Alle Kapitel von 「君の役目は妹で足りる」と婚約破棄されたので辺境へ去りましたが、滅びかけた王国より先に私の領地が大陸最強になっていました: Kapitel 61 – Kapitel 65

65 Kapitel

第61話 書庫番の署名

王立書庫に流れた噂は、思ったより早く広がった。 商務院から移送された北方旧所領関連の控えに欠落があった。 その欠落は、もともと商務院にあった時からのものではなく、王立書庫へ移された後に生じたのではないか。 つまり、書庫の管理に不備があったのではないか。 声高に言う者はいない。 だが、王都という場所では、声高でない噂ほど厄介だった。 廊下の端で交わされる短い会話。 茶器を置く侍女の沈黙。 書庫番を見る商務院役人の妙に丁寧な目。 それらが、紙に書かれない形で空気を濁らせていく。 第二王子ルシアンは、その空気を王立書庫の閲覧室で受け止めていた。 机の上には、商務院から移送された箱の記録が三種類並んでいる。 ひとつは、商務院側の引き渡し目録。 ひとつは、王立書庫側の受領目録。 そしてもうひとつは、移送時に立ち会った書庫番たちの署名控え。 どれも退屈な紙だ。 普通の貴族なら、目を通す前に眠くなるだろう。 だが、退屈な紙ほど嘘を隠しにくい。 ルシアンは、受領目録の端を指で押さえた。「第三区分、北方旧所領、鉱石搬出関連。箱数三。封蝋確認、異常なし」 近習が横で読み上げる。「はい。受領時点で封蝋に破損なし、と記されています」「封蝋が無事でも、中身が無事とは限らない」「ですが、箱の中身まではその場で全頁確認しておりません」「だから、そこを突かれた」 ルシアンは淡々と言った。 噂を流した者は、そこを狙っている。 王立書庫は箱を受け取った。 だが受領時、全頁の確認はしていない。 ならば、欠落がいつ起きたかはわからない。 王立書庫が管理不備を起こした可能性もある。 そういう話にしたい
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-06
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第62話 白蔦会の名

白蔦会。 その名が帳場に残された夜、砦の空気は深く沈んでいた。 誰かが声を荒らしたわけではない。 兵が走り回ったわけでもない。 それでも、そこにいた者たちは皆、同じことを理解していた。 ようやく、影に名前がついたのだ。 名がつけば、追える。 追えるということは、相手もまた逃げ方を変える。 レティシア・エーヴェルシュタインは、夜の帳場でリュカの供述記録を読み返していた。 王都商会、白蔦会。 連絡役、バルマン。 封印箱の原本確認。 可能なら封の写し。 不可なら番人名。 短い言葉ばかりだった。 だが、その短さがかえって不気味だった。 余計なことを知らせず、末端には必要な作業だけを渡す。 典型的な切り離し方だ。 リュカは、自分が大きな不正の全体像を知っているとは言わなかった。 むしろ知らないのだろう。 知っていれば、もっと言葉の選び方が違ったはずだ。 彼は白蔦会の名を出した時、怯えていた。裏切った怯えではない。自分がどれほど替えの利く駒だったか、ようやく気づき始めた者の怯えだった。「お嬢様」 マルタが茶を置いた。 湯気が細く上がる。 その香りは、帳場に残る古紙と蝋の匂いを少しだけ和らげた。「もうお休みになられては」「あと少しだけ」「その“あと少し”は、たいてい夜明けまででございます」 レティシアは苦笑した。「今日は本当に少しよ」「信じたいところでございます」 マルタはそう言いながらも、それ以上は責めなかった。 彼女もまた、今夜の記録が軽いものではないとわかっている。 帳場の隅では、ルイスが写しを整
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-07
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第63話 逃げる者を追う者

