All Chapters of お前だけを愛したい〜契約結婚から始まる最後の恋〜: Chapter 11 - Chapter 20

48 Chapters

第11話

隼人は、じっとスマホに届いた彩花からのメッセージを見つめていた。『富橋ひなたという方が、うちのオフィスに来ました。婚約者である私がどういう人か見たかったそうです。どういう人なのか、また聞かせてください』 妙な苛立ちを覚えた。ひなたが彩花の元を訪れて、何かしらのマウントを取ったことは見当がつく。「あいつ、余計なこと……」 大きな溜息をついて、隼人はスマホをデスクの上に置いた。 ドアのノック音が聞こえたのは、そんな時だった。「はい?」 隼人が声をかけると、ドアが開いた。「良かった、まだいた」 屈託ない笑みを浮かべたひなたが入ってきた。「何の用だ?」「用事がないと来ちゃいけないの?」「悪いが、お前みたいな暇じゃないんだ、こっちは」「冷たいね、相変わらず隼人兄ちゃんは」 応接用のソファーに呑気に深々と座るひなたを見て、隼人の苛立ちはますます募っている。「お前、今日彩花の会社に行ったらしいな?」「何? もう隼人兄ちゃんの耳に入ったの? あの女も分かりやすいね、隼人兄ちゃんに告げ口するなんて」 隼人は向かい合うようにして、ソファーに座り込むと、「どういうつもりだ?」「何が」「とぼけるな。俺の婚約者がどんな相手か、わざわざ彩花を調べるようなことして」 数分前の笑顔が嘘のように、ひなたは突然冷たい表情になった。そんなひなたの顔を見て、隼人は思わず警戒した。「あんな女、辞めた方が良いよ」「お前にそんなこと言われる覚えはない。お前に何が分かるんだ」「分かるよ。私はね、あの女よりもずっと前から隼人兄ちゃんのこと見てきたの。あんないつ潰れるか分からない小さい会社の社長なんかと結婚して、隼人兄ちゃんにどんなメリットがあるの?」 彩花を悪く言われたことが、隼人には許せなかった。婚約者のフリだけだったはずが、今や隼人にとって彩花の存在が大事なものになっていることは、自分自身が一番よく分かっていた。「周りにどう言われようが、俺はあいつと結婚する。邪魔する奴は、例え相手が誰でも容赦しないからな」 隼人は思わず声を荒げた。「失礼します。社長、どうかされましたか?」 隼人の声を聞いて、千晴が駆け込んできた。「いや……何でもない」「ひなたさん。社長もお忙しいんです、プライベートなことでしたら、改めていただけませんか?」 冷静に諭す千晴を見て、
last updateLast Updated : 2026-09-03
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第12話

『神宮寺ホールディングス』は、隼人の父である神宮寺浩介が一代で築き上げた会社だった。隼人の母佐和子も、浩介の右腕として副社長の肩書きで会社を支えてきた。長男である隼人も専務として働いてきた。 ところが五年前、南米進出のプロジェクトに反対したことがきっかけで、隼人は会社を追われることになったが、結局このプロジェクトは二年もしないうちに失敗し、莫大な損失を被ってしまった。この出来事がきっかけで役員を一新することになり、隼人は代表取締役社長に就任。隼人は両親を飼い殺しにしようと、逆に浩介と佐和子には、取締役会長と取締役相談役という代表権のない取締役に充てた。この人事が、今の隼人を悩ませる新たな要因になるとは、思いもかけないことだった。 この数日で千晴が調べたことを、隼人は社長室で報告を受けた。「やっぱり、間違いないのか?」「ええ。水面下で、会長や相談役が『富橋グループ』と動いているのは、明らかです」 千晴の伝手で、隼人の両親の動向を探ったところ、浩介や佐和子は『富橋グループ』の最高責任者、つまりひなたの父と何度も会っていることが明らかになった。「何としても、阻止しないと……」 隼人はとにかく焦っていた。そして、五年前に自分を会社から追放したことに対しても未だに両親のことを恨んでいることもあり、懲りずにまだ自分を妨害しようとする両親に対して、更に苛立ちを募らせていた。  同じ頃、『富橋グループ』での打ち合わせを終えた浩介と佐和子は、常連である料亭の個室で、優雅な昼懐石に舌鼓を打っていた。これまでビールで蓄積されたような大きな体格の浩介は、昼から祝い酒のように瓶ビールをグラスに注いでは、何度も飲み続けている。「上手く行きそうで、何よりだな」 ホッと溜息をつくように、浩介はネクタイをほどき、鞄の中へしまいこんだ。「上手く行かないと困るわよ。これは、私たちにとって形勢逆転できるかできないかの瀬戸際なんですもの」 少し無理をした厚化粧に煙草を吸う佐和子の姿は、品の無さと傲慢さが滲み出ている。「
last updateLast Updated : 2026-09-04
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第13話

