ひと悶着の末、朝のルーティーンに出かけた亨を見送ると、真神が御門の中から姿を現した。 亨が近くにいると、真神は活動を酷く制限される為、亨がいない間しか姿を現さない。亨がいると声すら聞こえないのだ。 だから御門は亨が大好きだった。 『昨日の女は中々だったな』 真神は犬がおやつをもらって満足したような顔で御門に話しかけた。「あー。ありゃ相当だったわ。素人にするには惜しい霊力な上、腹ン中真っ黒過ぎてよくないものをわっさわさ引き連れてたな。あれでよく正気を保てるもんだ」 御門は女が忘れていったストッキングを見つけると、指で摘んでゴミ箱に放り投げた。『しかしおかげで足しにはなった。また見かけたらお願いしたいものだ』 すました顔で言っているが、尻尾はぶんぶんと機嫌よく揺れている。 ここひと月ほど付喪神を食っていない真神は、御門の霊力を蝕み始めていた。御門の霊力が尽きると次は命を削られる。 回避する方法は一つだけだった。悪霊を喰らう事。 真神の神力の回復には膨大な霊力が必要になる。 その為、悪霊を食い霊力を集めろと真神が言った時は、世界中の悪霊を食い尽くさないといけないんじゃないかと、気が遠くなった。「付喪神は神ではないが、神と呼ばれるに相応しい霊力の強さだ。強さはバラバラだが概ね1,000体も食えば神力は大方回復するだろうと、日本武尊はおっしゃられた」 真神に取り憑かれた翌日に現れた東雲警視正は、御門の自宅の客間に姿勢よく正座したまま、しれっと言ってのけた。「いただきものですみませんが」 俳優ばりのイケメンの訪問に、御門の母は大喜びで東雲に茶と手土産の羊羹を出す。「いえ――私も好物なんですよ。こちらこそすみません、おでかけのご予定があるのに突然お邪魔して」 御門はその言葉に違和感を覚えた。 今日は母さんは一日中暇だと言っていたはずだ。 しかし、母は笑顔で「いいんですよ。じゃあ私は失礼しますね」と言って出て行ってしまった。 この家には東雲と御門の二人――いや、真神を入れて二人と一匹しかいない。『なるほど。確かに付喪神であればちまちまと悪霊を喰らうより早いな』「その通りでございます。大口真神様」 真神が見え
Last Updated : 2026-08-20 Read more