王都の夜は、辺境の夜より明るい。 通りには灯りがあり、馬車の音があり、どこかの屋敷からは楽の音まで漏れてくる。 けれど、その明るさのせいで、かえって闇が濃く見える場所もあった。 商務院下級吏バルマンは、外套の襟を立てて裏通りを歩いていた。 隣には、ヴァイスナー家に出入りする連絡係の男がいる。 名は聞いていない。聞こうとも思わなかった。 いや、本当は聞くべきだったのだ。 けれど、バルマンはそういう男だった。 言われたことをし、見ないふりをし、深く考えずに済む場所へ逃げる。 そうやって、今まで王都の小さな役人として生きてきた。「本当に、数日だけなんだな」 バルマンは同じ問いをまた繰り返した。 連絡係の男は、少しも苛立たずに答える。「もちろんです。王立書庫の騒ぎが落ち着くまで、身を隠すだけです」「私は何もしていない」「存じております」「本当に、私は頁を抜いていない。ただ、箱を……少し見せただけだ」「ええ」 連絡係の声は優しい。 優しすぎるほどだった。 バルマンの足が、ほんの少し鈍る。「なあ」「はい」「私は、戻れるんだろうな」 連絡係は振り返り、穏やかに笑った。「もちろん。貴方はただ、少し疲れて休んでいただけです」 その言葉を聞いて、バルマンは少し安心しかけた。 だからこそ、自分の後ろを歩く足音に気づかなかった。 ルシアンの近習であるカイルは、少し距離を置いて二人を追っていた。 王都の裏通りは、道を知る者に
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-08
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第64話 ベルナールという名

ベルナールという名は、帳場の空気を変えた。 ヴァイスナー侯爵家。 ランベール香房。 銀狐商会。 商務院。 北方旧所領。 香木の小箱と、鉱石の見本箱。 それぞれはまだ、細い糸だった。 だが《山羊の鈴亭》の宿帳に残っていたその名は、糸の結び目のように見えた。 王都の貴族本人ではない。 商人でもない。 けれど、貴族の言葉遣いを知り、夜に代官所へ出入りし、香木の箱と鉱石見本を扱う者。 調達役。 使い走り。 あるいは、表に出ない家付きの手足。 レティシア・エーヴェルシュタインは、朝の帳場で宿帳の写しを見つめていた。 ベルナール。 従者一名。 馬一頭。 小箱三。 短い記録だった。 短いからこそ、余計な言い訳がない。「ベルナールという名だけでは、王都に照会しても候補が多すぎますね」 ルイスが言った。 彼の前には、昨夜作った写しが三枚並んでいる。 一枚は宿帳の該当頁。 一枚は旧代官所の鉱石見本箱の移動控え。 一枚はランベール香房の香木請求書。「ええ。ただの名だけならね」 レティシアは頷いた。「でも、条件をつければ絞れるわ」「条件、ですか」「王都貴族家の調達役、または従僕。ヴァイスナー家かその分家筋と関係がある者。ランベール香房、あるいは香料商の荷を扱った記録がある者。北方旧所領の旧代官所へ来訪した可能性がある者」 ルイスはすぐに書き留める。「ベルナール、王都貴族家調達役、ヴァイスナー家関係、ランベール香房、北方旧所領来訪……」 ディルク・ヴァルゼンが窓際から口を開いた。「従者一名も忘れない
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-09
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第65話 王都に届くベルナールの名

 王都の朝は、辺境よりもずっと穏やかに見える。 石畳は磨かれ、通りには焼きたてのパンの匂いが流れ、貴族街の屋敷の窓には、まだ眠たげな光が差している。庭師たちは花壇の端を整え、商人たちは荷馬車を静かに動かし、王城の塔は白く霞んだ空の下で、今日も何事もないように立っていた。 だが、何事もないように見える場所ほど、紙の奥ではよく軋む。 王立書庫の奥で、第二王子ルシアンは届いた封書を前にしていた。 封蝋には、北方旧所領の代行印。 そして、封の継ぎ目には細い糸が二重にかけられている。途中で開けられた形跡はない。 近習のカイルが、控えめに言った。「辺境より、急ぎとのことです」「急ぎ、か」 ルシアンは封書を指先で撫でた。 レティシア・エーヴェルシュタインは、むやみに急がせる女ではない。 彼女の書簡は、いつも必要な分だけ鋭く、余計な感情を紙に滲ませない。 その彼女が“急ぎ”の形で送った。 ならば、中身は軽くない。「開けよう」 封を切る音が、書庫の静けさの中で小さく響いた。 中には、複数の写しが丁寧に束ねられていた。 《山羊の鈴亭》宿帳写し。 古い宿泊記録。 香木小箱二、鉱石見本箱一。 従者一名。 青脈鉱石見本送付控え。 そして、欄外に添えられた一文。 ヴァイスナー家後援案件につき、優先照合願う。 ルシアンは、その一文を読んだ瞬間、しばらく動かなかった。 カイルが声を落とす。「殿下」「……来たな」「何が、でしょう」「名前だ」 ルシアンは宿帳写しを机の上に広げた。 そこに記されていた名は、はっ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-10
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