 ここしばらくの間、彩花は『神宮寺ホールディングス』からの出資により、以前よりも多忙な日々を過ごしていた。仕事に精を出す姿は、自分が病気をしていることが嘘のようであると彩花自身も思っていた。 仕事に専念することで何もかも忘れることができると思っていただけに、突然、隼人から届いた、『今晩、会えないか』 というメッセージに、どう返せば良いのか困っていた。「どうかした?」「え?」 彩花の様子に気づいたのか、さくらが声をかけてきた。「もしかして、神宮寺社長?」「うん」「この間来た、あのふてぶてしい幼馴染っていう女のこと、まだ確認できてないんでしょ?」「まあね……。私から、あの女性についてまた教えてくださいって言ったのに、私から神宮寺社長を避けてるなんて、おかしいよね」 苦笑する彩花だったが、さくらはなおも険しい顔のままで、「いずれにせよ、ちゃんと神宮寺社長とは話した方が良いよ。このままだと、彩花だってモヤモヤが残るでしょ」「まあ、そうだよね……」 健太が上機嫌に戻ってきたのは、そんな時だった。「ただいま。あの仕事、取れたよ」「本当!?」「さすが健太」「通訳や案内に、AIシステムを導入したいそうだ。あれだけの大手旅行代理店が導入したら、うちとしても大きな実績になる」「私、早速契約書用意するね」「ああ、頼む」 生き生きと働くさくらと健太の顔を見て、彩花はホッとした気持ちになった。この雰囲気が後押しになったこともあり、彩花は思い切って、隼人に返信のメッセージを送った。『分かりました。今晩、大丈夫です』  一方の隼人は、両親が画策している新規事業についての続報がないことに疑念を抱いていた。秘書の千晴も、新規事業の話が出ていることだけは突き止めてくれたが、それ以上の情報は手に入ることができなかった。 両親に直接確認を取る
last updateLast Updated : 2026-09-05
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第14話

個室居酒屋で隼人と向き合っていた彩花は、あまり目を合わさないようにしていた。これ以上隼人に情を移してはいけないと、自分が一番よく分かっていたからだ。だが同時に、前に隼人と会ってからまだ二十日も経っていないのに、久しぶりに会った懐かしい友人に会うような安心感があるのは何故だろうと、自問自答していた。「やっと、会ってくれたな」「いえ……私もいろいろ忙しくて。幼馴染の女性の方の話は、別に急ぐことでもないと思ったので」「……仕事、順調なのか?」「はい。おかげさまで、神宮寺社長の出資のおかげで、以前より忙しくなりました。感触も依然と違うんです」「感触?」「『神宮寺ホールディングス』に出資をしていただいているという情報があるだけで、前は全然話を聞いてくれなかったところから、手のひらを返したような反応をされたり。もちろん、ネームバリューだけじゃなくて、出資をするという最終的な承認をしてくださった神宮寺社長のおかげだと、私は今でも思っています」「そっか。まあ、彩花の会社が上手く行ってるなら、それに越したことはない。出資したのに業績不振になったら、俺の責任でもあるからな」「もちろん、神宮寺社長に恥をかかせるようなことは致しません」 こういうビジネスな雰囲気で隼人と話した方がやっぱり良いと、彩花は感じていた。婚約者のフリを続けたところで、本当に結婚なんてできるわけがないのだからと、諦めてもいた。 そんな時、隼人がジョッキに余っていたビールを一気に飲み干したことに彩花は気づいた。「神宮寺社長……?」「今日は、ひなたのことをちゃんと彩花に説明しなきゃいけないと思ったんだ」 彩花は黙ってしまった。隼人の口から、どんなことが語られるのかおおよその見当はついている。ひなたの実家の件も、既に把握している。「富橋ひなたは、確かに小さい頃からいろいろと面識がある仲だ。正直、俺はまだ彩花のことは全然知らないのに、あいつがどういう人間なのかのほうが分かってるんだ」「当然ですよ。私た
last updateLast Updated : 2026-09-06
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第15話

