ドアがバタンと閉まった。暁はハッとして我に返り、二階へ上がって寝室の前に着いたが、ドアは内側から鍵がかけられていた。暁は低い声で言った。「星音、開けてくれ。着替えたいんだ」星音は答えない。「このままスーツ姿で峻と会うわけにはいかないだろう。あいつに格好つけてるって笑われる」星音はそれでも無視し続けた。暁は仕方なく、いずれ出てくるだろうと考え、そのままドアの前で待つことにした。十数分ほど経った頃、ようやく中から物音が聞こえた。ドアが開き、星音が姿を現した。目の前で待っていた暁を見ても、その顔には何の表情も浮かんでいない。暁は彼女の顔をまじまじと見つめた。彼女は薄くメイクをしていた。ベースを塗り、マスカラをつけ、リップも引いている。ふっくらとした桜色の唇は、見ていると思わずキスしたくなるほど魅力的だ。透き通るように白い肌がほんのりと赤みを帯び、まるで精巧なビスクドールのようだった。暁はよく覚えていた。幼い頃、星音を見るたびに、この世の人間ではないように思えたものだ。それほどまでに美しく、完璧だった。大人になってからも、周りの連中がおとぎ話のお姫様に夢中になっても、暁はまったく興味を持てなかった。本物のお姫様は、ずっと自分のそばにいるのだから。そんな星音の姿を見ると、この数日間抱えていた不満もやるせなさも、一瞬で吹き飛んだ。暁は歩み寄り、彼女の腕を引いて自分の胸の中へ抱き寄せた。「星音、俺が何をしたって言うんだ?悪かった。だからもう怒らないでくれ。何日もずっと腹を立てていたら、お前の体に障るだろう」星音は身をよじって後ずさろうとしたが、暁の力が強すぎて、まったく突き放すことができない。星音は声を荒らげた。「暁、離して!せっかくのメイクが崩れるじゃない!」暁はそれでも彼女を抱きしめたまま、腕を緩めようとはしなかった。「お前は俺のものだ。そんなにきれいにして、いったい他の誰に見せるつもりだ?家にいる時は、俺のためにこんな風にきれいにしてくれたことなんてないのに」星音は、ふっと抵抗をやめた。あの馴染み深い怒りと無力感が、再び全身を覆い尽くしていく。これまで何度、暁に訴えてきたか分からない。「暁、私は物じゃないの。メイクをするもしないも、全部私の自由よ。誰かに見せるためじゃないわ」
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