いつもなら、コウタはウイスキーの最後の一滴まで自分のテリトリーを守り抜く。だが今夜は違った。「手取川」での疲労と、空腹に流し込んだ度数の高い琥珀色が、彼の理性の壁を内側から溶かしていく。「ふっ……あは。……見て、このコメント。……『コウタ、死ねばよかったのに』……だってさ」コウタが、カナの太ももの熱さに顔をしかめる。「……熱いよ」カナは聞こえないふりをして、グラスを傾けた。 カナの声は低く、どこか楽しげに震えていた。グラスを握る指先がわずかに緩み、モニターを見つめる視線も定まらない。感情を殺して「燃料」を摂取するいつもの彼ではない。酒の力で、剥き出しの虚無が笑いとなって漏れ出している。「……飲みすぎ。だらしないわよ、コウタ もっと飲んだら?でも吐くなら家からでていってよ」カナはコウタの膝の上で、冷めた声を出した。彼女の手元には、まだ半分以上残っている『よわよい 2%』。意識は氷のように澄み渡っている。酔って無防備になったコウタの喉仏の動き、緩んだ口角、自分を抱き寄せる力の加減――そのすべてを、彼女は逃さず記録していた。「……いいだろ。……お前が望んだ通り、世界中から……嫌われてやったんだ。」「あんた好きなやつなんてどこにもいないわよ」 ウイスキーを煽る。ばれたくない世間には。熱い吐息から、濃いウイスキーの香りが漂う。いつもはカナが「デレ」をぶつけ、コウタがそれを「回避」する側。だが今は、コウタの重みが、そのまま彼の「依存」としてカナにのしかかっていた。「……そんなに酔って。……明日、私に酷いこと言われても、泣かないでよね」 カナはコウタの髪に指を潜り込ませ、その頭を自分の方へ強く引き寄せた。スマホの画面には、解析データのグラフが残酷な右肩上がりを描いている。世間を騙し、相棒を壊し、その残骸を愛でる。「……泣くわけ、ないだろ。……俺には、これがあるんだから」コウタは空になったグラスを掲げ、虚空を見つめて笑った。カナはそれに応えず、ただ冷たい瞳で、自分に寄りかかる「壊れかけた相棒」を抱きしめる。2%の冷静さと、40度の狂気。モニターの青白い光に照らされた二人の影は、どちらが支配者で、どちらが隷属者なのか、その境界すらも曖昧に溶かしていった。「……てか、カナごめん……。飲みすぎた……かも……」
Last Updated : 2026-08-15 Read more