翌朝、帳場の机には、古い封蝋の写しが並べられていた。 商務院の旧印。 鉱石搬出許可の控え。 北方山越え交易に関する臨時搬送書。 そして、王都貴族家の後援印と思われる紋章。 どれも、はっきりとした証拠と呼ぶにはまだ足りない。 だが、ただの偶然として片づけるには、あまりにも形が揃い始めていた。 レティシア・エーヴェルシュタインは、窓から差し込む朝の光の下で、その印を見つめていた。 古い蝋はひび割れており、紋章の一部は潰れている。 それでも、外縁に刻まれた蔦の形と、中央にある細い剣の意匠は残っていた。「この紋、見覚えがあるわ」 レティシアが言うと、ルイスが顔を上げた。「王都で、ですか」「ええ。ただ、はっきりとは思い出せない」 王都には似た紋が多い。 剣、獅子、鷹、薔薇、月桂樹。 家門の歴史を誇るために、どれも似たようなものを少しずつ違えて使う。 けれど、この蔦と細剣の組み合わせは、どこかで見た。 それも、王太子アルベルトの周辺で。 ディルク・ヴァルゼンが、机の向こうから低く言った。「王都へ照会しますか」「するわ。ただし、家名をこちらからは書かない」「印の照合のみ?」「ええ。こちらが誰を疑っているか、まだ見せない方がいい」 ルイスは丁寧に写しを取っている。 昨日から何度も失敗し、ようやく蝋の欠けまで含めた写しに近づいていた。彼の手元には、もう三枚ほど練習用の紙が積まれている。「閣下、この写しで足りますでしょうか」 レティシアは受け取り、少し角度を変えて眺めた。「十分よ。むしろ、綺麗にしすぎな
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-26 Mehr lesen