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14.朝のひばり/軋む夢から醒めて

Auteur: 遠野例
last update Date de publication: 2026-09-11 07:06:59

「……ぁああああああぁあああぁぁぁぁ―――――――――――――!!!」

 慟哭が耳を塞いでいました。

 誰の? わかりません。知れるはずがないのです、そんなもの。

 だって···は死んでしまった

 ····死んでしまった。

 終わってしまった。終わってしまった。あんなに呆気なく。やりたいことも言いたかったこともまだいくらでもあったのに、なのに、

「――ス、フリス! 目を覚ま――」

 目の前が真っ白にふさがれている。

 強い力が···の身体を揺さぶっている。

 ああ、きっとあの魔獣だ。尾の先にふたつめの頭を持ち、毒の息で肉を熔かす双頭の蛇竜――双頭蛇竜アンフィスバエナ

 あの丸太のような腕であたしわたしの身体をぐちゃぐちゃにする。あたしわたしをばりばりと食べようとしている。あたしわたしも、あいつも。

「――を、覚―

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     ――気が付いたら、目の前に天井がありました。 ぼけーっと天井を見上げて、「ああ、朝かぁ」なんてのんきなことを思いながらごろんと寝返りを打って、「わぁ!!」 跳ね起きました。我に返って。 魔女の長衣を着たまま、わたしはベッドで横になっていました。 帽子やケープ、あと腰に巻いていたポーチなんかはサイドボードにまとめて置いてあって、丈の短いブーツもベッドの足元に置かれていましたが。「ぁっ、え? あれ……あれぇ!?」 ぜんぶ夢だったのでしょうか。いいえ、それはないはずです。わたし、ちゃんと儀式をしてきました。長衣にほんのり移ってしまったらしい香袋の香りからでもそれは分かります。 じゃあ――もしかして、わたし、あのまま眠っちゃった? シオンくんに、抱きしめてもらった……まま? 窓の外を見ると――陽はすっかり高くなっていました。「ぁ……わ、わ。わわわっ!」 あたふたとベッドを降り、狼狽のあまりあやうくこけそうになりながら。 皺になりかけたスカートのすそをぱたぱたと叩いて直し、髪も適当になでつけて。もたもたと靴を履いて、部屋を飛び出しました。 血の気が引く思いで真っ青になりながら、廊下を駆け抜けて、お店へ。「シオン、く――おはよ……!」「あらぁ、フリスちゃん。おはよう」「昨日も大変だったみたいねぇ。ちゃんと眠れた?」「あ。あたし達のことは気にしないで頂戴ね。しっかり休んでなさい?」 ほほほ、と笑いながら口々に挨拶してきたのは、お店に来ていたトスカの女性たち、主婦のみなさんでした。「あ、はひ。おはよ――ござい、ますっ! ぇと……」 あわあわと頭を下げて、挨拶を返すわたし。 みなさんは「ほほほ」と声を合わせて笑うと、三人で囲んでいたもう一人の腕や背中をべしべしと叩きました。 シオンくんでした。困ったみたいな顔で口の端を引きつらせながら、主婦のみなさんに囲まれていました。「……おは

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  • 魔女の嫁入り   18.此処に至るまでのすべて/相似たるわたしとあなた(1)

       むかし、どこかで誰かに教えてもらったことがあります。 『香り』というのは五感が感じる感覚の中で、もっとも強く残る記憶なのだと。 魔女の香袋は血族の血を通していにしえから連綿と伝えられてきた、紛れなき魔女術のひとつ。魔女術工芸品のひとつです。 それらはすべて、その効果ごとに使う花や薬草、香油の種類、袋に縫い付ける刺繍まで事細かに決まっています。 ゆえに、魔女術工芸品の製法にのっとり正しく作られる限りにおいて、同じ『おまじない』を込めた香袋は、どこのどんな魔女が作ったとしてもまったく同じものになります――もちろん、その香りも。「あのひとが探していたのは、この香り」 彼女が探していたのは、霊を見ることのできる『誰か』ではなかった。 彼女が探していたのは、今もその記憶に残る懐かしい香り。 ――そう。だからこそなのです。 もう二年も前に亡くなったあのひとが、今になってこのお店を訪《おとな》ったのは。 わたしが以前にこのお店で薬師をしていた頃、お店の棚におまじないの香袋を置いたことはありませんでした。 わたしがシオンくんやビアンカさん達と二度目の冒険の旅をしていた間、わたしの代わりに薬師としてこのお店を預かってくれていたお師匠さまも、それは同じだったのでしょう。 恋に出会うおまじないの香袋を作りはじめたのは、シオンくんとふたりでこのお店を開いてから。 工房でひとつひとつ仕込んでいた期間を足しても、ほんの二日前。だから彼女は、今この時にわたし達のお店を見出したのです。「ね……シオンくん。シオンくんは、《類感魔術》……それから、《感染魔術》って、知ってる?」「古い魔術――《呪術》で括られてる一派の魔術理論だろう? 『類似したものは互いに影響しあう』、『ひとたび接触したものは離れた後でも互いに影響を及ぼす』――だったか」「うん」

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