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All Chapters of 付喪神狩: Chapter 31 - Chapter 33

33 Chapters

人形編 29.本体

 篠川家に到着すると、まゆみが出迎えた。 東雲が亨の代わりの助手だと挨拶をすると、一瞬残念そうな表情を見せたが、すぐに元に戻り二人を家の中に迎え入れた。 御門は両手をポケットに入れたまま、家の中に上がると「まゆみちゃん――」と、まゆみの背中に声をかけた。「何?」 振り返ったまゆみに、御門はいたずらっぽい笑みを浮かべると、ポケットから鍵を取り出してまゆみに手渡した。「とーるちゃんさ、今朝家ですっころんで足捻っちゃってさ。なーんか体調悪いみたい。悪いけど様子見てきてくれない?」「え――でも……」 御門から鍵を受け取ると、まゆみは頬を紅潮させながら、戸惑っているように見えた。「今日は俺も遅くなりそうだし、とーるちゃんの知り合いってまゆみちゃんくらいなんだよね。住所は後で送っとくから、平気そうならすぐ帰ってくれていいからさ」 御門の言葉に、「様子を見るだけなら――」と、心なしか嬉しそうに答えると、二人をリビングに案内してさっさと自室に戻り、人形を持った両親がリビングに入ってくるのとほぼ同時に、まゆみは家を出て行った。「何度もご足労いただき、ありがとうございます。――あの、娘の……暁が本当に我々を呪っているのでしょうか」 頭を下げながら真理子が御門に尋ねた。「呪いなんかじゃねーよ。言ったろ、生きる事への執念がすげーんだよ。あんたらの娘は」 東雲は隣で柔和な表情を崩さず、茶を飲んでいる。「――どういうことですか」 篠川が気色ばむと、御門は二本立てた指を篠川に向けた。「茶番はいいんだよ――思った通り、本体はあの女だな」 そう言って御門は早口で「急急如律令」と唱えると、篠川は御門の霊力に縛られ動けなくなった。「この――」 さっきまで涙ぐんでいた真理子は、手元にあった雑誌を御門に投げると、60歳を目の前にした中年とは思えない素早い動きで御門に襲い掛かった。「天霊霊地霊霊――我が元に来越し給え」 東雲が隠し持っていた人形の呪符をかざすと、呪符は錫杖を手にした御門ほどの大きさの鬼神の姿に変わった。 鬼神は襲い来る真理子の攻撃を錫杖でいなすと、錫杖を振りかざし真理子の体を打ち付ける。 式神が攻撃
last updateLast Updated : 2026-08-21
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人形編 30.真名

「高天原に神留坐す神漏岐神漏美の命以ちて皇親神伊邪那岐の大神筑紫日向の橘の小門の阿波岐原に禊祓ひ給ふ時に生坐せる祓戸の大神等諸々禍事罪穢れを祓い給ひ清め給ふと申す事の由を天つ神地つ神八百万神達共に聞食畏み畏みも白す」  東雲がまゆみを引き付ける間に、御門は祓詞を読み上げた。 御門の体から真神が姿を現す。 真神はその目にまゆみを捉えると、東雲を飛び越えてまゆみの左肩に喰らいついた。「大口真神――」 まゆみはニヤリと笑うと、微動だにせずその牙を受け止めた。「亨さんの霊力はお前を抑えると聞いたけど――事実のようね」『そう思うか――』 真神は不敵に笑うと、いつの間に背後に回っていたのか、まなみの体は御門に抱きかかえられた。「返してもらうぜ――とーるちゃんの霊力」 そう言うと、御門は抱きかかえたまゆみの眉間を人差し指で押さえつけた。「天の瓊矛以て国を鎮む――顕現せしませ――宵!」「お前!なんでその名前を」 術はまゆみの体を縛りあげ、霊力が御門の指を伝って流れ出していく。 御門を振り払おうと体を動かすが、御門の力は強く、体から御門の指に霊力が流れ出すを止められない。「まさか真名を持ってたとはな」 御門はそう言うと、まゆみの肩に嚙みついた。 まゆみの白い皮膚が裂け血が滲む。血液と共に霊力が更に御門の体に流れ込んでいく。亨の霊力を感じ、御門は立てた歯をよりまゆみの肩に食い込ませた。「離せ!私のものよ!――」 急速に失われる霊力を感じ、まゆみは手に持っていたナイフを御門の足に突き立てた。「御門君!」 東雲が叫ぶと同時に、真神がまゆみの肩に再び牙を立てた。今度はその体を貫くと、まゆみの体から黒い靄が立ち、人の形
last updateLast Updated : 2026-08-21
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人形編 31.名付け

「名前っつーのはさ、存在を縛るわけよ」 亨が向いたりんごを食べながら、御門は説明をした。「名をつけることで存在を認める。言い返すと名前ってのは存在そのものとも言える。だから名を知ると呪う事ができる。――昔の人間が名を明かさなかったのはそういうこった」 御門が語った篠川夫妻から聞き出した話は、亨の想像を超えていた。 暁が産まれて1年が過ぎた頃、夫婦はある占い師に出会った。 占い師は娘の身を案じる夫婦に、もう1人子供を作り、その子供に戸籍の名とは違う名前をつけるよう言った。 そうする事で産まれた子の生命力が姉の弱い魂を補うだろうと。そして、その名は家族以外が知る事の無いよう、誰にも言ってはいけないとも。 そうして、それから2年後に夫婦は再び子を授かり、まゆみと名付け、占い師の言った事を思い出し真名を宵と名付けた。「あいつらがつけたのは暁と反対の意味を持つ宵だ。占い師に言われたんだと。近い名をつける事で魂の結び付きはより強固になるってな。とんでもねえ話だわ。生命力を分けるどころか、妹に姉の身代りをさせる呪いだったわけよ」 だが、篠川夫妻は占い師の言葉を覚え違えていたのか、勘違いしたのか、反対の名をつけた。 それにより、呪いの形が歪み、生きたいという執念が強かった暁の魂がまゆみの魂を貪り始めたのだ。 「あいつの生きる執念は凄まじかったからな。その執念と、親が知らずにかけた呪いが混じりあったんだろうな。まゆみは暁に食われたんだ」「そんな――それじゃあまゆみさんは」 亨の言葉に御門は軽く肩をすくめた。「子供の頃から喰われてた。まゆみが好きな事をやらせてもらえたってのは暁がやりたかった事だろうよ。そうやって少しずつ浸食されて暁が死んだっつー5年前には完全に喰われてたはずだ。あれはまゆみ――いや、宵という名を奪った暁だ」 亨は目の前が暗くなるような気分だった。 姉との思い出や両親に蔑ろにされていた悲しい過去を話していたのは暁だったというのか。「気にすんな。奴らは嘘をつくもんさ。特に奴の狙いはとーるちゃんだったからな。取り入るためにはなんでもするさ」 御門の言葉に亨は下を向き、「なんで僕なんですか」と吐き出すような声で尋ねた。「とーるちゃんの霊力は特殊だからねぇ
last updateLast Updated : 2026-08-21
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