Lahat ng Kabanata ng お前だけを愛したい〜契約結婚から始まる最後の恋〜: Kabanata 31 - Kabanata 40

48 Kabanata

第31話

 彩花は応接用のソファーにジュリアンを案内させ、向かい合うように座った。さくらがすぐに、お茶を運んできた。「ごめんね、突然来ちゃって」「ううん。私は別に大丈夫だよ」 さくらがデスクに座って仕事を始めると、彩花もジュリアンに早速話を振った。「それでジュリアン。私に話って?」「実はさ、ヘッドハンティングの話が出てるんだ」「ジュリアンに? 声がかかるなんて、良い話じゃん」「たださ、それが『KSインターナショナル』なんだよね」 彩花は唖然となり、さくらもパソコンのキーボードを打っていた手が止まった。「うちの実家が、どうしてジュリアンを……?」「じゃあやっぱり、彩花が頼んだわけじゃないんだね?」 彩花にはジュリアンの話の内容が理解できなかった。「当たり前じゃん。それに私は、もう実家とは縁を切ってるの」「そっか……」「ねえジュリアン。今、『頼んだ』って言ったけど、そのヘッドハンティングの話、誰に言われたの?」 怪訝そうに彩花が尋ねると、ジュリアンは一言、「お兄さんだよ」 彩花は思わずさくらと顔を見合わせた。「僕が働いてる会社の前で、待ち伏せしてたんだよ。そこで声をかけられて」 ジュリアンは、拓也との一連の話を彩花に伝え始めた。「『外資系企業とはいえ、ずっとここで働かせて良い人財ではない。良かったら、うちの会社に来ないか』って、お兄さんには言われた」「じゃあお兄さんは、あらかじめジュリアンのことを調べてたってこと?」 デスクからさくらが尋ねてきた。「まあ、今時いくらでも調べることはできるからね。それにお兄さんは、僕が彩花の同級生だってことも知ってたから」 彩花の中で、ますます拓也に対する疑念が強くなっていく。何故いきなりジュリアンを、自分の会社に引き抜こうとしているのか、その拓也の考えが全く分からないが、何かしらの目的がなければこのような行動に出るわけがないと、彩花は考えていた。「何でお兄ちゃんが、ジュリアンに声をかけたのか、私には分からないんだけどね」 そう言ったものの、『KSインターナショナル』を実質的に経営しているのが拓也であり、それを昨晩来訪した隼人が心配していたことを思い出した。「ねえ、『KSインターナショナル』のこと、ジュリアンは何か知ってる?」 ジュリアンは口を閉ざしてしまった。「何か知ってるんだね?」 問
last updateHuling Na-update : 2026-09-23
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第32話

 隼人の両親と、ひなたの父親による新規事業の発表は、投資家や経営者の中で瞬く間に話題となった。ホームページやSNSといった広報も既に準備万端の状態で、記者発表は生配信され、それはホームページのトップから閲覧できるようになっていた。 社長室のデスクで、隼人は千晴に見せてもらったタブレットで、その様子を伺っている。「兄貴ッ……」 勢いよく雅人が入って来た。「お前も聞いたのか、親父たちのこと」「いくら何でも準備が早すぎて、びっくりしたんだ」「今、ちょうど親父たちが会見してるよ」「雅人さんも、よろしければどうぞ」 千晴に促されて、雅人は隼人の後ろまでやって来ると、覗き込むように共に会見の様子を見た。「本日は、『神宮寺ホールディングス』及び『富橋グループ』による共同新規事業の会見にご参加いただき、誠にありがとうございます」 マイクを持った隼人の父・浩介が、悠々と話を続ける。「今回は両社共同による新規事業ではありますが、『神宮寺ホールディングス』及び『富橋グループ』とは一切繋がりのない、新規の株式会社として法人を立ち上げることになります。法人名は『株式会社TJカンパニー』、役員といたしましては、私神宮寺浩介が代表取締役社長、富橋勇夫が代表取締役副社長、そしてこちらの神宮寺佐和子が専務取締役となります」 浩介の紹介のもと、ひなたの父・富橋勇夫、隼人の母・佐和子が、頭を下げる。「先ほど、イメージキャラクターとして女優の園崎麗菜さんが務められると発表があり、ご本人にもご登壇いただきましたが、どのような意図があって起用されたのでしょうか?」 参加していたマスコミ関係者から質問が上がった。 浩介が妻に、合図ともとれる頷きを行った。「それでは、私のほうからご説明させていただきます」 佐和子がマイクを持って、話し始めた。「園崎麗菜さんは、今や国民的女優として大変なご活躍ぶりです。弊社のような新規事業のイメージキャラクターを務めていただくのは、私どもにとっても大変恐縮なことではありますが、弊社オリジナルのアパレルブランドを立ち上げるにあたっては、彼女の起用がますます良い宣伝効果になると考えて、起用させていただきました」 自信満々にカメラの前で話す両親の姿を見て、隼人は無性に腹が立った。「この様子から見ると、会長も相談役も、随分前から動かれてて
last updateHuling Na-update : 2026-09-24
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第33話

