結婚して7年目、夏目真夕(なつめ まゆ)はようやく知った。自分は、夫・篠原京介(しのはら きょうすけ)の初恋の身代わりに過ぎなかったのだ。しかも、その初恋の相手は、京介の兄の女、里中茉優(さとなか まゆ)だ。おまけに、茉優は京介の子を身ごもっているという。けれど、京介は自分が二度と子どもを作れない体になっていることを、まだ知らない。裏切った男なんて、もういらない。真夕は迷うことなく、離婚を切り出した。しかし、京介は頑として首を縦に振らない。眉をひそめ、威圧感のある低い声で問い詰める。「確かに俺は茉優ちゃんを抱きしめたが、それくらいのことで、離婚だと騒ぐのか?お前、結婚を何だと思ってる?俺のことを何だと思ってるんだ。いいか。俺がお前を愛してるからって、図に乗って結婚を軽く考えるのはやめろ。離婚の話は二度とするな。絶対に認めない」真夕は鼻で笑った。愛している?男の言葉なんて、信じられない。数日前、京介の社長室の前を通りかかったとき、ドアが少しだけ開いていた。室内から聞こえてきた会話に、真夕は足を止めた。「京介、茉優ちゃんが帰ってくるんだろ?まだ夏目と離婚しないのか?まさか、本当にあの身代わりを好きになったんじゃないだろうな?」ドアノブにかけた手が、ぴたりと止まる。離婚?身代わり?考える間もなく、室内から京介のかすかな笑い声が聞こえた。「まさか。俺が最初から最後まで愛しているのは、里中茉優だけだ」「だよな」そう答えたのは、京介の親友・須藤豪(すどう ごう)だ。その声には、あからさまな軽蔑がにじんでいる。「あいつはただの身代わりにすぎないだろ」れっきとした妻である自分が、ただの身代わりだと?昨夜まであれほど自分を大切にして、何度も「まゆ」と呼び、耳元で愛を囁いていたあの男が、その言葉を否定するどころか、別の女を愛していると言っている。つまり、京介が愛しそうに呼んでいた「まゆ」も、熱っぽく口にしていた「まゆ」も、深く愛してきた「まゆ」も、すべて「里中茉優」だったのだ。自分はただ都合のいい身代わりにすぎないのだ。あまりの理不尽さに目まいがする。込み上げる怒りが胸の奥を締めつける。心を無数の針で刺されるような痛みに襲われ、顔から血の気が引いていく。「身代わり」という言葉を聞いた京介
続きを読む