党吉に案内された先は、城下町の奥にある武家屋敷だった。 門は厚い。庭は広い。安宿とは格が違う。それでも奈世は、門をくぐった瞬間から肩の力を抜かなかった。立派な屋敷ほど、中で何をされるかわからぬ。 「今夜はここに泊まる。俺の主の世話になる」 党吉がそう言った。 「主とは、どなたで」 「今知る必要はない。ときが来れば、自ずとわかる」 はぐらかされた。奈世はそれ以上聞かず、ただ屋敷の造を目に焼き付けた。逃げ道。窓の位置。使用人の数。源次も同じように、こわごわと周囲を見回している。 「姫様、ここは……本物の武家屋敷でござりまするな」 「わかっておる。気を抜くな」 「抜いておりませぬ。膝が、勝手に抜けそうなだけで」 膝を震わせている源次の様子に気づき、党吉が後ろで大笑いした。 「ガッハッハ。馬から落ちなくてよかったな、細い武人。今度は屋敷の敷居で転ぶなよ」 「転びませぬ。転ぶなら、せめて誰も見ていないところで」 「今、俺が見ておるぞ」 「だから転ばぬ、と申しております」 他愛無いやり取りをしているうちに、寝所、厠、湯殿と、一通り案内される。源次と奈世は別室だった。安宿よりは遥かに整っている。 それでも奈世は警戒を解かなかった。広間で食事を振る舞われている際も、湯殿にて肩まで湯に浸かっている間もだ。 (生き返る……などと言うておる場合ではなかろうな) 湯は熱い。身体は温まる。だが、温まったところで安心してはならない。門が開いたのも、屋敷へ招かれたのも、善意ではあるまい。野介があれほど簡単に関所も城門も通した以上、この男たちは最初から何かを知っている。 湯から上がり、部屋に戻る。源次の部屋は隣だった。心もとないついたてなどではなく、厚い壁と閉じた扉がある。それでも奈世は短刀を枕元に置いた。 隣室から、源次の小さな声が壁を隔てて聞こえる。 「……姫様、湯加減はいかがでござったか」 「熱かった。お前は」 「熱すぎまして、飛び退きました」 「お前は湯にも馬にも弱いのか」 「……そういう言い方は酷いでござる」 「戯言だ。お前も得意であろう。言い返してみよ」 「かようなところまで来て、戯言など言う気力も失せたでござる。姫にも殴
Last Updated : 2026-08-29 Read more