 その日、隼人は実家を訪れた。普段は一人暮らしをしている隼人にとっては、久方ぶりの帰省でもあった。両親と同居している雅人にも同行を頼み、兄弟は実家の敷居を跨いだ。 神宮寺家の実家は、都心の一等地とも言うべき場所に建てられた洋風建築の大きな屋敷だった。住み込みの家政婦を雇っているほどで、普段家のことは全て家政婦に任せていることを当然隼人は知っていた。「ただいま」 雅人が広々としたダイニングキッチンへ入ると、隼人もそれに続いてやってきた。浩介と佐和子は、今日の記者会見が無事に終わったことで、二人で牛肉のステーキとワインを口にしながら打ち上げさながら盛り上がっていた。「どうした、兄弟揃うのなんて珍しいじゃないか」 アルコールが回っていることもあってか、浩介は高らかな声を上げた。「もうここには戻ってこないと思ったのに」 母の冷たい視線を感じ、隼人も睨み返す。「何の用だ。お前も飲むか?」 上機嫌な父親の姿に、隼人は苛立ちを隠せない。「親父、よくもそんな呑気な……」 雅人は呆れて反論しようとしたが、隼人が止めた。「親父とおふくろに、どうしても言いたいことがあったんだ」「あら、私たちを会社の隅っこに放り投げたあなたが、まだ言いたいことがあるの?」 佐和子がワイングラスを持ちながら、淡々と言った。「今日の会見、あれどういうことだ?」「どうも何も、ちゃんと話したでしょ。母さんは、お父さんと、富橋社長と共に新規の会社を立ち上げた。別に会社のお金を流用したわけでもないし、あんたに文句言われる筋合いはないわよ」「ふざけるなッ……!」 隼人は声を荒げた。「資本金三千万なんて、そんな簡単に用意できるわけないだろ」「母さんたちにだって、それぐらいの蓄えあるわよ。あんたに代表権奪われるまでは、ちゃんと『神宮寺ホールディングス』のために働いてきたんですから」「けど、役員報酬から少しずつ貯めてたんじゃないのか?」 雅人が言うと、佐和子はケラケラと笑い出した。「役員報酬は、母さんやお父さんがもらったものでしょ。もらったものをどうしようかなんて、私たちの勝手なんだもの。そこまで目くじら立てることないんじゃない?」「そうだぞ。二人とも硬すぎる」 更に酔いが回り、浩介は時折呂律が回らないながらも荒々しくなった。「会社に迷惑を被ったわけじゃないだろ。今回立ち
last updateHuling Na-update : 2026-09-25
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第34話

