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新婚早々、「夫を一ヶ月貸して」と言われた件
新婚早々、「夫を一ヶ月貸して」と言われた件
Author: 花職人のコマドリ

第1話

Author: 花職人のコマドリ

母は冷たい安置室に横たわっていた。もう、ぴくりとも動かない。

私はその場に崩れ落ちるように膝をつき、母の手を握った。

幼い頃、何度も私を抱きしめてくれたその手は、もう氷のように冷え切っていた。

「お母さまが亡くなられたのは、昨夜九時頃です。何度かお電話を差し上げたのですが、つながりませんでした。

白石さん……おつらいお気持ちは分かります。

でも、お腹には赤ちゃんもいますから、どうかご無理はなさらないでください」

何か返事をしようと口を開いた。けれど、声にならなかった。

昨夜九時、私は悠真に罰として冷凍庫へ閉じ込められていた。

そのせいで、母の最期に会うことさえできなかった。

昨日目にした光景が頭をよぎった。

あの部屋で、悠真は陽菜を抱き寄せ、幸せそうに微笑んでいた。

その光景を思い出しただけで、全身の力が抜け、その場に崩れ落ちるしかなかった。

悠真を憎みたかった。それなのに、憎む力さえ、もう残っていなかった。

母の遺骨が小さな骨壺に納められるまで、私は涙一つ流せなかった。

けれど、骨壺を抱きしめた途端、張りつめていた糸が切れたように、私は泣き崩れた。

離婚協議書をバッグにしまうと、震える指で、もう二度とかけることはないと思っていた番号へ電話をかけた。

「……お願いします。私をここから連れ出してください」

電話の向こうで、一瞬息をのむ気配がした。

「白石様……ようやくご連絡いただけましたね。航空券のご用意はできております。すぐにお迎えに伺います」

家へ戻ると、庭では悠真が念美と並んで花の手入れをしていた。

庭一面に植えられているのは、私がアレルギーを起こす桃の木ばかりだった。

私は二人の前まで歩いていき、離婚協議書を差し出した。

「悠真、私たち――」

そこまで言いかけた瞬間、頬を強く叩かれ、そのまま地面へ倒れ込んだ。

「お前、どの面下げて帰ってきた!?

念美の部屋にネズミを放つなんて……そこまでして念美を傷つけたいのか!」

口の中いっぱいに血の味が広がった。

「違う……私じゃないの……」

そのとき、念美はスカートの裾を摘まみ、何気ない仕草で母の骨壺を蹴り飛ばした。

「きゃっ! 澪さん、ネズミだけじゃ気が済まなかったの……? この変な容器の中には何が入っているの? まさか、毒が入っているんじゃないよね?

今度は私を毒殺するつもりなの!?」

骨壺は地面に落ちて砕け、母の遺骨は土の上へ散らばり、あっという間に土と混ざってしまった。

「やめてっ!」

夢中で駆け寄ろうとした私を、悠真は容赦なく蹴り飛ばした。息が詰まり、内臓が引き裂かれるような激痛に襲われた。

「澪、お前はどこまで最低なんだ」

悠真は割れた骨壺を拾い上げ、そのまま私の額へ叩きつけた。

額から流れた血が頬を伝い、視界まで赤く染めていった。

「お母さん……お母さん……」

私は這いつくばりながら、土に混ざってしまった母の遺骨を必死に拾い集めた。

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