退院から三日後。 父はようやく日常の生活を取り戻しつつあった。 とはいえ、遥臣からは「無理は禁物」と何度も念を押されている。 出社も午前中だけ。 午後は自宅で休むように言われていた。「じゃあ、行ってくるよ」 父が上着を羽織る。 綾香はその姿を見つめていた。「お父様」「ん?」「今日は……私も一緒に行ってもいい?」 父は少し驚いたように目を瞬かせる。「会社へ?」「ええ」「この前、連れて行ってくれるって約束したでしょう?」 父はすぐに笑顔になった。「ああ、そうだったな」「もちろんだ」「でも、退屈かもしれないぞ?」「それでもいいわ」 綾香も微笑み返す。 本当の理由は言えない。 会社を見たい。 父が守ってきた場所を知りたい。 そして――。(理央に奪われる未来を、変えたい) そのためには、まず知らなければならない。 何を守るべきなのかを。◇◆◇ 車に揺られながら、綾香は窓の外を眺めていた。 前世でも会社へ行こうと思えば行けたはずだ。 けれど、自分から興味を持とうとしなかった。 父も何も言わなかった。 だから、自分には関係のない世界だと思い込んでいた。 そんな自分を、少しだけ後悔する。「緊張してるのか?」 父が笑う。「少しだけ」「そんなに構えなくていい」「社員はみんな優しい人たちだから」 その一言に、綾香は父らしさを感じた。 父は会社を利益だけで見ていない。 働いている人たちを信頼している。 だからこそ、長く会社を続けてこられたのだろう。◇◆◇
最後更新 : 2026-08-08 閱讀更多