月日は流れクラリスは10歳になろうとしていた。そんなある日の午後、クラリスはいつものように書斎で本を読んでいた。隣では俺――光精霊ヒカリが、ふわふわと浮かびながら彼女の様子を見守っている。「ふぅ……今日の勉強はここまでにしましょうか」 クラリスが本を閉じて、軽く伸びをする。俺は優しく光を灯して彼女を労った。「お疲れ、クラリス。今日もたくさん勉強したな」「ありがとう、ヒカリ。あなたがそばにいてくれるおかげで、勉強も楽しく感じるわ」「それは何より!」 そんな穏やかな空気の中、突然、書斎の扉がノックされた。「お嬢様、旦那様がお呼びです」「……お父様が?」 クラリスは少し驚いた顔をしながらも、すぐに表情を引き締めて立ち上がる。「わかったわ。すぐに伺うわね」 俺はクラリスの肩の上にふわりと寄り添いながら、不安を感じていた。普段、公爵であるクラリスの父が直接呼び出すことは少ない。何か重要な話があるのだろう。(何の話だろう……まさか、嫌な予感がするな) そう思いながら、クラリスとともに執務室へ向かった。***「お父様、お呼びだと伺いました」 クラリスが扉を開けると、立派な書斎の中央に座る公爵がクラリスを見つめていた。「来たか、クラリス。そこに座りなさい」「……はい」 クラリスは緊張した様子で椅子に腰を下ろした。俺はそっと彼女の肩のあたりで光を灯す。「話というのはな……クラリス、お前の婚約が正式に決まった」「――!」 クラリスの体がわずかに震えるのがわかった。俺も驚いて、思わず光を揺らす。「婚約……ですか?」「ああ。お前はすでに知っているだろうが、王太子殿下とは幼いころから婚約の話が進められていた。しかし、これまで正式に決まることはなかった」「それが……なぜ今?」「王太子殿下が今年で十歳になられる。このタイミングで、王室から正式な婚約を確定させたいとの申し入れがあったのだ」 クラリスの指先がきゅっと握りしめられる。「……お父様は、この婚約をどう思っていらっしゃるのですか?」「ふむ……」 公爵はしばらく黙った後、低い声で答えた。「王太子殿下との婚約は、ルクレール公爵家にとって大きな名誉であり、国の安定にも寄与する。私としては、断る理由はない」「……そう、ですか」 クラリスの声には、どこか感情がこもっていなかった。
Última actualización : 2026-08-16 Leer más