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私の死後、冷酷な夫は絶望に泣き濡れる
私の死後、冷酷な夫は絶望に泣き濡れる
作者: 刃は霜を秘めて

第1話

作者: 刃は霜を秘めて
朔夜(さくや)が出張から帰ってくる当日。私は彼を迎えに行く途中で、多重衝突事故に巻き込まれた。

救急車に運び込まれる際、看護師さんが私のスマホから朔夜の電話を鳴らしてくれた。

繋がった瞬間、電話の向こうから聞こえてきたのは、氷のように冷たい彼の声だった。

「ちょうど俺から連絡しようと思っていたところだ。

雫に輸血が必要だ。今すぐ来い」

私が何か答える間もなく、口から大量の血が溢れ出した。

看護師さんがスマホを耳に当て、切迫した声で言った。

「九条結乃(くじょう ゆの)さんのご家族ですか!?こちら中央病院の救急です。結乃さんが交通事故に遭い、大変危険な状態です。至急、病院へ来てください!」

電話の向こうで、朔夜は数秒沈黙した。

「……結乃、今度は何の茶番だ?

お前が何を企んでいようが知ったことか。今すぐここへ来い。

もし雫に万が一のことがあったら、ただじゃ済まさないぞ」

看護師さんが焦って声を張り上げた。

「結乃さんは本当に酷いお怪我で……!」

だが、言葉を遮るように朔夜が冷酷に言い放った。

「だったら死ぬ前に、あいつから血を全部抜け。でないと、俺が自らそこへ行って血を絞り出すぞ」

プツン、と電話が切れた。

ドクン、ドクンと胸の奥から湧き上がった大量の血が、喉と鼻腔を塞いでいく……

呼吸ができず、私は必死に血を飲み込もうとした。

薄れゆく意識の中で、私は思った。

血の通った人間が、どうしてこんなに残酷なことを言えるのだろう。

もし生き延びることができたら、あいつの血を全部抜いてやる。

そして、水鉄砲に入れて遊んでやるんだから。

しかし、私にその機会が訪れることはなかった。

私は、生き延びることができなかったのだ。

幽霊になった私は、ただあてもなく宙をフワフワと漂い始めた。

見下ろすと、看護師さんが何度も朔夜に電話をかけ直してくれていた。しかし、二度と繋がることはない。

朔夜はいつもそうだ。私に用件を伝えたら、それ以上は言わない。私が絶対に彼に逆らえないと分かっているからだ。

看護師さんは私の他の身内にも連絡を取ろうとしたが、当然誰も出ない。

私は幼い頃から身寄りがなく、孤児院で育った。

15歳の時に院長先生が亡くなり、朔夜の両親が私を九条家に引き取ってくれた。

ご両親は私をとても可愛がってくれたが、朔夜は私をひどく嫌っていた。

なぜなら、体が弱く倒れやすい彼の幼馴染――白鳥雫(しらとり しずく)が、私のことを嫌っていたから。

けれど、彼が私を追い出さなかったのもまた、雫のためだった。

彼は私をそばに置き、血液型が一致する私を、万が一の時に備えた雫専用の「生きた血液バンク」として扱ってきたのだ。

私には友達もいない。

今の私にとって、唯一の家族と呼べるのは朔夜だけだったのに。

……

看護師さんは結局誰とも連絡がつかず、最終的に私の遺体は霊安室へと安置された。

どうやら私の魂も、ここから離れられないらしい。

自分のあまりの悲惨さに、思わずぼやいてしまう。

「成仏できないなら、一生この病院から出られないのかな」

「それ、悲惨すぎない?」

ふと、12、3歳くらいの男の子の幽霊が、私のそばにフワリと漂ってきた。

私は限界まで目を見開き、鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げた。

「お、お化けぇぇぇっ!?」

「えっ!? どこ、どこにお化けがいるの!?」

彼は私以上に怯えた様子で、慌てて辺りを見回した。

私はポカンとして、恐る恐る目の前の彼を指さした。

彼もポカンとし、しばし沈黙した後……現実を受け入れたようにハァとため息をついた。

「ごめん、幽霊歴が短すぎて、まだ自分が死んだことに慣れてなくてさ」

「……私も」

思わず相槌を打つと、先ほどまでの恐怖はあっさりと消え去ってしまった。

「あれ、お姉さん、もしかして『赤い服の怨霊』!?」

彼の視線につられてうつむくと、確かに私の着ているワンピースは真っ赤だった。

朔夜が「お前は赤が似合う」と言ったから。

それ以来、私のクローゼットは赤い服ばかりになっていたのだ。今日も彼を迎えに行くため、少しでも喜んでもらいたくて、彼が一番気に入っていたこの赤いワンピースを選んだ。

とはいえ、怨霊だなんてとんでもない。私はただの臆病な幽霊だ。

霊安室にズラリと並ぶ無数の遺体を見ていると、幽霊のくせに背筋がゾワゾワしてくる。

これ以上ここにはいられず、私は男の子の幽霊の手を引いて、慌てて霊安室を逃げ出した。

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