母は冷たい安置室に横たわっていた。もう、ぴくりとも動かない。私はその場に崩れ落ちるように膝をつき、母の手を握った。幼い頃、何度も私を抱きしめてくれたその手は、もう氷のように冷え切っていた。「お母さまが亡くなられたのは、昨夜九時頃です。何度かお電話を差し上げたのですが、つながりませんでした。白石さん……おつらいお気持ちは分かります。でも、お腹には赤ちゃんもいますから、どうかご無理はなさらないでください」何か返事をしようと口を開いた。けれど、声にならなかった。昨夜九時、私は悠真に罰として冷凍庫へ閉じ込められていた。そのせいで、母の最期に会うことさえできなかった。昨日目にした光景が頭をよぎった。あの部屋で、悠真は陽菜を抱き寄せ、幸せそうに微笑んでいた。その光景を思い出しただけで、全身の力が抜け、その場に崩れ落ちるしかなかった。悠真を憎みたかった。それなのに、憎む力さえ、もう残っていなかった。母の遺骨が小さな骨壺に納められるまで、私は涙一つ流せなかった。けれど、骨壺を抱きしめた途端、張りつめていた糸が切れたように、私は泣き崩れた。離婚協議書をバッグにしまうと、震える指で、もう二度とかけることはないと思っていた番号へ電話をかけた。「……お願いします。私をここから連れ出してください」電話の向こうで、一瞬息をのむ気配がした。「白石様……ようやくご連絡いただけましたね。航空券のご用意はできております。すぐにお迎えに伺います」家へ戻ると、庭では悠真が念美と並んで花の手入れをしていた。庭一面に植えられているのは、私がアレルギーを起こす桃の木ばかりだった。私は二人の前まで歩いていき、離婚協議書を差し出した。「悠真、私たち――」そこまで言いかけた瞬間、頬を強く叩かれ、そのまま地面へ倒れ込んだ。「お前、どの面下げて帰ってきた!?念美の部屋にネズミを放つなんて……そこまでして念美を傷つけたいのか!」口の中いっぱいに血の味が広がった。「違う……私じゃないの……」そのとき、念美はスカートの裾を摘まみ、何気ない仕草で母の骨壺を蹴り飛ばした。「きゃっ! 澪さん、ネズミだけじゃ気が済まなかったの……? この変な容器の中には何が入っているの? まさか、毒が入っているんじゃないよね?今度は
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