綾香は静かにアルバムを開いた。 最初の数ページには、古い写真が並んでいた。 会社で見た創業当時の店。 父が社長へ就任した日の記念写真。 社員旅行で撮影された集合写真。 その一枚一枚に、母が小さな字で日付や出来事を書き添えている。『お父様が社長になった日』『社員旅行。雨だったけれど、みんな楽しそう』『創業百五十周年記念』 どの写真にも、母の温かな眼差しが感じられた。 ページをめくる。 すると、雰囲気が少し変わる。「……あ」 思わず声が漏れた。 そこに写っていたのは、小さな女の子と男の子だった。 泥だらけになって笑い合っている。「私……」 幼い自分だった。 そして、その隣で得意げに虫かごを持っているのは理央だ。 写真の下には、母の字で短く書かれていた。『綾香、五歳。理央、七歳。』『二人で庭中を走り回って、お互い泥だらけ』 綾香の頬が緩む。「こんなこともあったわね……」 幼い頃の理央は、いつも自分の後ろを歩いていた。 転べば手を差し伸べてくれた。 高い木に登れず困っていれば、代わりに枝を取ってくれた。 兄のような存在だった。 さらにページをめくる。『綾香、小学校入学。』 真新しいランドセルを背負った自分が写っている。 その少し後ろには、照れくさそうに立つ理央。『理央が「ランドセル似合ってる」と褒めてくれました。』 母の書き込みに、綾香は思わず笑ってしまう。「そんなこと、言ってたのね」 本人はもう覚えていないかもしれない。 でも母は、それが嬉しくて残しておいたのだろう。 また一枚。 また
Last Updated : 2026-08-11 Read more