 両親に啖呵を切ってから、隼人は駅前の繁華街の一角にある居酒屋で、ひたすら中ジョッキのビールを飲んでいた。「兄貴も、随分強くなったな」 後を追ってきた雅人も同席し、隼人に合わせて同じようにビールを飲んでいる。「親父たちがあそこまでクズだとは思わなかった。俺に実権奪われたからって、普通あそこまですか? 『神宮寺ホールディングス』は元はと言えば自分たちで作った会社だぞ。こんな、社内が分裂するようなことを平気でするなんて、よくあんなんで『神宮寺ホールディングス』の看板守ってきたもんだ」 グラスに残っていたビールを、隼人は一気に飲み干した。「明日も朝から出張なんだろ? あんまり飲み過ぎると、明日に影響出るぞ」「これぐらい大したことない。数時間もしたら、すぐに醒める」 隼人は不器用に、テーブルの隅に置かれていたタブレットで、ビールを追加した。「お前も何か飲むか?」「じゃあ、俺もビール」 隼人はタブレットでビールを二杯注文した。 やがて店員が中ジョッキのビールを運んでくると、隼人はテーブルの上の一品料理に箸もつけず、ジョッキの半分までビールを一気に飲んだ。「これから、お前はどうするんだ?」 目が少しうつろになりながら、隼人は弟を見つめた。「どうするって?」「このまま、俺と一緒に『神宮寺ホールディングス』に残るのか、親父たちの会社に行くのか」「兄貴は、俺に残ってほしいと思うか?」「どういうことだ?」「親とあんなふうになってる兄貴だ。これ以上人間不信になったら、俺を追い出すようなこともあるんじゃないかと思ってさ」「お前がよっぽど『神宮寺ホールディングス』に損害を被ることをしなければ、俺は追い出さない。これ以上、俺の周りにいる人間との関係性を壊したくないんだ」 隼人はふと小さく呟いた。「兄貴、まだ彩花さんのこと好きなんだな」 その名前を言われ、隼人は激しく動揺した。もし彩花との関係が良好だったら、今日のような事件があっても、何かしらのアクションをしてくれるに違いない。だが現実的にそれがないということは、やはり今の彩花はもう何の感情も抱いていないのだろうと、半ば諦めていた。 昨日彩花は、さくらと共に隼人の両親とひなたの父親が出席した新規事業立ち上げの記者会見の様子を見ていた。隼人の胸中が穏やかではないことを、彩花は既に察していた。ビジネスと
last updateHuling Na-update : 2026-09-26
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第35話

「え、さくら本気でそんなこと言ってる?」 自分の代わりに、中間報告会のために隼人と会うことをさくらから名乗り出たことは、彩花にとって驚きを隠せない瞬間だった。「このままじゃ、彩花だって辛いでしょ?」「それは、まあ……」 さくらはニコッと笑い、「大丈夫。淡々と、今の収益について報告だけしたら、すぐに帰って来るから」「……ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」 彩花はさくらに深々と頭を下げた。 一週間後、さくらは久方ぶりにビジネススーツスタイルになり、『神宮寺ホールディングス』を訪れた。これまでは彩花が対応していただけに、さくらにとって初めての来訪だった。「『合資会社ALIVE』の藤堂と申します」 受付で確認を取ってもらい、さくらはそのまま会議室へと向かった。会議室には既に隼人と千晴、そして数名の役員たちが待機していた。「失礼します」 さくらは会議室に入った途端、その空気を察した。『何故彩花ではないのか』と心の中で思っていることが、全員顔に出ている。「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。『合資会社ALIVE』の藤堂です」 さくらが一同に向かって挨拶をしている途中、いきなり隼人が、「彩花……じゃなくて、北城社長はどうした?」「北城は体調不良のため、二日前から休んでおります。本来ならば北城がこの場に来て、出資に対しての中間報告をすべきとは思いますが、『合資会社ALIVE』は北城と私ともう一名の社員による共同経営を取っております。なので本日は、私も『ALIVE』の代表として出席しておりますことを、ご承知いただければと思います」 ここで弱腰になってはいけないと考えたさくらは、淡々と話しながらも主張した。その言葉で、隼人が露骨に嫌な顔をしたことを、さくらは見逃さなかった。 ――分かりやすい人なんだから。 半ば呆れながらも、さくらはそのまま続けた。「では、まずはこちらの資料をご覧ください」 さくらは用意してきたホチキス止めの報告書を鞄から出すと、その場にいる全員に配布した。「この資料をもとに、順番に説明をいたします。まずは表紙めくって一ページ目、出資後から本日に至るまでの収支報告になります」 それからさくらは、資料を見ながらひたすら淡々と報告を進めていく。途中で役員の口から出た質問にも、丁寧に対応していった。 そして全ての報
last updateHuling Na-update : 2026-09-27
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第36話

