帳場の空気は、静かに張り詰めていた。 窓の外では、いつも通りの町の音がする。 荷を運ぶ声、木を打つ音、遠くで馬が鼻を鳴らす気配。 だが、この部屋の中だけは別だった。 セラフィナ・ヴァルクは、指先を組んだまま、レティシアを見つめている。 その視線には、敵意はない。 けれど、遠慮もない。 値踏みと、興味と、わずかな愉しみ。 すべてが混ざっている。「では」 セラフィナが先に口を開いた。「規則を伺いましょうか」 柔らかな声。 だが、その一言は明確に場を進めるためのものだった。 レティシアは机の上の帳面へ軽く触れ、それから視線を上げる。「まず前提として」 静かな声。「この領地の流れは、外に預けない」 間を置かずに言い切る。 ルイスが、ほんのわずかに息を止めた。 セラフィナは、その言葉を受け止め、ゆっくりと頷いた。「承知しています。ですから“預かる”と申し上げました」「同じよ」 レティシアは即座に返す。「流れを握られれば、こちらは条件を変えられなくなる」 セラフィナの唇に、わずかな笑みが浮かぶ。「賢い」 その言葉には、賞賛が混じっていた。 だが同時に、試しも含まれている。「では、どうなさいます?」 少しだけ、身体を前に寄せる。 距離が近くなる。 だがそれは露骨ではない。 ほんのわずかな圧だけを乗せる動き。「すべてご自身で回し続けますか?」 その問いは柔らかい。
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-16 Mehr lesen