星音の言葉に、暁は何も答えなかった。聞き間違いだと思ったのか、しばらくしてから口を開いた。「もう静真の話はしない。さっきは、お前に怒られると思ったから、それで……」「鷹司暁。私たち、離婚しましょう」星音はもう一度、はっきりと告げた。再び、重い沈黙が落ちた。先ほどまでとは違う、張り詰めた沈黙だった。暁のまとっていた空気が一瞬で冷え、星音を見つめる目の奥に怒りがともった。暁はしばらく黙って彼女を見据えた。何かを必死に押し殺したあと、薄く笑った。「分かった。次から離婚を持ち出す時は、俺と二人きりの時にしろ。夫婦のちょっとした駆け引きを、よそで言いふらすな」最近の暁とは、ますます話が通じなくなっていた。何度も同じことがあった。星音の問いには答えず、まるで違う話を返してくるのだ。「ええ、今は二人きりで言ったわ。いつ離婚届に署名してくれるの?夫婦で築いた財産は半分ずつ。分けられないものは、相当額を現金で精算して」星音は、あえて暁の言葉に乗って具体的な要求を突きつけた。悲劇のヒロインのように、離婚するなら何もいらない、身一つで出ていくなどと言うつもりは毛頭なかった。もらえるものを受け取らないなんて、どうかしている。財産分与は法律で認められた当然の権利だ。星音はその権利を行使するだけだった。暁の声がわずかに低くなった。「分ける必要はない。欲しいなら全部やる」「そう。なら、あなた名義の財産を全部洗い出して、私に譲る手続きをして。財産をすべて私に渡すという合意書にも署名して、弁護士に依頼して公正証書にしてもらいましょう」離婚もののショートドラマをよく見ている星音は、こういう段取りだけは妙に詳しかった。暁は口の端を上げた。「いいだろう。財産は全部お前のものだ。俺もお前のものだからな」「そんな価値のないものはいらない」星音は冷ややかに眉をひそめた。「それに、その台詞、ひどく古くさいわ。今のあなたが言うと、余計に安っぽく聞こえる」「……」暁の頬が怒りで引きつった。総資産数千億円超えの上場企業の社長をつかまえて、価値がないとはどういうことだ。暁が望みさえすれば、彼に群がり、莫大な資金を差し出そうとする者などいくらでもいる。それも今ある額の10倍、100倍という規模で。自分という人間を手に入れ
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