 中間報告会を終えたさくらは、つい三十分ほど前に言われた千晴の言葉が頭から離れないまま、会社に戻るタクシーに乗車していた。後部座席から、ぼんやり外を眺めている間、彩花と隼人のことをずっと考えていた。『初めて心の底から好きになった人だと思います』という千晴の言葉は、妙に説得力を感じており、あながち間違ってはいないとさくらは思っていた。 今日の隼人の態度も含め、さくらは隼人に決して良い印象を抱いてはいなかった。口が悪く態度も横暴な彼が、『初めて心の底から好きになった』という相手が、我が親友である彩花なのかと思うと、彩花から五年前の出来事を聞かされたこともあり、あの二人は本来結ばれるべき相手なのかもしれないと、さくらの心情に変化が訪れていた。 「ただいま」「お帰り、中間報告会ありがとうね」 さくらの帰社と同時に、ソファーで横になっていた彩花が起き上がった。「休んでたの?」「うん、ちょっとめまいがしちゃってね。けどもう大丈夫。少し横になったら、良くなったから」 無理に明るく振る舞う彩花の顔を見て、さくらは複雑な気持ちになった。「あのさ、彩花」「どうしたの?」「……神宮寺社長に、病気のこと、やっぱり伝えた方が良いよ」「急に何を言い出すかと思ったら……」 彩花は苦笑してごまかした。「今日の中間報告会、何とか報告すべきことはちゃんと伝えたけど、神宮寺社長は不機嫌だったよ」「どうして?」「決まってるじゃん。彩花がいなかったから」「そうかな……」「『北城社長はどうした?』って言われた。何だったらその前に、一瞬『彩花』って呼んでたし」「そっか……」 彩花はふと隼人のことを思っている、と呟くような小さい声になった彩花を見て、さくらは確信した。「彩花が今日の報告会に出席してたら、神宮寺社長ももう少し機嫌良かったかもね。でもしょうがない
last updateHuling Na-update : 2026-09-30
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第37話

 繁華街の一角にある小さなバーのカウンターで、その夜隼人は一人でウイスキーのロックを飲んでいた。ここ数日の間に募らせていた苛立ちは、酒の力を借りなければ発散できなかった。 一つ目が、両親のことである。別会社を立ち上げ、事実上の競合他社となった両親の振舞いが、隼人には許せなかった。イメージキャラクターを務める園崎麗菜との婚約もそうである。両親という呪縛からは逃れられないのかと、己の立ち位置にもまた隼人は苛ついていた。 もう一つが、彩花のことである。今日行われた出資に対する中間報告会にも、彩花は顔を出さず、共同経営者である友人を代理に立てた。何故そこまでして自分を避けているのか、その理由も分からないため、モヤモヤが残る。「隣、良いですか?」 その声に、隼人は聴き覚えがあった。いや、いつも聞いている声だ。振り向くと、千晴が立っていた。「どうしたんだよ」「車は会社に止めてきました。今日は電車使って帰りますから」 送迎で使っているハイヤーは、普段千晴が運転をしており、実質千晴の通勤用の社用車という扱いだった。今日は仕事終わりの送迎を頼まず、一人でタクシーを使ってこの店まで来たので、千晴が来訪してきたことに、内心隼人は驚いていた。「お前も飲むのか」「だから、電車使って帰ると申し上げたんです」 千晴はバーテンに、キュラソーを使ったカクテルを頼んだ。「これから、どうされるんですか?」 千晴が質問をしてくる。「何が?」「婚約のことですよ」「スムーズに行くんだったら、苦労しねえよ」 ペースを早くして、隼人は飲み続けていく。気がつけば、グラスの中は空になり、バーテンに同じものを注文した。酔いが回ってきて、隼人の目は虚ろになり始めている。全身の血流が早くなり、心臓の鼓動も激しい。大きく息を吸い込みながら、次の酒を待っている。「……社長のことを支えられるのは、私しかいません」 ボソッと呟くように千晴が言った。「今、何か言ったか?」 隼人が尋ねた。周囲の音にかき消され、千晴の言葉が隼人には聞こえなかった。「いえ、何でもありません」「そっか」 バーテンが運んできた酒に、隼人は再び口を付けた。アルコールが入ると冷静な判断ができなくなる自覚はあったが、それでも隼人は一つの選択肢が頭に浮かんだ。「……親父たちの言う通り、結婚したほうが良いのかもな」「社
last updateHuling Na-update : 2026-10-01
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第38話

