冒頭 王子との出会い 出会いは突然だった。 身長は176センチ。 細い身体にうっすらと筋肉がついている。 白い肌は光を弾くようで、笑うと覗く八重歯が少年っぽかった。 生まれつき体毛が薄いらしく、夏でも腕はつるりとしていた。 湯上がりの少し紅くなった肌には妙な色気があり、何度触れたいと思ったかわからない。 優しくて、よく笑って、甘い言葉を惜しまない人だった。 燃え上がるような恋をした。 第一話 ソファに棲む妖怪 結婚三十年。 どうしてこうなった……。 夫婦共働き。 平日の十八時。 私が仕事から帰る頃には、夫は必ず先に帰宅している。 「ただいまー」 玄関を開けても返事はない。 嫌な予感しかしない。 リビングへ向かうと、今日も奴はいた。 帰宅した瞬間に脱ぎ捨てられた仕事着。 裏返った靴下。 床に転がるワイシャツ。 そして、三百六十五日ほぼ同じ灰色の部屋着をまとったまま、ソファに横たわる妖怪。 「ただいま」 二度目でようやく、 「おう」 返事はあった。 ただし視線はテレビから一ミリも動かない。 かつて毎日のように囁かれていた甘い言葉は、もう存在しない。 「愛してる」 「会いたかった」 「今日も綺麗だね」 あの頃の男はどこへ消えたのか。 今、目の前にいるのは、ポテチを食べながら尻を掻く中年生物である。 そして妖怪は、ニュース番組を見つめたまま静かに屁をこいた。 ……ブゥ。 「ねえ」 「ん?」 「今のおなら?」 「おう」 悪びれもしない。 私は静かに天井を見上げた。 結婚三十年。 恋とは、儚い。 第二話 冷蔵庫を漁る夜行性生物 朝、台所へ入った瞬間、私は静かに目を閉じた。 シンクには茶碗と箸。 食べ終えた形跡のある皿。 中途半端に残されたおかず。 昨夜も出たのだ…。 深夜になると活動を始める妖怪がいる。 奴は夕食を終えるとソファーへ横になる。 そのまま寝息を立て、朝まで動かない時もある。 だが時々、夜中に目を覚ます。 そして、冷蔵庫を漁るのだ。 夕飯の残り、 冷やご飯、 翌日のために置いていたおかず…。 容赦なく食べ尽くす。 翌朝には綺麗に消えている。 若い頃はあんなに細かったのに、今では会社の健康診断で高メタボ判定。 部屋着の上着からは腹が収まりきらず、ぼよんと垂れ下がっている
Última actualización : 2026-07-24 Leer más