「わから、ない……かな」 あの女のひとは消えてしまいました。今はもう姿が見えませんし、どこにいるのかもわかりません。 怨霊や悪霊のような例外を別にすれば、霊というのは総じて霞のように希薄な存在です。 わたしが彼女を見出すことができたのは、わたしの『目』がそうしたものだから。 その希薄さゆえのことか、総じて霊という存在は『自分を見つけてくれる誰か』に寄ってゆくものなので、もしかしたらあの女性もまたこの店に――わたしのところへ来てくれる可能性はあるでしょう。 けれど、「フリスはそれを、望み薄だと考えている訳だ」 拙い話を要約し、問い返してくれる彼に。 こくん、とわたしは頷きました。 あの女性はお店に入ってきてから一度もわたしの声に応えてくれませんでしたし、ずっとお店の商品棚を見ていました。わたしはあのひとを見ていたけれど、あのひとはお店にいる間ずっと、わたしのことなんて見てはいませんでした。 わたしが彼女を見出すことができたのは、わたしの『目』がそうしたものだから。 けれど、彼女がどうして、わたしの目で見えるところへ来ていたのかは、わたしにもわかりません。 もしかしたら、自分が死んでしまっていることにさえ、彼女は気づいていないのかもしれません――何となしにふらふら表の道を散歩していたら、たまたまわたしのお店が目に留まって、ちょっとした好奇心で入ってみたというだけで。「……当面の害はないとはいえ、気付いてしまった以上は放置するのもな。今は無害なただの霊かもしれないが、それでも彼女には、この世に縫い留められるだけの『何か』はあるんだ」 難しい顔で、シオンくんは眉根を寄せていました。 そして、そう――シオンくんの言うとおりなのも、やはり間違いのないのです。 今はただの霊であったとしても――自分をこの世界に縫い留めた情念の正体に気づいてしまったら。 その瞬間から、彼女は自分の抱いた末期の苦しみにと
Last Updated : 2026-09-09 Read more