江藤紗季(えとう さき)は、まさかパーティー会場で夫の浮気を目の当たりにすることになるとは思ってもいなかった。黒田怜司(くろだ れいじ)は白いシャツに黒いスラックスという姿で、肩幅は広く腰は細い。背筋の伸びた立ち姿は凛としていて、眉は鋭く、鼻筋もすっと通っていた。薄い唇をわずかに吊り上げるその表情には、雪をまとったような、冷たく近寄りがたい雰囲気が漂っていた。その隣には、細いストラップの赤いドレスを着た女がいた。怜司の黒いジャケットを肩に羽織り、ゆるくウェーブした茶色のロングヘアを肩に垂らしている。どこか気だるげで、知的な雰囲気のある女性だ。四歳の黒田奏太(くろだ そうた)は二人の間に立ち、それぞれの手を握っていた。「パパ、美月お姉さん。もうすぐパーティー始まるよ。中に入ろう」紗季の頭は真っ白になった。まさか、息子までここにいるとは思わなかった。口を開き、息子の名前を呼ぼうとした。けれど喉が塞がれたようで、声が少しも出てこない。奏太は紗季の視線に気づいたのか、振り返った。騒がしい人混みの向こうから、その目がまっすぐ紗季を捉える。紗季は指先が白くなるほど両手を強く握りしめ、胸の奥にかすかな期待が芽生える。パーティーの主催者らしい女性が、奏太の視線を追うようにして、警戒した様子で尋ねた。「奏太、あの人、さっきからずっとあなたを見てるけど、知り合いなの?」奏太は俯き、小さな声で答えた。「知らない」女性は不満そうに顔をしかめた。「誰が連れてきた人なの?うちの大事なお客さんを、さっきからずっと見てるじゃない」「さあ。どこかの家の使用人じゃない?」別の人がそう口を挟んだ。「ちょっと様子を見てきて」女性は使用人にそう命じると、嫌そうな目で紗季を一瞥した。その騒ぎに気づいた怜司が、ふとこちらを振り返った。紗季を見ても、浮気を見られた気まずさなど、少しも感じさせなかった。紗季のことを説明しようとする素振りもなく、赤いドレスの女の背中に手を添えると、そのまま彼女を連れて立ち去っていく。まるで、紗季の姿を彼女に見せたくないかのように。そこへスタッフの一人が紗季のそばまでやって来た。「失礼ですが、招待状を見せていただけますか。お持ちでなければ、こちらからお引き取りいただくことになります」紗季はいたたまれない気持ちで俯き、落
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