「どうしたんですか」 煌は答える代わりに、スマートフォンを糀へ差し出した。 口元は固く結ばれ、頬から顎にかけて強張っていた。先ほどまで糀を見つめていた目にも、もう甘さはなかった。 画面には、ニュース番組の生中継が映っていた。 大きなホテルの発表会場だった。壇上には三人が座っている。中央に若い女性、その片側には白い調理着を着た男性。そして、反対側にいたのは美咲だった。 どうして、あの女がテレビに映っているの? 向かいの店は客から苦情が出て、保健所の確認まで受けていた。それなのに、なぜ、こんな大きなホテルの発表会で、その男性と並んで座っているのだろう。 糀は画面へ顔を近づけた。見間違いではない。美咲は何台ものカメラを前に、当然のように微笑んでいる。 《幻の名店『澄乃』の味を完全再現》 続いて、《澄乃の正統な味を受け継ぐ料理監修者・高橋美咲》と表示された。 糀は息をのんだ。 澄乃。祖母が守り、糀が受け継いだ店だ。 私の店なのに。 その名前が、美咲を「正統な継承者」として紹介する全国放送の画面に、大きく映っている。 頭の奥が、脈を打つたびにガン、ガンと痛んだ。中継の声が、急に遠くなった。 美咲は祖母から料理を習ったことなど、一度もない。 テレビに出ているだけではない。美咲は、祖母の店の名前も味も、自分のものとして売り出そうとしている。 向かいの店がうまくいかず、美咲も少しは懲りたと思っていた。 とんでもない。なんてしつこく、厚かましい女なのだろう。自分ではまともな料理も作れないくせに、今度は祖母の名前まで盗み、テレビの前で後継者を名乗っている。 どこまで人のものを奪えば気が済むのか。 画面下の表示が切り替わり、《九条グランドホテル取締役・九条玲奈》と出た。 字幕が示しているのは、美咲ではない。壇上の中央にいる若い女性だった。 九条玲奈。 老舗ホテルグループ「九条」の令嬢で、ホテルの看板役として旅番組や動画にも出ている女性だ。上品に笑って店を褒め、時には首を傾げて欠点を言う。 玲奈に「少し残念」と言われた小さな店が閉じたことも、糀は覚えていた。ただ、テレビを見る余裕のない日が続いていたため、顔までは覚えていなかった。 九条。 どこかで聞いた名字だ。 記憶をたどり、糀ははっ
آخر تحديث : 2026-10-02 اقرأ المزيد