 健太が出張から戻ってきて、彩花にとってはさくらや健太と共にまたいつもの日々を過ごしていた。二人に心配されながらも、何とか彩花は今の自分の役割を果たそうと、パソコンの画面と向き合っていた。「彩花、大丈夫?」「平気だって。健太がいない間も、何とかできたんだから」 心配する健太をよそに、彩花は笑顔で微笑んだ。「ケロッとしてたよ、彩花は。ずっとそのままでいてほしいぐらい」 さくらがふいにそう言うと、彩花も健太も黙ってしまった。彩花自身も、これから残された時間が具体的にどれぐらいか分からないだけに、ぼんやりと不安を抱くこともある。しかし、さくらや健太と仕事をしているこの瞬間があればこそ、自分の人生はいつ終わっても良いという覚悟もできていた。 彩花のスマホに着信があったのは、その時だった。彩花はスマホの画面に映る『宮辺千晴』という文字を見て、怪訝な顔になる。「はい、もしもし」 滅多にかかってくることのない千晴からの着信に、彩花は出た。そんな彩花の表情に気づいたのか、さくらと健太は様子を伺うように彩花を見ている。「ごめん、ちょっと出てくる。すぐ戻るから」 彩花は鞄を持って、飛び出していった。  先ほどの電話で指定された喫茶店に、彩花はやってきた。テラス席で、既に来ていた千晴がコーヒーを飲んでいた。「お待たせしました」「いえ、突然お呼びしてすいません」「今日、お仕事なんじゃないですか?」 千晴は普段秘書として、隼人と共に行動をしている。今日も隼人が一緒だと思っていたが、そんな彩花の心を読んでいたのか、電話越しで先に『私一人です』と彩花は伝えられていた。「仕事はありますが、今日は社長がいらっしゃらないので」「けど……社長秘書なら、一緒に同行されるんじゃないですか?」「今日、休んでるんです、社長」「休み?」「表向きは体調不良ですが、本当は二日酔いなんです」 彩花は呆然となった。あの隼人でも、二日
last updateHuling Na-update : 2026-10-03
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第39話

