゃ済まさないぞ」看護師さんが焦って声を張り上げた。「結乃さんは本当に酷いお怪我で……!」だが、言葉を遮るように朔夜が冷酷に言い放った。「だったら死ぬ前に、あいつから血を全部抜け。でないと、俺が自らそこへ行って血を絞り出すぞ」プツン、と電話が切れた。ドクン、ドクンと胸の奥から湧き上がった大量の血が、喉と鼻腔を塞いでいく……呼吸ができず、私は必死に血を飲み込もうとした。薄れゆく意識の中で、私は思った。血の通った人間が、どうしてこんなに残酷なことを言えるのだろう。もし生き延びることができたら、あいつの血を全部抜いてやる。そして、水鉄砲に入れて遊んでやるんだから。しかし、私にその機会が訪れることはなかった。私は、生き延びることができなかったのだ。幽霊になった私は、ただあてもなく宙をフワフワと漂い始めた。見下ろすと、看護師さんが何度も朔夜に電話をかけ直してくれていた。しかし、二度と繋がることはない。朔夜はいつもそうだ。私に用件を伝えたら、それ以上は言わない。私が絶対に彼に逆らえないと分かっているからだ。看護師さんは私の他の身内にも連絡を取ろうとしたが、当然誰も出ない。私は幼い頃から身寄りがなく、孤児院で育った。15歳の時に院長先生が亡くなり、朔夜の両親が私を九条家に引き取ってくれた。ご両親は私をとても可愛がってくれたが、朔夜は私
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