 彩花が隼人に会いに行ったことを知り、残業で事務所に残ったさくらと健太の会話の内容はどうしても、二人の件になってしまっていた。「ねえ、あの二人のこと、どう思う」 パソコンで書類を作っていたさくらの手が止まった。「どうって言われてもねぇ……」 健太は難しい顔のまま、仕事を続けている。「このままだと、二人とも幸せにならない気がする。だって婚約者のフリってことはさ、結局結婚はしないわけじゃん。その間振り回される彩花だって可哀想じゃん」「神宮寺社長にとっても、辛いことになるかもしれないよね。もし、神宮寺社長が彩花に気持ちが入っちゃうこともあるだろうしさ」「あの社長に限って、それはないんじゃない」 隼人の全てを知り尽くしているわけではないが、さくらにはどことなく、隼人の人間性を理解していたつもりだった。「だってこれじゃあ、彩花は都合よく神宮寺社長に使われてるだけじゃん。いくらこの会社への出資のためとはいえ、神宮寺社長も何考えてるんだか……」 さくらの声のボリュームは、無意識のうちに大きくなっていく。「あの、幼馴染だっていう人も気になるよね」 呟くように健太が言った。ふとその言葉で、さくらの脳裏に、ひなたが思いがけず事務所に来訪し、ふてぶてしい態度を取っていた出来事が蘇った。「『富橋グループ』の社長令嬢でしょ。そっちのほうがお似合いじゃない。お互い、性格悪い者同士でさ」「さくら……」「とてもじゃないけど、神宮寺社長と彩花は似合わない」 健太がたしなめても、さくらには通じなかった。「婚約者のフリなんて、辞めたら良いんだよ。私だって、そのほうがホッとするよ」 さくらは苛立ちを募らせるように、後頭部を掻いた。  一方その頃、彩花と隼人は、まさに今後の関係について話し合っていたところだった。「今日限りって、どういうことだよ?」 隼人が唖然とも
last updateLast Updated : 2026-09-07
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第16話

 隼人とプライベートな接点を断ってから、彩花は生き生きと仕事に没頭することができた。自分が病気を患っていることが嘘のように。『病は気から』という言葉の通り、自分はいたって健康だと言い聞かせる間もなく、とにかく仕事に夢中になることで、彩花は自分らしく仕事に夢中になっていた。「昨日も遅くまで残業してたんでしょ? 今日は少し早めに帰ったら?」 夕方になり、打ち合わせ先から戻ってきた健太が優しく声をかけてきた。「大丈夫だって。今が一番の勝負の時なんだから。せっかく顧客先も順調に増えてきてるの。手を抜くわけにはいかないでしょ」「けど、休むのも仕事のうちって言うからね。無理に倒れたり、根詰めたりしたら良い仕事はできないと思うけど」「健太、今の彩花に何言っても無駄だよ。仕事のエンジンかかってるんだから。無理をしてる自覚もないみたいだし」「やっぱり、神宮寺社長との件があったからかな」 ふと健太の言葉を聞いて、パソコンのキーボードを打つ彩花の手が止まった。 数日前、彩花はさくらと健太に、神宮寺社長の婚約者のフリをすることを辞めた旨を報告した。「それが良いよ」「彩花のためにはならないんじゃないかって、俺はずっと思ってたからさ」 さくらも健太も、安堵の笑みを浮かべて彩花にそう伝えてくれた。 隼人からしつこく連絡が来ることも予想していたが、それも一切なかった。隼人のことを考えずに仕事をすると、こんなにもスムーズに行くのかと、正直複雑な心境だった。何より、隼人からの出資がなければ、今ほど忙しくはなっていないからだ。 ふと隼人に連絡をしたくなる気持ちになることがあるのも事実。だが、もう自分は婚約者のフリをするわけでもないし、本当に婚約者になれるわけでもない。ふと隼人のことが脳裏によぎることがあったが、何とかそれをかき消して、仕事に向き合おうと彩花は思っていた。 社長室から見える夕陽がゆっくりと沈みかけた頃、隼人はじっとスマホを見つめていた。 彩花からの連絡が来るわけでもなく、だからといって今になって目的もなく連絡するのも、女々しい感じがしてしまう。 ふと大きな溜息をつくと、ノック音がして千晴が入ってきた。「社長、そろそろお時間です」「ああ、今日は会食だったな。忘れてたよ」「彩花さんのこと、気になるんですか?」 険しい顔で、隼人は千晴を見つめた。「あんな
last updateLast Updated : 2026-09-08
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第17話

