噂というものは、廊下を歩かない。 なのに、誰よりも早く廊下の先へ行く。 王宮筆頭実務顧問室の扉に新しい木札が掛けられてから、まだ半月も経っていない。 それなのに、王宮内外ではもう別の名前がついていた。 ――影の王太子妃。 最初にその言葉を耳にした時、クラリスは思わず羽根ペンを止めた。 それは王宮廊下の曲がり角だった。 慈善記録官室へ向かう途中、反対側の柱の陰で、二人の若い貴族令嬢が声をひそめていた。 「だって、王太子妃にはならなかったのに、王太子府にも王妃執務院にも口を出せるのでしょう?」 「王弟殿下も後ろ盾ですもの。実質、王太子妃より上なのでは?」 「怖いわ
Last Updated : 2026-10-06 Read more