海外の仕事が残っていた秀明は、茉優より遅れて帰国した。だが、たった今飛行機を降りたところで、茉優が入院したと聞き、慌てて病院へ駆けつけたのだ。「お兄ちゃん!」茉優は秀明を見るなり、ぱっと明るい笑顔を見せた。秀明はスーツケースを壁際に置き、大股で歩み寄る。「どうしたんだ?妊娠してるんだから、もっと気をつけないと」茉優は笑いながら答える。「大丈夫よ。ちょっと驚かされただけ。少し休めば平気だから」秀明は眉をひそめた。「誰に驚かされたんだ?」茉優は甘えるように笑う。「もう、誰でもないわ。そんな怖い顔しないで、せっかくのイケメンが台無しよ」隣のベッドで寝ていた航は、尿意を感じて目を覚ました。寝ぼけ眼をこすりながら秀明の姿を認めると、口をとがらせて訴える。「パパ、俺知ってるよ。あの悪い魔女だ。あの人が、茉優おばちゃんをいじめたんだ」「悪い魔女?」秀明は視線を京介へ向ける。京介はこめかみを押さえながら答える。「……夏目真夕だ」航はふんと鼻を鳴らす。「へえ、あの魔女も、『まゆ』って名前なのか。俺のことも怖がらせたんだよ。パパ、あの悪い魔女をやっつけてよ!」茉優はわざとたしなめるような顔をして航を見る。「ほら、航、女性にそんな言い方しちゃだめよ。お行儀が悪いわ」「だって、あの人は魔女だもん。女の人じゃないよ」そのとき、京介のスマホが再び鳴った。画面を確認した京介は、秀明の肩を軽く叩いた。「お前が来てくれたなら安心だ。茉優ちゃんのことを頼む。俺は用があるから、先に家へ戻る」そう言いながら電話に出る。茉優に視線を向けると、彼女が安心させるように微笑み返してくれたので、京介はそのまま病室を後にした。「ああ、今行く。分かった……」篠原家の本邸は、夜遅くにもかかわらず煌々と明かりが灯っている。真夕が警察に通報したことは、篠原家の顔に泥を塗るも同然だ。この界隈に、絶対に漏れない秘密など存在しない。知るべき人間には、すでに知れ渡っている。幸い、マスコミにはあらかじめ手を回してあるため、勝手な記事を出す者はいない。会社の株価やイメージにまで影響が及ぶことはなかった。それでも、篠原家の怒りは収まらない。京介は屋敷に入る前に足を止めた。たまっていた疲労感をぐっと押し殺し、気を取り直して中へ入る。「じいさん、父さん
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