 彩花がゆっくりと目を覚めると、自分は病院のベッドで眠っていたことに気がついた。窓から射し込む光から、朝であることは分かった。「彩花、気がついた?」 丸椅子に座って様子を見ていたさくらが、顔を近づけて来た。「ここ、病院?」「彩花、会社で倒れたんだよ」「ああ、思い出した。何か、急にめまいがして、頭がクラクラして、息苦しくなって……」「肺炎だってさ」「肺炎……?」 彩花は一瞬、自分の病気がさくらに知られてしまったのではないかと焦った。しかし、さくらの様子から見て、今回倒れたのは、病気とは関係ないことが彩花自身も分かった。「とりあえず一週間、様子を見て入院だって」「一週間か……」「比較的軽い肺炎だから一週間で済むらしいけど、それでも無理しすぎたんだよ」「全然、そんな感覚なかったんだけどなぁ」 彩花はぼんやりと天井を見つめた。何の変哲もない、白い天井だった。「体は正直なんだよ。例え彩花が大丈夫だと思ってても、本当はそうじゃなかった」「ちょっと休めば大丈夫だよ。事務仕事だったら、ここでもできるんだから」「しばらくは絶対安静だって。早く治すには、とにかく今はゆっくり休むことだって担当の先生に言われたの」「そっか……」 仕事ができなくなると、必然と脳裏に隼人のことを思い浮かべてしまう。彩花にとっては、それが苦痛になっていた。「今はとにかく、しっかり安静にしてるんだよ」「けど、私がいなかったら、仕事のほうは……」「ちょっと負担にはなっちゃうけど、彩花の分、私と健太で何とかする。今日の午前中、彩花と私で行く予定だったクライアントとの打ち合わせは、健太が今代理で行ってくれてる」 さくらからの説明を聞いて、安堵したと同時に、申し訳ない気持ちにもなった。自分が入院をしたことで、仕事に穴をあけ、仕事のパ
last updateLast Updated : 2026-09-09
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第18話

 入院中のベッドで、彩花はゆっくりと休んでいた。さくらにしつこく言われたように、今は体を休むことだけを考えていた。 瞼を閉じた彩花は、夢を見ていた。 一等地とも言える都心の敷地に広がる大きな洋風建築の一軒家。レンガ造りの屋敷で、物心ついた頃から、彩花は瓜二つの姉・唯花と共に育った。 母は病気がちで、彩花と唯花が十歳の時に病没。母の再婚相手である継父も、仕事で家を空けることが多かった。必然と彩花と唯花が頼るのは、異母兄にあたる拓也だった。母が亡くなった時、彩花と唯花は小学四年生、四歳上の拓也はこの時中学二年生だった。「お兄ちゃん、ここ分からないんだけど」「ねえ、こっちも教えてよ」「何だ、唯花も彩花もこんな簡単な問題も分かんないのか」 今思えば部活であったり、友達と遊んだりと、拓也もそれなりに自分の世界を持っていたはずだ。しかし、母を失い寂しい思いをしていることを哀れとも思っていたのか、まるで親代わりのように、拓也は彩花と唯花の面倒を見てくれた。  そんな関係性は、彩花と唯花が中学生、拓也が大学生になった後も変わらなかった。ただ唯一変化として起きていたのは、気がつけば彩花が拓也に決して叶うことのない想いを一方的に抱いていたことだった。 ――私とお兄ちゃんじゃ、ダメなんだよね。 親が連れ子同士の再婚なので、血縁的に言えば繋がりはない。しかし、同じ北城家の籍で育っている者同士、結ばれることはないということは、中学生の彩花でも分かっていた。「お兄ちゃん、勉強教えてよ」 その言葉を口実に、彩花は拓也の部屋を訪れていた。かつての拓也の部屋は、漫画や週刊誌などが置いてあったが、大学生になると経済に関する参考書や難しい自己啓発本に代わっていた。この頃から、親の会社を自分で継ぐという覚悟ができていることは、彩花も察しがついていた。「良いぞ、そこ座れよ」「うん」 大学終わりにアルバイトをする時は、帰りが遅いこともあった。しかし、一日に一回、拓也の顔を見ないと、彩花は気が落ち着かなった。 至近距離の拓也に、
last updateLast Updated : 2026-09-10
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第19話

