謙人は、胸を強く締め付けられるような苦しさを覚えた。凍りつくような車内の沈黙のあと、彼はようやく、絞り出すように口を開いた。「あの一件を、君がまだ許せずにいるのはわかっている。だが、償うと約束したはずだ。これからの人生はすべて君に捧げる。俺も、必ず君を愛してみせる。君の言うことなら何でも聞く。だからどうか、少しは笑ってくれないか」雪奈は無表情のまま、冷ややかな視線を彼に返した。「何でも言うことを聞いてくれるの?なら、昔私が贈った結婚指輪、返してくれる?」謙人の顔色がさっと変わり、ハンドルを握る手に力がこもった。「どうして今さらそれを?」「どうせつけてもいないじゃない。取り戻したいと思うのは当然でしょ」「それ以外なら何だってする!」謙人の声が低く沈み、有無を言わせぬ響きを帯びた。雪奈はそれ以上何も言わず、ただ静かに彼を見つめ返した。そんな彼女の様子に、謙人は胸が締め付けられるようだった。駄々をこねる子供を宥めるように、声を和らげた。「雪奈、この数年で君がどれほど辛い思いをしてきたかはわかってる。これからは、侑香とは連絡を取らないようにする。だからもう、機嫌を直してくれないか」言い終わらないうちに、スマホが鳴った。秘書からだった。声がひどく切羽詰まっている。「社長、大変です!柏尾さんが飛び降りました!今、病院に搬送されて緊急手術中です!」「なんだと?すぐ行く!」謙人の顔色が一変し、荒々しくアクセルを踏み込んだ。タイヤが路面を擦り、耳をつんざくような甲高い音を立てた。車は矢のように飛び出した。急発進の反動でシートに背中を打ちつけられた雪奈は、声ひとつ上げず、ただ窓の外を眺めて自嘲気味に笑った。連絡を取らないようにする、か。調子のいいことを言うのね。病院に着くと、手術室のランプが赤く点灯していた。看護師が慌ただしく行き交い、誰の顔にも焦りの色が浮かんでいる。秘書が額に汗をにじませて駆け寄ってきた。「社長、柏尾さんは三階から転落し、全身を強く打ったうえ、複数箇所を骨折しています。医師の話では大量出血していて、RH陰性の血液が必要だと。市内中の血液センターに問い合わせていますが、まだ見つからず……」謙人が弾かれたように振り返り、雪奈を見た。雪奈は廊下の端で壁に背を預け、静かな表情で立
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