 怪訝そうにこちらを見てくる千晴に対して、彩花は大きく深呼吸をすると、一言、「私、末期の胃癌なんです」「……!」「しかし、神宮寺社長にはお伝えしていません」「まさか、社長を避けてるのは病気のことが」「ええ……」 彩花は小さく頷き、うつむいた。ここまで来たら、もう隠すことはできないと悟った。「治療のほうは、どうされるんですか?」「どうせ助からないのに、無理に治療するぐらいなら、このまま死んでも良いかなと思ったんです。治療をしながら苦しい思いをして最期を迎えるより、仕事をしたまま、つまり生涯現役っていう状態で死ねたら本望と思って」「それでよろしいんですか?」 深刻そうに聞いてくる千晴に対して、彩花は優しく微笑む余裕があった。「構いません。大学時代の親友たちと立ち上げた会社で、最期まで私は仕事をしていたいんです。存続の危機もありましたけど、『神宮寺ホールディングス』の出資のおかげで今は何とか持ちこたえてます。せめて私が生きてる間だけでも、恩返しできるようにしないと」「そのために、命を捨てる覚悟なんですね……」「お願いします、神宮寺社長には私の病気のこと、絶対に話さないでください」 彩花は千晴に深々と頭を下げた。「私、これ以上神宮寺社長を悲しませたくないんです。正直、本気で婚約者になってほしいと言われた時、嫌とは思いませんでした。むしろ、ちょっと嬉しかったんです。けど、このまま婚約したって私はすぐに死ぬ。後に残された神宮寺社長のことを考えたら、やはり一緒にはなれないと思って」「でも、もし病気が悪化して彩花さんが亡くなった場合、嫌でも神宮寺社長にはその訃報は届くことになるんですよ」「婚約者を失う悲しさより、ビジネス的に付き合っていた人間が一人亡くなったと思えば、まだマシだと思うんですよ」「それは……」 彩花は全てを受け入れたように、冷静にコーヒーを飲みながら話を続ける。「病気のことも何もかも神宮寺社長にはお伝えせず、ただ私は突然の病気で亡くなったということにすれば、嫌でもその死を受け入れてもらえます。でも、あらかじめ余命宣告だの病気治療だのなんて話が伝われば、それこそ神宮寺社長はどんな行動を起こすか分かりません」「確かに、社長のことです。あなたのことになれば、仕事そっちのけという可能性も。社長にお伝えしないのは、賢明な判断かと思います
last updateHuling Na-update : 2026-10-04
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第40話

「どんなご用でしょうか?」 突然の義姉の出現に動揺しながらも、彩花は冷静に対処している。このように直接顔を合わせるのは、あの結婚式以来、五年ぶりである。ある意味では政略結婚ではあったが、何故か拓也と天音は、今の隼人の状況とは真逆で、順調で良好な関係で交際が始まり、夫婦となった。何が二人を上手くさせたのか彩花には分からず、当時密かに想いを抱いていた拓也を奪った相手でもあったため、彩花にとっては憎い存在でもあった。「仕事、何とか上手く行ってるんだ」「ええ、まあ……」「そりゃ『神宮寺ホールディングス』の出資を受けてれば、世間のイメージもアップだもんね。よく考えたと思うよ」 本題に入ろうとしない天音に対して、彩花は無性に腹が立ってくる。様子を見る限り、天音が何かを話そうとする気配もない。ただのおしゃべりに付き合ってる暇はないと、彩花は内心ずっと思っていた。「……兄は、元気にしてますか?」「そんな他人行儀になることないじゃない。結婚前は『お兄ちゃん』なんて甘えてたのに」 彩花は天音から目を反らす。これ以上、話には付き合ってはいられない。怒りで震えそうになる腕にグッと力を込める。それでも微かに腕は痙攣するように小さく震えていた。「あの、ご用件は……?」 話を聞いていたさくらが、耐えかねて声をかけてきた。ふと彩花がさくらを見ると、ひなたの来訪時と同様、不機嫌なオーラを解き放っていた。顔も明らかに怒っている。「ああ、そうそう。『神宮寺ホールディングス』の出資だけどさ、今からでも断ったら?」「断る?」「拓也から聞いたけど、彩花ちゃん、神宮寺社長と婚約してるんだって? 正式に発表はされてないけど、パーティーで神宮寺社長が豪語したって話は有名になってるから」「そのことですか……」「何も会社守るために、婚約者になって、出資してもらうこともないでしょ。彩花ちゃんだって、婚約するならちゃんとした人のほうが」 その天音の言葉に、彩花は敏感に反応した。「神宮寺社長が、ちゃんとした人じゃないって言いたいんですか?」
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