 在りし日の唯花の姿は、幻想的に彩花の視界に浮かび上がったかと思えば、ゆっくりと消えていった。「唯花ッ……!」 ハッと彩花が目を覚ますと、そこは病室のベッドの上だった。「大丈夫?」 見舞いに来ていたさくらが、不安そうな顔で見てきた。「さくら……」「今日は仕事早く終わらせたの。だから、ちょっと様子見に来ようと思ってさ」「ありがとう……」「彩花、今唯花って言ったよね?」 さくらの表情が曇ったことに、彩花は気づいた。「唯花が、夢に出てきたの」「明後日、命日だもんね」「覚えてくれてたんだ」「当たり前じゃん。あの日私、唯花と遊ぶ約束してたんだもん」「そうだったね」「けど、約束の時間になっても来なくて、それで家に戻ったら、唯花の話聞いてさ……」 彩花の脳裏に、十五年前の悲惨な出来事が再び蘇る。 呆気なく唯花と永遠の別れをすることになり、『KSインターナショナル』の社長の娘という世間体もあり、継父は唯花の葬儀ですら規模の大きいものにした。 唯花とは直接接点がなく、継父の会社や取引先の人間が義理で弔問客として参列していたことも、彩花は覚えていた。全く知らない人間に見送られる唯花の気持ちはどうなのだろうと、ふと彩花はこの時から継父との距離を感じるようになった。「唯花……」 唯花のクラスメイトも参列する中で、さくらが一番涙を流していたことも彩花は覚えていた。「あの時の光景が、夢の中に出てきてさ……」 呟くように彩花が言うと、さくらも深刻な顔になる。「もしかして、階段の下で唯花が倒れてた時のこと?」「うん……」「階段から落ちた事故死だったもんね」 彩花は黙ってしまった。胸の内に、ずっと引っかかっていたことが未だに取り除けていない。「彩花……?」「本当に、事故死だったのかな」「え、どういうこと?」 さくらが怪訝な顔で尋ねてきたので、彩花は意を決して口を開き始めた。「私ね、あの時はいきなり唯花が亡くなって、気持ちの整理もつかなったし、思い出すと辛いから当時の事は記憶から消してたの。でも、さっきの夢で、あの時の光景を見た時、やっぱり私の考えは間違ってないのかもって思うようになって」「何、彩花の考えって……?」「……唯花は、事故死なんかじゃないって」「事故死じゃない……?」 そのまま、彩花は続ける。「うん。私も唯花もね、小
last updateLast Updated : 2026-09-11
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第20話

 彩花の幼馴染である松島ジュリアンが、『ALIVE』の事務所を訪れたのは、彩花の退院を三日後に控えた日のことだった。「ジュリアン? え、ジュリアンでしょ?」 さくらは、当時の面影がある青年の姿にすぐ気がついた。「私よ。小学校の時に同級生だった、藤堂さくら」「ああ、さくらちゃん。唯花と彩花と仲が良かった」「そうそう。どうしたの、ジュリアン。まあ、座ってよ」 さくらは応接用のソファーに、ジュリアンを促した。彼の来訪は、さくらを懐かしい気持ちにさせた。「前に、あるパーティーで彩花に会ったんだよ」「ああ、彩花から聞いた。神宮寺社長と一緒だった時でしょ?」「そうそう。まさか彩花が神宮寺社長と婚約してるなんて、僕も知らなくてびっくりしたんだよ」 彩花と隼人の件は話さないほうが良いと思い、さくらは曖昧に頷いた。「あの時、僕、彩花のことを間違えて『唯花』って呼んじゃったんだよね」「え……?」「僕、知らなかったんだよ。唯花が亡くなったこと。彩花に聞いてびっくりした」「ああ、ジュリアンは小学校までしか同じじゃなかったもんね」 彩花とはそのまま地元の中学校へ一緒に進学したが、ジュリアンは両親の仕事の都合で、中学入学のタイミングで海外へ行ったことを、さくらは思い出した。連絡先も知らなかったので、さくらにとっては、ジュリアンとの再会は十三年ぶりだった。「唯花のお墓参りに行こうと思ってね。本当はお盆に行きたかったんだけど、ちょうど仕事で海外に行ってたんだ」「ジュリアンは、両親の仕事継いだんだ」「うん。昨日日本に帰ってきてね。唯花のことが気になってたから、彩花に聞いたら分かるんじゃないかと思って、それで来たんだよ」「そっか。彩花、今入院しちゃってるんだよ」「え、入院?」 ジュリアンは驚いたように前のめりになったが、さくらは苦笑して、「ちょっと無理が重なって、肺炎になったの。明々後日には退院するから」「そうなんだ」「ちょうど良かった。実は、唯花の命日って、今度の十五日なの。もしジュリアンの予定が合うんだったら、一緒に来る?」「うん、ありがとう」 さくらはジュリアンと連絡先を交換し、唯花の墓参りについてのやり取りを始めた。 彩花が退院をした二日後、九月十五日。唯花の命日にあたるこの日、彩花とさくらは唯花の墓がある寺院を訪れた。「彩花」 ジュリ
last updateLast Updated : 2026-09-13
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