翌朝。 綾香は病院へ向かう前に、預かり票に書かれていた住所へ足を運んだ。 商店街の一角にある、小さなクリーニング店だった。 ガラス戸を開けると、店内には柔軟剤の優しい香りが漂う。「いらっしゃいませ」 カウンターの奥から、年配の女性が顔を出した。「すみません。少しお伺いしたいことがあるんですが」 綾香は預かり票を差し出す。「三年前のものなんです」 女性は老眼鏡を掛け、預かり票をじっと見つめた。「三年前……?」「ずいぶん前ですねぇ」「やっぱり、覚えていませんよね」 綾香が苦笑すると、女性も申し訳なさそうに笑う。「お客様は多いですからねぇ」「さすがに全部は……」 そう言いながら預かり票を裏返した女性が、ふと首を傾げた。「あら」「どうかしましたか?」「この印……」 女性は伝票の隅を指差した。「うちで長く預かった品には、この印を付けるんですよ」「長く預かった?」「ええ」「何度ご連絡しても受け取りに来られない時ですね」 綾香は思わず身を乗り出した。「じゃあ、このコートは……」「しばらく店に残っていたんです」「でも、その後は引き取りに来られていますよ」 女性は穏やかに答えた。 綾香の胸が高鳴る。「どなたが受け取りに来たか、覚えていらっしゃいますか?」「うーん……」 女性は困ったように眉を下げる。「そこまでは思い出せませんねぇ」「そうですよね……」 三年前のことだ。 無理もない。 それでも、一つ分かった。
最後更新 : 2026-08-05 閱讀更多